太田述正コラム#4265(2010.9.20)
<皆さんとディスカッション(続x959)>
<bonkers_blunder>(ツイッターより)
尖閣諸島沖での漁船衝突問題で日中関係が冷え込みそうですが、日本側はどんなスタンスを取るべきなのでしょうか?
China Suspends Contacts as Japan Boat Row Deepens <(ロイター電)>
http://nyti.ms/9BevmN
<太田>
簡単に私の考えをまとめてみました。
1 そもそも「衝突」事件を引き起こしたのは中共当局であると考えられる
「・・・尖閣諸島周辺の領海内で海保が外国籍の船舶に立ち入り検査した事例が平成20年は2件、21年は6件だったが、今年はすでに21件に上る・・・。事件が発生した7日には尖閣諸島周辺に約160隻の漁船が集まり、うち約30隻が領海を侵犯していたことが確認されている。・・」
http://ikiiki.livedoor.biz/archives/52069683.html
2 本件に関し小規模な反日抗議行動が断続的に行われるように中共当局がメディア操作やインターネット操作や警備調整を行って仕向けている
「・・・18日、・・・ 「もういいだろう」。上海の日本総領事館近くで若者ら数十人が抗議行動を始めてから2時間近くたった時、100人近い警官隊がこう呼びかけながら参加者の排除を始めた。反抗する参加者もおり、数人が拘束されたが、抗議は収束した。
北京の日本大使館前でもこの日午前、ネットでの告知を見た若者ら数十人が「船長を返せ」などと叫んだが、当局は二重の警戒線を敷き、迷彩服の武装警察まで出動して市民が合流するのを防いだ。その後、警戒線をかいくぐった市民が合流して約100人が街頭に出たが、05年春の反日デモのように数万人規模になることはなかった。午後には、尖閣諸島の領有権を主張する活動家グループ数十人が大使館前での抗議活動を行った。
遼寧省瀋陽や広東省深センでも小規模な抗議行動やデモがあったが、いずれも短時間で解散した。・・・
この日も、インターネット上の抗議行動の呼び掛けはほとんどが削除され、反日団体のサイトも接続できない状態が続いており、当局が規制している模様だ。中央テレビは柳条湖事件79年に関連した各地の行事は紹介しているが、衝突事件に関連した抗議行動は報じていない。・・・」
http://mainichi.jp/select/jiken/news/20100919ddm002040095000c.html
3 その当面の目的は尖閣諸島をめぐって日中間に領土問題が存在することを日本政府に公式に認めさせることにあると考えられる
かかる中共当局の意向に沿った記事を日経が掲載しました。
日経は、いつ人民日報顔負けの中共当局のプロパガンダ紙になったのか、と揶揄したくなります。↓
「・・・<中国政府の対日>追加措置は政府間交渉の一部延期など小粒のメニュー<だった。>・・・
<しかも、>閣僚級以上の交流停止には「暫定的」との表現をわざわざ加えた。・・・ <とはいえ、>異例ともいえる迅速な抗議表明は、<船長の>拘置延長を想定して対抗措置を周到に準備していたことを感じさせる。・・・
刑事訴追を受ける事態となれば、その後の裁判の行方をみつつ、中国世論が一段と日本への反発を強めるのは必至で、中国政府もさらに対抗措置を打ち出さざるを得ない。・・・」
http://www.nikkei.com/news/headline/related-article/g=96958A9C9381959FE3EBE2E3E08DE3EBE2EBE0E2E3E29494EAE2E2E2;bm=96958A9C9381959FE3EBE2E3E68DE3EBE2EBE0E2E3E29F9FEAE2E2E2
ちなみに、「閣僚級以上の交流停止」は、決して「小粒のメニュー」であるとは言えません。↓
・・・This is the lowest bilateral relations have fallen to since the 2001-2006 term of former Prime Minister Junichiro Koizumi, whose repeated visits to a war shrine in Japan during his tenure angered China.
