太田述正コラム#4271(2010.9.23)
<皆さんとディスカッション(続x962)>
<Chase>
今般<公開された>・・・内蒙工作<シリーズ>に出てきた、太田さんのいう帝国陸軍の致命的失敗について、まだ正直なるほどなあと素直に実感できないところです。・・・
<しかし、>太田さんの言説に対しては、今後も無意味な批判的読解はやめにして、基本的には丸飲みしてそれを消化する手法で接していきたいと思います。・・・
<太田>
疑問は、その都度ぶつけていただいた方が、Chaseさんのみならず、私にとってもありがたいことですので、どうかご遠慮なく。
<roma_sakamoto>
松本健一著『なぜ日本にアメリカ軍の基地があるのか』という本を見つけました。
http://sankei.jp.msn.com/culture/books/100822/bks1008220840001-n2.htm
対談形式の平易な文章だったので、ななめ読みしてみますと、日本属国論、独立待望論のようなものを唱えており、「おっ!」と思いましたので、購入し、太田さんに感想を送ろうと思ったのですが、家には読んでいない本も沢山あり、本家の太田さんの本が出ることでもありますし、今回は見送りました。
しっかり、読んだわけではないので書評する立場に無いのですが、粗いながらも、気になったポイントは四点。
・ベトナム戦争における韓国軍の派兵が、現在でもベトナム人の韓国へ対するマイナス感情になっている。逃れることができた日本には、憲法九条の恩恵も確かにもあった。
・日本が本当に自主防衛すれば、防衛費がさらに5兆ほどかさむ。(それでも独立を取るべきだ)
・鳩山由紀雄の辺野古県外移設の主張の裏には、日本の自主防衛、独立が頭にあった。戦略として失敗に終わったが、基本は間違っておらず、世論も味方をしなくてはいけなかった。
・日本の自主防衛ということになれば、当然、アジア諸国の反感はある。
太田さんがもし、もう少し、しっかりした感想を聞いてみたい、ということであれば購入しようと思いますが、そんな本お止しなさい、ということであればやめておきます(笑)。
ちなみに、加藤陽子さんの本は読んだ後、すぐに売ったので、どうせなら、太田さんに送れば良かったな、と思いました。
<太田>
お気遣いまことにありがとうございます。
しかし、対談形式だと、典拠が付いていないのでは。
もしそうなら、それだけで興味はありません。
なお、挙げられた4点、仮に正しい要約であるとすれば、すべて不同意ないし首をかしげざるをえないことから、私としては、いずれにせよ、読みむに値しないのではないかと思います。
<Chase>
・・・家庭における諸事情があり、<太田さんの次著>の編集作業にどうしても注力できないことから、(誠に身勝手と恥じ入るところですが)協働作業を降りさせていただきたいと思っております。
昨年から編集を引き受けたにも関わらず、何ら前進できなかったことを誠に申し訳なく感じております。・・・
<太田>
まことに残念ですが、引き続き太田コラムへのご支援ご鞭撻、よろしくお願いします。
どなたか、Chaseさんの後を埋めて、MS、USさんに編集作業でご協力いただける方、いらっしゃいませんか。
名誉有料読者扱いにさせていただきますよ。
<けいc。>
http://www.navytimes.com/news/2009/12/navy_guam_121309w/
グアムの海兵隊移設・海軍基地増強プランの中には空母が63日間寄港できる埠頭を建設する予定もあるんですね。
The berth, plus associated pierside support, would allow a carrier to spend more days in port in Guam, where the military is bolstering its forces in the western Pacific region. The Navy wants to support a carrier as many as 63 “visit days” each year, a jump from the average of 16 days at the existing Kilo Wharf. The existing pier can support carriers, but not for extended periods.
この63日間というのはどのような意味があるんでしょうかね?
いわゆる今まで横須賀で行っていた、帰港してから緊迫した事態に向けて出港する準備をするsurge readiness(緊急展開)をアプラ港でも行なえる態勢を整えるということなのでしょうか?
