太田述正コラム#4400(2010.11.26)
<人の気持ちが分かる人分からない人(その1)>(2010.12.26公開)
1 始めに
 表記について、最新の研究
A:http://healthland.time.com/2010/11/24/the-rich-are-different-more-money-less-empathy/
(11月25日アクセス)が報じられていたので、最近鑑賞した映画や、最近目にした報道の話を織り込みつつ、そのご紹介をするとともに私のコメントを付したいと思います。
2 最新の研究
 「・・・下層階級の人々の方が上流階級の人々に比べて、研究者達が共感的確度(empathic accuracy)と呼ぶ尺度であるところの、他人の顔からその気持ち(emotions)を読み取るのに長けている。・・・
 下層階級の個々人は、数多の脆弱性と社会的脅威に恒常的に対応しなければならない。
 こういう人々は、社会的脅威ないしは社会的機会が到来しつつあるかどうかを伝えてもらうべく他人に依存する必要があるので、彼らは、他人の感情に鋭敏になるのだ。・・・
 ・・・低い社会経済的階層の人々は、・・・脅威によって規定された(defined)生活を送る。
 彼らは、環境、諸制度、そして他の人々によって脅威を受けている。
 脅威に対して最も適応的な(adaptive)対応は、常に大いに警戒を怠らず、他人に注意深く接し(attend)、<他人と>強力な同盟関係を構築するために協力を促進しようと試みることだ。・・・
 ・・・低い社会経済的地位の人々は、より助力的で気前がよい。
 これは、状況によって増強されるかもしれないものは、単に共感的確性だけでなく、共感そのものであることを示唆している。
 ・・・より脆弱な環境からやってきた人は、諸問題の解決を他人に仰ぐものだ・・・。
 それが、共感を増加させ社会的紐帯を強化する。・・・
 顔の写真を複数を見せて、それぞれにおいて表示されている感情を特定せよと求められると、高卒だけの学歴の人は、大卒の同輩よりもできがよろしい。・・・
 例えば、上役が怒っているかどうかを察知できるかどうかに仕事がかかっている場合は、人は、そんなことを気にする必要のない人に比べて、より、その上役の気持ちを読み取ることに長けようと試みがちなのだ。・・・」(A)
 この研究は、極めて刺激的ですね。
 どうして国や文明は滅びるのか、まで説明できそうではありませんか。
 例えば、こういうことです。
 「権力者は大衆の気持ちが分からなくなり、他方、大衆の側は、そのことを察知し、権力者と大衆は離反して行く。それを奇貨として外国や他の文明が侵攻してきてこの国ないし文明を滅ぼす。或いは、互いに気持ちが分かりあえるところの、大衆の間で紐帯が形成されて行き、やがて大衆の中からリーダーが現れ、大衆を率いて叛乱を起こして国ないし文明を衰亡させたり、乗っ取って新たな国ないし文明を樹立したりする。」
 しかし、そうはならなかった例外がありますね。
 一番良い例が、たまたま一国一文明のケースですが、イギリスと日本です。
 この両者とも、外国や他の文明が侵攻しにくい地政学的位置にあったということがあるわけですが、より重要なのは、この両者の歴代の権力者のほとんどが大衆の気持ちを察知する能力を失わなかった、ということではないでしょうか。
3 例外は確かに存在する
 イギリスや日本において、歴代の権力者のほとんどが大衆の気持ちを察知する能力を失わなかったはどうしてか、を解明するのはまた別の機会にして、ここで確かなのは、上流階級の人で他人の気持ちが分かる人や下層階級の人で他人の気持ちが分からない人のような、例外的な人が、どんな国、どんな文明にも存在することです。
 前者については、昨夜TVで鑑賞した映画『追想』(1956年)に登場するマリア・フョードロヴナ(Maria Feodorovna)ロシア皇太后(実在の人物)、後者については、宮城県石巻市の男女3人殺傷事件の裁判員裁判の一審で死刑判決を受けた同市の無職少年(19)をそれぞれあげることができます。
 それぞれのケースについて、どうして例外が生じたのかを究明してみることにしましょう。
(続く)