The two countries halted ministerial-level defense talks for three years from 2003. But even in those tense times, Japan’s foreign minister visited China in 2004 and met Wen. ・・・(AP電)
http://www.nytimes.com/aponline/2010/09/19/world/AP-AS-China-Japan-Ships-Collide.html?_r=1&ref=world
4 (3に関連するが)前原国交相の外相就任が中共当局による(船長の起訴時点ではなく勾留延長時点での)日中閣僚級以上の交流停止措置の背中を押した可能性が高い
ツイッターで、朝方、「どっちもどっちの次の民主党代表候補の岡田と前原、苦手の外相ポストを外れた前者が断然有利に?中共当局に見放されてる前原が日中関係の舵取りができるワケないし、米国のポチの前原が沖縄問題である普天間問題の打開を図れるワケもないから。」とつぶやいたところですが、日中閣僚級以上の交流停止が、(民主党代表の時に軍事的脅威発言で中共を激怒させた)前原外相が辞任ないし交代するまで続く、という最悪の事態を想定しておいた方がいいでしょう。
5 日本政府は船長を起訴し裁判所で国内法に基づいて決着させるほかない
日本の立場からすれば、領海内における2度にわたる公務執行妨害事案(ライブドア上掲)であり、それ以外に選択肢はありません。
なお、単に宗主国米国からだけでなく、インドと東南アジア諸国から、本件に係る日本の対応が注目されていることを忘れてはならないでしょう。↓
・・・The dispute is being closely watched by many other Asian countries?including India, Vietnam and the Philippines?which have territorial disputes with China, and which have concerns about China’s expanding naval power.・・・
http://online.wsj.com/article/SB10001424052748703556604575501483896375018.html?mod=WSJASIA_hpp_MIDDLETopStories
(ガス田問題には触れませんでした。)
6 尖閣(釣魚=Diaoyu)諸島が支那領であるとの中共等の主張の有力な根拠は井上清の著書らしい
「・・・「日本および琉球には1867年よりも前には、中国文献からの引用無しに、独自に釣魚諸島に言及した歴史的文献が1つも無い。・・・
<よって、>釣魚諸島は明朝以来中国の領土である」・・・」
http://j.peopledaily.com.cn/94689/94696/7142418.html
しかし、この↑論理からすると、倭(日本)について、かつて日本には、「中国文献からの引用無しに、独自に・・・言及した歴史的文献が1つも無」かった
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%80%AD%E3%83%BB%E5%80%AD%E4%BA%BA%E9%96%A2%E9%80%A3%E3%81%AE%E4%B8%AD%E5%9B%BD%E6%96%87%E7%8C%AE
のであるからして、日本全土は後漢朝以来支那領であるってことになってしまいます。
井上センセ、悪ーいご冗談を。
<XXXX>
ロバート・クレイギーの『BEHIND THE JAPANESE MASK』のコピー後半部分を送っときました。
(本当は昨日送ろうと思ったんですけど、コピー用紙が切れた)
その他に『太平洋戦争への道 開戦外交史 別巻 資料編』と『断たれたきずな』から追加して資料を送ったのと、安田浩/源川真希編『展望日本歴史19 明治憲法体制』東京堂出版 2002年から木坂順一郎の「日本ファシズムと人民支配の特質」等々を送ってみました。
日本人の多くが持っている歴史観かはわかりませんが、使える所があれば使ってください。
ただ、私としては太田さんもご存知のゴードン・M・バーガーの『大政翼賛会』pp249~252が日本人の多くが持っている歴史観の説明として、そしてどこがおかしいのかの説明としてもしっくり来る気がしますが・・・・・・。
以下、引用。
『一九三○年代における日本の政党の衰退は戦後の歴史研究者によってきわめて重要な出来事と見なされ・・・政党が首相の座と内閣の掌握に失敗したことが、軍国主義と「国際的無法行為」をもたらした重要な原因であったとされてきた。
