太田述正コラム#4468(2010.12.30)
<映画評論19:ロビン・フッド(その1)>(2011.1.30公開)
1 始めに
駄作である(コラム#4463、4465)と言っておきながら、その映画(英米合作。2010年)
A:http://en.wikipedia.org/wiki/Robin_Hood_(2010_film)
(12月30日アクセス。以下、特に断っていない限り、同じ)を評論の対象にするのはいかがなものかとお叱りを受けるかもしれませんが、駄作でも太田流「ストーリー」評論にかかると、それなりの存在価値が出てくるかもしれません。
まあ結果をご覧いただくとして、そもそも、どうしてこの映画が駄作なのでしょうか。
従来にないロビン・フッド像を無理に打ち出そうとした結果、ロビン・フッド伝説(コラム#3137)のロマンは失われるわ、よく知られているところの、イギリスの危機とマグナカルタの誕生という史実は不自然に歪曲されるわ、ということにあいなったからです。
このシリーズで私が記したことを踏まえつつ、機会があったら、この映画を鑑賞してみて下さい。
2 ロビン・フッド
(1)背景
「ウィリアム征服王が築いたフランス系のアンジュー「帝国」(Angevin Empire)からのイギリスの「独立」」(コラム#96)が、この、史実とロビン・フッド伝説を拙劣に組み合わせた映画の時代背景です。
この映画に登場する、歴史上実在した人々について、まず押さえておきましょう。
善玉、善/悪玉、悪玉、に分けると以下の通りです。
・善玉
アキテーヌのエレアノア(ヘンリー2世の王妃)
B:http://en.wikipedia.org/wiki/Eleanor_of_Aquitaine
ウィリアム・マーシャル(ヘンリー2世、リチャード1世、ジョン、ヘンリー3世の家臣)
C:http://en.wikipedia.org/wiki/William_Marshal,_1st_Earl_of_Pembroke
アングレームのイサベラ(ジョンの王妃)
D:http://en.wikipedia.org/wiki/Isabella_of_Angoul%C3%AAme
・善/悪玉
リチャード1世(イギリス国王)
E:http://en.wikipedia.org/wiki/Richard_I_of_England
ジョン(同上)
F:http://en.wikipedia.org/wiki/John,_King_of_England
・悪玉
フィリップ2世(フランス国王)
G:http://en.wikipedia.org/wiki/Philip_II_of_France
これらの人々は、いずれも単独で演劇や映画の対象になってもおかしくないほど波瀾万丈の人生を送っており、例えば、リチャード1世については、有名な『冬のライオン(The Lion in Winter)』(映画は1968年)
H:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%86%AC%E3%81%AE%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%82%AA%E3%83%B3
があります。
ですから、これらの人々について語ろうとすればきりがありません。
もっぱら、彼らがどうしてこの映画で、善玉、善/悪玉、悪玉、に仕分けられたかを考えることに焦点をあてて、ごく簡単に彼らについてご紹介したいと思います。
–アキテーヌのエレアノアーー
エレアノア(Eleanor of Aquitaine。1122~1204年)・・どういうわけか、日本ではフランス語表記で紹介されることが多い。すなわち、アリエノール・ダキテーヌ=Ali���nor d’Aquitaine・・は、絶世の美女であり、「フランス全土の3分の1にも及ぶ広大なアキテーヌ、ガスコーニュ、ポワチエの女公で、かつては自領の軍勢を率いて<第2次>十字軍に参加したこともある女傑。恋多き女で、フランス王ルイ7世の妃でありながら」自らの意思で離婚し、「アンジュー伯・ノルマンディー公」で、(2年後にイギリス王となる)12歳年下の「ヘンリーと結婚、イギリスに加えて、フランス国土の大半がヘンリーとエレノアの夫婦に帰してしま」います。
彼女は、「ヘンリーに愛人ができると愛想を尽かし、単身アキテーヌに帰ってしまうが、息子たちを煽ってヘンリーに対する反乱を起こさせる。自らもこれに加わるが捕らえられ、かれこれ<16>年近く軟禁状態に置かれ」るが、ヘンリーの死により即位した息子のリチャードが第3次十字軍に参加した際、アンジュー「帝国」の摂政(regent)として息子の留守を預かったという人物です。
彼女は、夫のヘンリー、息子のリチャードと共に、フランスのアンジュー地方のシノン(Chinon)近くの寺院に葬られています。
(「」はH、そしてB、による)
フランス王を捨て去ってイギリス王と結婚し、しかも、その際、イギリス人から見れば、広大な「植民地」まで持参したわけですから、彼女が善玉扱いされるのは不思議ではありません。
蛇足ながら、この映画でエレアノアを演じている女優は、エレアノアの石棺の彫像(effigy)には似ていますが、高齢になっても美貌が衰えなかった(B)とされる彼女のイメージにはそぐわないと思いました。
–ウィリアム・マーシャル–
マーシャル(William Marshal=Guillaume le Mar���chal=Sir William Marshal, 1st Earl of Pembroke。1146~1219年)は、ヘンリー2世、その息子のリチャード3世及びジョン、ジョンの息子のヘンリー3世、という4代のイギリス国王に忠臣として仕えました。
彼は、自己抑制と妥協の人であり、フランス軍やイギリス国内の叛乱者達でさえ、イギリス国王よりもマーシャルの言葉の方を信じたといいます。
彼なかりせば、ジョンの時にイギリスはフランス領になっていた・・より正確には、プランタジネット朝(アンジュー朝)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%97%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%82%B8%E3%83%8D%E3%83%83%E3%83%88%E6%9C%9D
は滅びていたかもしれません。
また、彼は、マグナカルタへの署名者の一人であり、一旦ジョンによって無効とされた同憲章の再確認にも尽力した人物でもあります。
このように、イギリス領土の保全とイギリスのアンジュー「帝国」からの独立に中心的役割を果たしたマーシャルが、善玉扱いされるのも当然でしょう。
(C)
(続く)
映画評論19:ロビン・フッド(その1)
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