<太田>
surge readiness
http://www.rand.org/pubs/research_briefs/RB9316/index1.html
の観点からは、現行の16日間を30日間にするのであれば意味があるけど、63日ってのは意味不明ですね。
そもそも、グアムを空母(空母機動部隊?)の母港的に使う計画が米海軍にあるとは承知していません。
よく分からないけど、勘ぐれば、北朝鮮や中共の脅威が顕在化した時に、これら諸国の中距離弾道ミサイルや潜水艦の脅威が取り除かれるまで、空母をグアムに一時避難させられる態勢を築こうというんですかね。
63日間=約2ヶ月間っていう期間、かかる作戦完遂のための所用時間くさいです。
<けいc。>
しかし在日米軍がずらかっていくのに、日本政府が130億ドルの移設費用の半分を負担するのはどうなのでしょか?
The moves are expected to cost $13 billion by the time they are completed in 2020, with the government of Japan providing up to $6 billion under an existing cost-sharing arrangement.
<太田>
仮に、上記の私の「勘ぐり」が正しいとすれば、別段米空母・・いずれにせよ在日米軍ではありません・・が日本からずらかるわけではなさそうです。
それでも、おかしいのは、どうして在沖海兵隊の一部グアム移転のための経費の一部を日本が負担する・・そのこと自体に私は反対している・・はずなのに、空母がらみの経費まで負担しなければならないのかです。
<TA>
「映画評論9:グラン・トリノ」(コラム#4252)についての質問ですが、主人公コワルスキーの「ポーランド系」という設定に、どういう意味が込められているのでしょうか。
映画を見ながら真っ先に浮かんだのは、KYさんのポーランドでの人種差別体験記(コラム#3564)ですが、こういったポーランド人による人種差別がアメリカでの一般的な認識なのでしょうか。
それとも、「米国人一般のポーランド人に対する潜在意識の現れ・・諸大国に翻弄された歴史を持つかよわい民族・・」(コラム#3824)というのがやはり一般的な認識なのでしょうか。「人種差別的でかよわい民族」でも矛盾はありませんが、ひどく違和感を感じます。
<太田>
ご指摘の点は、私も上記コラムで言及しようかと思ったのですが、そんなことをしていると、1回分のコラムに収まりきれなくなるので止めた経緯があります。
私が言及したかったことは、あなたがほとんど代わりにしてくれた感があります。
要するに、人種差別の入れ子構造をイーストウッドは示唆しているわけです。
欧州で弱さの故に差別されてきたポーランド人が、自分達の間にいる異質な弱者を差別してきたのと同じことが、米国が新たな民族を移民として受け容れる度に起こった、と彼は言いたいんですな。
だから、主人公は、ポーランド系であってかつてはスラブ系の移民の一環として米国で差別の対象とされてきたけれど、その彼自身が今度は東南アジアのモン族たる移民を差別視してきたところ、その差別意識を克服する、というストーりーにしたんですよ。
<TA>
ところでこの映画、主人公コワルスキーの最後のセリフが完全に謎で、思わず「はぁ?」と言ってしまったのですが、↓のような事情だったのですね。
「<戸田奈津子>女史の翻訳うんぬんというよりは日本語字幕の表現の限界ということで、<ある人が、イーストウッド演ずる>主人公ウォルトの最後のセリフを例に挙げてくれました。」
「西洋の人なら、なぜウォルトがここでこの言葉をつぶやいたのかすぐにピンとくるのでしょうが、英語がわからず、しかもカトリック信仰に熟知していない日本人には原語を直訳して・・・もわかりにくいでしょう。」
http://grantorino.cocolog-nifty.com/blog/2009/07/index.html#entry-58837785
<太田>
一応カトリック教徒である主人公が、最期の瞬間に「マリア様」と口にしたって何もおかしくないので、私は奇異には全く感じませんでしたね。
皆さんの便宜のために、引用された箇所に引き続くくだりを以下に掲げましょう。
(引用始め)「・・・ここのウォルトの字幕によるセリフは・・・、「ああ、マリア様・・・」となっているのですが、原語では、「Hail Mary, full of grace.」と言っています。
これはカトリックの「聖母マリアへの祈り」=「天使祝詞」という祈りの言葉の冒頭の部分で、ググると「恵みあふれる聖マリア」という日本語訳が一般的のようです。
このセリフには伏線があって、それはギャングのたまり場に行く前にウォルトが教会で懺悔するシーンです。
ウォルトが少々間の抜けた懺悔をした後、神父さんがこう言います。
「神はあなたを許します。天使祝詞を10回唱えなさい」。
このシーンの神父さんの一連のセリフは原語だと・・・、
FATHER JANOVICH:
God loves and forgives you. Say ten ‘Hail Marys’ and five ‘Our Fathers.’