・・・ある標準的な概説は、政党が支配する内閣から軍部や官僚の内閣への移行は、日本の政治に非常な変化をもたらし、それが太平洋戦争にいたる悲惨な道へ日本を出発させたと記している。
また他の研究者は、一九三二年の政党内閣の終焉が、日本におけるファシズムと軍国主義を強めたと主張している。
「ファシスト・モデル」が日本の場合に適用できるか否かについてはかなりの議論があるが、政党内閣の終焉が軍部の政治支配の増大に多少の関係をもつものであり、日本軍国主義の確立をもたらしたという点では誰もが一致している。
一九二○年代の政党支配のもとでは日本は「平和友好」的であり、次の一○年間には好戦的であったために、日本の対外態度の歴史的変化の説明は「軍国主義者とファシスト」が政党指導者を押しのけて国家の中枢を占めたところにあると考えられてきたのである。
「協調外交」に敵対的な勢力が権力を掌握したことが国内政治における政党の権力維持の失敗と同一のことと見なされ、その結果、日本の侵略の不可避的前提として政党内閣の崩壊を説明する必要を生んだのである。政党内閣の承認のもとでおこなわれた一九三一年の満州侵略は軍国主義者の独自行動によって生じた異例として片付けられる。
このような見解が意味するところは、もし政党が国政の支配を維持し得たならば、日本は一九三七年に中国と戦端を開かなかったろうし、一九四一年に真珠湾を攻撃しなかったろうということである。
このような議論は様々な点で疑わしいが、とくに一九三○年代を通じての政党の重点政策や政治戦略の内容を著しく歪めるものである。
それはまた、・・・一九三○年前後の国際的動向の急変を考慮に入れない議論である。国策決定の中枢は、エリート間調整者としての政党から「非常時」に対処するために国力を動員する専門家としての軍部と官僚の手に移っていったのである。
政党が総理大臣の椅子を支配できなくなったのは、・・・国家の指導者としての諸課題に耐えられないものと判断<された>ことと、新しい国際情勢が政党以外のエリートの権力と影響力の要求を有効で信頼しうるものと思わせたことによるものであった。
・・・一九三一年までには政友会は「協調外交」は日本の安全保障と彼らの政治的立場を阻害するものとして、はっきり否定するにいたっていた。
翌三二年には民政党も政友会の後を追い幣原外交を放棄した。これ以後両党は日本の中国および全アジアへの膨張を繰り返し是認したのである。
・・・<そもそも>一九二○年代に政党が「国際協調」を是認した時にも、彼らの最大の関心は日本帝国の国益の防衛と拡大にあった・・・
・・・≪政党政治家達は他のエリート集団と同じく、日本の東アジア権益の減少と太平洋における日本の防衛の弱体化とは、政策の選択肢としては受け入れられないものとしてみなしていたのである。≫<(≪≫は私が付けた。以下同じ。(太田)>
・・・≪一九三二年以後<も>政党は・・・衆議院を握り、また国民の政治参加の主要な回路を掌中し・・・帝国を崩壊させたような政策の実行を阻止するには十分<な制度的特権を行使できた>。・・・事実政党は、・・・<その制度的>特権を制限しようとする軍部の試みに対しては、しばしば激しく闘い、そして勝利を収めた。≫
テロリズムの恐怖があった・・・ことは事実であるが、・・・<戦時において>日本がいかに支配されるべきかの決定に、重要な発言権を維持していたのである。』
(ゴードン・M・バーガー 『大政翼賛会(PARTIES OUT OF POWER IN JAPAN 1931-1941)』 pp249~252)
安全保障が鍵である所の次著ともコミットする話しであると思いますよ・・。
<太田>
拙著『防衛庁再生宣言』でも≪≫内を引用しています(143、145頁)が、ご指摘のように、バーガーの本を、戦後日本人の抱くおかしな史観・・実は英米のこれまでの通説的史観・・の紹介とその批判を行った本としてもとらえることはできますね。
バーガーのこの種批判は、クレイギーが戦前、既に行っていたものですが、より詳細ですね。
次著で引用するに値するかもしれません。
なお、送っていただいたもの、午前中に届きました。
重ね重ね、ありがとう。
<XXXX>
≫ぜひ今度の10月9日の東京講演(オフ)会にお出まし下さい。≪(コラム#4259。太田)
あ、オフ会にはいつか行こうかなと思ってます・・・・・・とお茶を濁したらダメですか。
人見知りが激しい自分にはハードルが高いっす。
一身独立して一国独立す、と言う事で、一身独立して気が向いたら行こうかとは思ってますが。
<太田>
「一身独立して一国独立す」と言った福澤に関する、次著編集グループ内での議論の一端をご紹介しておきましょう。
