太田述正コラム#4410(2010.12.1)
<日進月歩の人間科学(続x17)>(2011.1.1公開)
1 始めに
 表記のコラムが本年7月以来だってことは、人間科学の進歩がこのところ滞っている?
 さて、広義の女性に関わる最新の話題を2つ提供しましょう。
2 働く女性の稼ぎが男性より悪いのはなぜか
 (1)新しい研究結果
 「・・・データが得られるあらゆる国で、同じ仕事に就いていても、女性は男性より稼ぎが悪い。・・・
 ・・・労働市場における、いつ果てるともない男女間不均衡のどの部分が差別が原因でどの部分が女性が子育てのために仕事場から暇を取るのが原因なのか、見定めるのは極めてむつかしい。・・・
 ・・・今週公にされた米国家経済研究局(National Bureau of Economic Research)からの研究論文を含む、学問的経済研究は、次第に、・・・男女差の決してばかにならない原因は、女性が競争的な仕事場を好まないからである、とするものが多くなってきた。・・・」
http://curiouscapitalist.blogs.time.com/2010/11/30/are-women-less-competitive-than-men-explaining-the-gender-gap/
(12月1日アクセス)
 (2)コメント
 かなり詳しく研究(実験)内容が紹介されているので、関心のある方は、上記記事を読んでいただきたいが、この研究結果は争いがたいように思います。
 どうしてそうなのか、を究明するのが今後の課題ではないでしょうか。
3 オキシトシンと母親についての記憶
 (1)新しい研究結果
 「・・・新しい研究によれば、オキシトシンは<これまでそう考えられてきたところの、>「愛の薬」というよりは、他の人との早期の関係に係る経験いかんによっては、愉楽より苦痛を呼び起こすところの、社会的記憶増幅薬なのだ。・・・
 自分の母親との関係を思い出すように求められた場合、その母親が自分を保護してくれ、彼女が自分を好きであった場合は、偽薬を与えられた場合に比べてオキシトシンが与えられた場合の方が、その母親を、より暖かくて愛情が溢れていたように思い出した。
 しかし、彼女が自分を好きであったかどうかについて不安を抱いている者は、偽薬ではなくオキシトシンを与えられた場合は、その母親を、より少なく自分を気にかけてくれ、より自分と距離感があったように思い出したのだ。・・・
 <ただし、このような説明に疑問を呈する見解もある。>
 母親による愛情の注ぎ方(maternal care)に係る現実の経験いかんによって記憶が歪曲されるというより、オキシトシンが投与されると、単により自信がつくだけなのではないかというのだ。
 つまり、オキシトシンは、感情的ないしは言語的記憶ではなく基本的感情に関わる低い部位の脳の領域及びプロセスに影響を及ぼすのだ、と。
 ・・・母親が自分を好きであったかどうかについて不安を抱いている者は[慢性的に]低レベルの不安を感じており、[オキシトシンの影響下で、]彼は、突然、自信がつき、母親に対して、それまでは複雑な感情を抱いていたけれど、今や、正しい思いを口にすることができるようになったというわけだ、と。・・・」
http://healthland.time.com/2010/11/29/love-hormone-oxytocin-enhances-mens-memories-of-mom-%e2%80%94-good-or-bad/
(11月30日アクセス)
 (2)コメント
 私は、このうち、前者の説に説得力を感じますね。
 子供が生まれると、母親には(そして父親にも)オキシトシンが分泌されますが、夫たる父親が、それまで自分に十分愛情を注いでいないと感じていた場合、その感情が増幅される、とすると、どうして子供が生まれると結婚生活が破綻することがよくあるのか(コラム#省略)が説明できるからです。
 それにしても、研究対象が、どうして男性とその母親との関係であって、その逆であったり、男性とその父親、ないし女性とその母親との関係ではないのでしょうね。
 ジェンダーフリーな研究というのは不可能なのでしょうか。