Are you going to retaliate for what happened to Sue?
(Walt says nothing. Father Janovich looks hard at Walt.)
ヤノビッチ神父:
「天使祝詞」を10回、「主の祈り」(主祷文)を5回唱えなさい。
あなたはスーの件で報復するつもりですか?
(ウォルトは何も言わない。ウォルトをじっと見詰めるヤノビッチ神父)
・・・
ト書きにあるように、ウォルトは何も言わず、場面もそこで変わってしまうので、結局教会で祈りの言葉は唱えなかったということになります。
しかし、最後の最後の瞬間にそれが口をついて出たということで、・・・今まで出来なかったウォルトの改悛の言葉だったということになります。
西洋の人なら、なぜウォルトがここでこの言葉をつぶやいたのかすぐにピンとくるのでしょうが、英語がわからず、しかもカトリック信仰に熟知していない日本人には原語を直訳して「恵みあふれる聖マリア」としてもわかりにくいでしょう。
でもここを理解していると、あの場面がより味わい深くなりますよね。
「改悛と赦し」・・・、う~ん、深いゾ、「グラトリ」・・・。・・・」(引用終わり)
私、さすがに、懺悔するシーンが主人公の最期の場面の伏線になっていることまでは気づきませんでした。
しかし、それをTAさんのおかげで知った今、持ち前の天の邪鬼心が頭をもたげてきました。
果たして、主人公は、自分の最期にあたって、「改悛」し「赦し」を乞うたのだろうか、と。
私には、主人公が、「天使祝詞」すなわちマリア様だけを口にして主祷文「主の祈り」すなわち、肝腎の神の方は口にしなかったのはどうしてか、そこまでつぶやく時間がなかったからだけではないのではないか、という気がしてならないのです。
私のとりあえずの解釈は、主人公は、遺産の大部分を上に出てくる神父のカトリックの教会に遺贈することからも、最期の瞬間に一見敬虔なカトリック教徒になったかのように見えるけれど、マリア様って要するにマリア様に主人公の亡くなったばかりの奥さんのイメージをだぶらせているのであり、文字通り敬虔なカトリック教徒であったこの最愛の奥さんのために、彼が最後の感謝のプレゼントを行ったに過ぎないのではないか、というものです。
むしろ、カトリック教会なんて足手まといになるだけで何の役にも立たない代物であって・・現にこの映画の中で、主人公にとっても地域社会にとってもそんな存在として描かれている・・、そんなものを介在させることなしに、どんな人間でも、キリスト的であるところの、自らを犠牲にした利他的行為ができるよ、ということをクリント・イーストウッドは訴えたかったのだ、と解するわけです。
<TA>
太田さんは日本語字幕を「OFF」にして観ているのでしょうが、こういった翻訳についても解説して頂ければ嬉しいです。
<太田>
とんでもない。
映画にはくだけた表現が一杯出てくるし、早口の場合が多いし、英語の映画、字幕なしじゃ私だってつら過ぎますよ。
ただ、字幕付のどんな映画でも、少なくとも1~2箇所は誤訳に気が付きます。
日本では余り字幕批判が行われない、ということなのでしょうね。
でも、「翻訳について」解説できるほど、字幕と原文を照合させつつ映画鑑賞をするとなると、1回鑑賞するだけじゃ無理です。
それに、ト書きだって求めなければならなくもなる。
ちょっと時間的にも気力的にも無理ですね。
<TA>
ところで、「たかじんのそこまでやって委員会」の取材記事、とても楽しみにしております。
「やって委員会」の会員数は未だに謎で、どの程度の影響力があるのかは分かりませんが、他の会員の反応も含め、しっかり拝見したいと思います。
<太田>
年間会費10,000円で現在会員数4,000人という触れ込みでした。
あなたが会員とは!