<MS>
・・・マクファーレン<について>のコラム<#1403>の下記の箇所において、福澤の目指した近代化が具体的には、アングロサクソン由来の資本主義と自由主義の普及になるわけです。
この文章をベースにアングロサクソン文明とは何か(同シリーズの他のコラムでもよいかも)ということを説明すれば、<次著第5章で>福澤の目指していたものを明らかにすることをができると思います。
「福澤が、(本当はまるっきり異なる)アングロサクソンと欧州とを一括りにして考えていたのは、福澤がわずか三回洋行した・・二回が米国、一回が欧州(イギリスを含む)・・だけであって欧米経験に乏しかったことや、遠くから欧米を俯瞰せざるをえなかったこと、更には、19世紀後半には、欧州にもイギリス由来の産業革命が普及したことから欧州がアングロサクソンに似通ってきていたことから、やむをえないとしつつ、マクファーレンは、福澤が、前近代と近代(実はアングロサクソン文明)の違いを、集団主義的/ヒエラレルキー(階統)社会に対するところの個人主義的/平等主義社会(PP161)・・・、と見事に定式化し、近代化(実はアングロサクソン化)の必要性と必然性を主張しただけでなく、自ら日本の近代化の有力な推進者の一人となり、多大の成果を挙げた、として高く評価します・・・。」
このマクファーレンの福澤分析に比べると、日本人学者の福澤分析は非常に薄っぺらい感じがしますね。・・・
<太田>
それでは、記事の紹介です。
本件で取材を受けた時に、記者に対して、石油会社に防衛省の天下りが一人もいないという話が出て、なぜかを調べてみると面白いのでは、と言っておいたけど、石油業界、全然談合をやってないってことか。だとすりゃパチパチ。↓
「防衛省が毎年一兆円近い武器調達費を支払っている契約高上位二十社に、過去十年間で三百二十人の将官ら幹部自衛官が顧問や嘱託として再就職していることが分かった。三菱重工業、三菱電機、川崎重工業、NECの上位四社だけで百五十五人に上る。天下り数と支払額はほぼ比例しており、「人とカネ」を通じた防衛省と防衛産業の密接な関係が裏付けられた。・・・
武器は生産できる会社が限られているため、随意契約が多いのが特徴だ。・・・
競争入札を通じて燃料を納めている中川物産、新日本石油(現JX日鉱日石エネルギー)、コスモ石油に天下りは一人もいない。・・・
コスモ石油広報室は「競争入札なので天下りは不要」という。
価格設定が不透明とされる随意契約の中に「天下りした人への給料が含まれると疑われても仕方ない」と話す防衛省幹部もいる。」
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2010092002000041.html
高地に住む人は自殺性向が高いが長生きってことか。↓
・・・people living at altitudes of 1,000 meters above sea level or higher were 34 percent more likely to commit suicide than those living below that level in the U.S., and 63 percent in Korea. ・・・
Oxygen makes up 21 percent of the air at sea level, but it drops to 18 percent at the 1,000-meter level. A prolonged stay in a state of mild hypoxia causes mild damage to the brain, and it might trigger depression. ・・・
Meanwhile, Korean towns known for the longevity of their populations such as Gurye and Gokseong in South Jeolla Province and Soonchang in North Jeolla Province are located at high altitudes of 300 to 400 meters. ・・・
http://english.chosun.com/site/data/html_dir/2010/09/17/2010091700859.html
————————————————————–
太田述正コラム#4266(2010.9.20)
<米国人の米外交・安保政策批判(その3)>
→非公開
皆さんとディスカッション(続x959)
- 公開日: