太田述正コラム#4200(2010.8.18)
<イスラエルのイラン攻撃論争(その3)>(2010.9.18公開)
 (5)攻撃の確率と時期
 「・・・中東での新しい戦争を始めることがその外交政策の目標ではないところのバラク・オバマが早晩米軍をイランに対して行動するように命令するというような事態は、現時点では、全くもってありえないように見える。
 よって、よりありそうなのは、来春のある日に・・・約100機のF-15E、F-16I、F-16C等のイスラエル空軍の航空機が東に向かってイランへと飛んで行くことだ。・・・
 <私は、約40名の、イスラエルのかつてのそして現在の意思決定者達にインタビューしてきたが、>その大部分の機会に、私は単純な一つの質問をしたものだ。
 近い将来にイランの核計画をイスラエルが攻撃する確率を%で言うとどれくらいか、と。
 全員が答えてくれたわけではないが、来年7月までにイスラエルが攻撃を仕掛ける確率は50%より大きい、ということがコンセンサスとして浮き彫りになった。・・・
 <なぜなら、>イランは、遅くとも、歴とした(breakout)核能力を1年から3年後には保有する<とされているからだ>。
 (歴とした核能力とは、しばしば、意思決定後3ヶ月以内にミサイル搭載可能な核装置を1個以上組み立てうる能力を指す、と理解されている。)・・・
 <(他方、>イスラエルの核の武器庫は、100個を超えるところの、主として2段階水爆装置(two-stage thermonuclear device)から成っており、それはミサイル、戦闘爆撃機、または潜水艦(うち2隻が諜報筋によれば常時ペルシャ湾に配備されている)によって運搬することが可能だ。<)>・・・
 ・・・<だから、>ネタニヤフが欧米による非軍事的諸手段がイランを止めることができるかどうかを見きわめる、忍耐の期間はこの12月で終わる。
 米国防長官のロバート・ゲーツは、6月のNATO国防相会同で、大部分の諜報見積もりはイランが核兵器を製造するまで1年から3年かかると予想していると語った。
 「イスラエルでは、この<1年という>ことを、6月から9ヶ月後、つまりは2011年の3月であると聞いた」とあるイスラエルの政策決定者が私に伝えた。
 「これらの予測に関し、事情に変化が起きないとするならば、それは、我々が年の変わり目頃から、我々がとるべき次のステップについて考え始めなければならないということを意味する」と。・・・
 数週間前、いつにない直截的発言において、アラブ首長国連邦の大使であるユーセフ・アル=オタイバ(Yousef al-Otaiba)は、彼の国は、アスペン・アイディア・フェスティバル(Aspen Ideas Festival)という公開の場で、<それがイスラエルによるものであれ、米国によるものであれ、>イランに対する軍事攻撃(strike)を支持するだろうと私に伝えた。
 彼は、仮に米国が、イランが核の敷居を超えることを許すようなことがあれば、湾岸の小さなアラブ諸国は、自らを守るために、米国の陣営を去ってイランと同盟を結ぶことを選択するだろうとも語った。
 <更に、>「この地域には、仮に米国による、イランに対決するとの保証がなくなれば、イランから庇護してもらおうと<我がちに>駆け出すであろう国がたくさんある」と彼は語った。・・・」
 (6)攻撃シナリオ
 「・・・拡大中東地域を管轄とする米中央軍は、既に米国防省にイスラエルの航空機がその空域を犯した場合にどうするか、伺いを立てている。
 複数の筋によれば、その回答は来ており、打ち落とすなというものだったという。・・・
 イスラエルは・・・ナタンツ(Natanz)のウラン濃縮施設、コム(Qom)の以前の秘密濃縮基地、イスパハン(Esfahan)の核研究センター、そして恐らくはブシェール(Bushehr)でさえもが、イランの他の核計画に係る主要基地とともに爆撃<の対象とすることだろう。>・・・
 第一に銘記しておくべきことは、イスラエルは<それを>一回しか試みることができないという点だ。
 イスラエルの飛行機はサウディアラビア上空を低空飛行してイランで標的群を爆撃し、再びサウディの領域を、・・諜報関係者の間で持ちきりの憶測が信用されるべきであるとすれば、秘密裏のサウディの協力の下で・・恐らくは再給油のためにサウディの砂漠に着陸さえして、イスラエルに戻ってくることだろう。
 これらの飛行機はイスラエルに速く戻らなければならない。
 一つには、イスラエルの諜報機関がイランが即時に<レバノンの>ヒズボラに対してイスラエルの都市群にロケットを撃ちかけるよう命ずるだろうと信じており、イスラエルの防空資源がヒズボラのロケット部隊狩りを行うために必要とされるからだ。・・・
 私は、この問題と取り組んでいる何名かのイスラエルの役人と話をした。
 仮に米諜報機関がイスラエルが攻撃を仕掛ける時間の数時間前にその意図をつかんだらどうするのだ、と。
 「それは我々にとっての悪夢だ」とこれらの役人のうちの一人が私に伝えた。
 「仮にオバマ大統領がビビ<(ネタニヤフの愛称(太田))>に電話をして「我々はあなたがやろうとしていることを知っている。ただちに止めて欲しい」と言ったらどうする?
 我々は止めるのか? <実際、>我々は止めなければならないのかもしれない。
 米国に対しては、我々は自分達の諸計画についてウソをつくことはできない、との決定が既になされている。
 <しかし、>我々は彼等に事前に通報したくはない。
 それは、彼等のためであると同時に我々のためでもある。
 というわけで、我々は一体どうしたらいいのだ?」と。・・・
 イスラエルの計画者達が頭を悩ましているもう一つの問題がある。
 それは、彼等による攻撃が、実際に、遠心分離機等のイランの秘密計画における容易に再確保し難い部分を、顕著な数、破壊したことをどうやって知りうるかという点だ。
 二人の戦略家達が、私に対し、イスラエルは、必要に応じ、仕事を完了するためにコマンド部隊を、破壊の証明を持ち帰るために派遣せざるを得ないだろうと伝えた。
 諜報筋によれば、このコマンド部隊は、北部イラクのクルド人自治地区から出撃するのではないかということだった。
 このコマンド部隊は、危険至極な課題に直面するだろうとも。
 しかし、私が話したある軍事計画者は、イスラエル陸軍は彼等を送り込む以外に手段はないだろうと語った。・・・
 ・・・イラン<の核施設>に打撃を加えることは、イランのレバノンにおける子会社とも言うべきヒズボラによる<イスラエルに対する>全面的報復を誘発する、とイスラエルの諜報機関の役人達は信じている。
 ヒズボラは、大部分の諜報機関の推定によると、直近における、この集団とイスラエルとの間での戦闘があった2006年夏当時にこの集団が保有していた数の少なくとも3倍にのぼる45,000発のロケットを現在保有している。・・・」(A)
(続く)