それでは、記事の紹介です。
尖閣諸島をめぐる日中紛争の記事から。
中共当局、こんなに張り切っちゃって大丈夫なのかね。
人ごとながら、ホント心配しちゃうよ。↓
「北京市当局は23日、同市公安局が実施した対テロ特殊部隊の訓練で、事前に申し込んでいた共同通信など北京駐在の日本メディア2社の取材について「取材スペースに限りがある」(同市新聞弁公室)との理由で認めなかった。・・・」
http://sankei.jp.msn.com/world/china/100923/chn1009231210004-n1.htm
中共の日本観光客、ガタべりに?↓
China’s tourism authorities have asked local travel agencies not to promote travel to Japan amid an increasingly tense territorial dispute between the two countries・・・
http://online.wsj.com/article/SB10001424052748703860104575507473962289634.html?mod=WSJASIA_hpp_sections_china
中共当局、希土類の日本への輸出禁止までしちゃったってさ。
だけど、米国怒るぞー。↓
Sharply raising the stakes in a dispute over Japans detention of a Chinese fishing trawler captain, the Chinese government has blocked exports to Japan of a crucial category of minerals used in products like hybrid cars, wind turbines and guided missiles. ・・・
・・・the initial ban lasts through the end of the month, and that the Chinese government will reassess then whether to extend the ban if the fishing captain still has not been released・・・
Jeff Green, a Washington lobbyist for rare earth processors in the United States, Britain, Canada and Australia, said that China and Japan were the only two sources for the initial, semiprocessed blocks of rare earth magnetic material. If Japan runs out of rare earths from China ? and Japanese companies have been stockpiling in the last two years ? then the United States will have to buy the semiprocessed blocks directly from China, he said.
“We are going to be 100 percent reliant on the Chinese to make the components for the defense supply chain,” Mr. Green said. ・・・
http://www.nytimes.com/2010/09/23/business/global/23rare.html?_r=1&hp=&pagewanted=print
ワシントンポストのウッドワード、またまたお騒がせ本を出版。↓
・・・”Obama’s Wars” marks the 16th book by Woodward, 67, a Washington Post associate editor・・・
The CIA created, controls and pays for a clandestine 3,000-man paramilitary army of local Afghans, known as Counterterrorism Pursuit Teams. Woodward describes these teams as elite, well-trained units that conduct highly sensitive covert operations into Pakistan as part of a stepped-up campaign against al-Qaeda and Afghan Taliban havens there. ・・・
<→米国がパキスタン領内でこんなことまでしてるとはね。無人機による攻撃だけじゃなかったんだな。(太田)>
Afghan President Hamid Karzai was diagnosed as manic depressive, according to U.S. intelligence reports. “He’s on his meds, he’s off his meds,” Woodward quotes U.S. Ambassador Karl W. Eikenberry as saying. ・・・
<→カルザイは躁鬱病だとよ。あちゃー。(太田)>
・・・During an interview with Woodward in July, the president said, “We can absorb a terrorist attack. We’ll do everything we can to prevent it, but even a 9/11, even the biggest attack ever . . . we absorbed it and we are stronger.” ・・・
<→ものすごー勇気ある発言。オバマはホントにエライ!(太田>
In the end, Obama essentially designed his own strategy for the 30,000 troops, which some aides considered a compromise between the military command’s request for 40,000 and Biden’s relentless efforts to limit the escalation to 20,000 as part of a “hybrid option” that he had developed with Gen. James E. Cartwright, the vice chairman of the Joint Chiefs of Staff. ・・・
<→政治の最高指導者はこうじゃなくっちゃ。オバマに二重花マル!(太田)>
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2010/09/21/AR2010092106706_pf.html
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太田述正コラム#4272(2010.9.23)
<ピゴット少将かく語りき(その2)>
→非公開
皆さんとディスカッション(続x962)
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