太田述正コラム#4228(2010.9.1)
<イスラエルのイラン攻撃論争(その6)>(2010.10.1公開)
 「・・・米国の役人達によれば、オバマ政権は、イランの核計画の引き続きの諸問題の証拠を引用しつつ、イスラエルに対し、イランが核兵器への「全力疾走(dash)」と上級の役人達が呼ぶことをやってもそれにはあらあら1年かかるだろうと説得してきた。・・・
 何年にもわたって、イスラエルと米国の役人達は、核爆弾を目がけての容赦ない衝動にかられているのかどうか、そして仮にそうだとして、それを1個製造するのにどれくらいの期間がかかるのかについて議論してきた。
 鍵となる問いは、イラン政府が既存の低濃縮ウラン在庫を兵器品質物資へと転換するところの、一般に「ブレークアウト(breakout)」として知られるプロセスにかかる時間だ。
 イスラエルの諜報要員達は、イランはこのような原爆への競争を数ヶ月で終えることができると主張してきたものだが、それに対し、米国の諜報諸機関は、昨年来、時間はもっとかかると信じるに至っている。・・・
 ・・・米国は国際監視員がイランのブレークアウトへの動きを数週間内に検知するであろうことから、米国とイスラエルが<イラン核施設への>軍事攻撃を考慮するためにかなりの時間を与えられると信じている・・・。
 米国の役人達は、1年前にとは対照的に、イランの核計画は米国政府とイスラエル政府の最高指導者達の間での議論の中心的焦点にはなっていないと言う。
 1人の米国政府の役人によれば、前回、7月初めにイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相がワシントンを訪問した際、イランの核計画は議題中で相対的に低い位置づけだった。・・・
 役人達は、彼等のこの<イラン核計画の>評価(assessments)には潜在的脆弱性があることは認めている。
 <イランが、>ナタンツ(Natanz)近くを含め、国中に掘ったトンネルのどこかに隠されたもう一つの濃縮センターを持っているかどうかという点がその主要なものだ。・・・
 米国の役人達は、イスラエルが特に心配しているのは、やがて、イランの最高指導者<のハメネイ師>が核物資を国中の秘密の場所に分散するよう命じることができ、そうなれば、イスラエルの軍事攻撃がこの計画を顕著に挫きうる可能性が減少してしまうことだ、と言っている。」
http://www.nytimes.com/2010/08/20/world/middleeast/20policy.html?_r=1&hp=&pagewanted=print
(8月20日アクセス)
3 終わりに
 さて、元に戻って、ネタニヤフは、果たしてイラン核施設攻撃を命じるのでしょうか。
 私は、ゴールドバーグの「来年7月までにイスラエルが攻撃を仕掛ける確率は50%より大きい」との予測よりもその確率は高いと考えています。
 いずれにせよ、当面注目すべきは、1つは、今まさに再開されようとしている、米国主催のパレスティナ和平協議の動向です。
 その成り行きに冷笑的なシリアの見方・・オバマとアッバス議長は和平を強く欲しているが、ネタニヤフが乗り気ではないので今回も和平はならない・・
http://www.atimes.com/atimes/Middle_East/LI01Ak01.html
(9月1日)は不思議ではありませんが、私は、コラム#4217で引用したニューヨークタイムスの準社説(OP-ED)
http://www.nytimes.com/2010/08/27/opinion/27indyk.html?ref=opinion&pagewanted=print
乗りであり、和平がなる可能性は否定できないと思っています。
 パレスティナ和平がなれば、ネタニヤフは後ろを気にする度合いをはるかに減らしてイラン核施設攻撃を敢行できるからです。
 当面注目すべきもう1つは、イラクにおける新首相にアラウィ(Allawi)元首相が就任するかどうかです。
 というのは、アラウィは独シュピーゲル神電子版掲載のインタビュー
http://www.spiegel.de/international/world/0,1518,714363,00.html
(8月30日アクセス)
で次のように言っているからです。
記者  :イラクは核のイランと共存できるか。
アラウィ:できるとは思わない。
記者  :イランの核計画をめぐって戦争が勃発すると思うか。
アラウィ:その可能性は極めて高い。
 言うまでもなく、イラクはイスラエルとイランの間に所在する国であり、イラク政府の暗黙の了解が得られれば、イスラエルは、イラク上空を突っ切る最短コースでイランに攻撃機等を飛ばすことが大手を振ってできるようになります。
 いずれにせよ、仮にアラウィがイラクの首相になれなくても、イスラエルがイランの核施設攻撃を敢行した場合にはイランから少なくとも在イラク米軍が報復攻撃を受ける可能性が極めて大きく、そのコラテラルダメージをイラクの一般住民等も受ける可能性があるというのに、次期首相最右翼候補の、しかも「一応」シーア派のアラウィがここまで断言したことは、さぞかしネタニヤフの背中を押したことと推察されます。
(完)