太田述正コラム#4478(2011.1.4)
<映画評論20:アビエイター(その1)>(2011.2.4公開)
1 始めに
「NHK-BS2で『アビエイター(Aviator)』見た。オツムの「異常」<(コラム#4473、4475)>な男の映画ですねえ。」と昨夜、Mixiの太田コミュに書いたところです。
言わずと知れた、ハワード・ヒューズの半生を描いた映画です。
この映画、評論の対象にするかどうか、思案していたのですが、「ロビン・フッド」シリーズを書き終えたばかりであるところ、ヒューズの先祖のことを知って、対象にすることに決めました。
A:http://en.wikipedia.org/wiki/Owen_Tudor
(1月3日アクセス。以下同じ)
B:http://en.wikipedia.org/wiki/Catherine_of_Valois
C:http://en.wikipedia.org/wiki/Lady_Margaret_Beaufort
(1月4日アクセス。以下同じ)
D:http://www.foreignpolicy.com/articles/2011/01/02/think_again_american_decline?page=full
E:http://en.wikipedia.org/wiki/The_Aviator
(1月3日アクセス。以下同じ)
F:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%93%E3%82%A8%E3%82%A4%E3%82%BF%E3%83%BC
G:http://en.wikipedia.org/wiki/Howard_Hughes
H:http://en.wikipedia.org/wiki/Owen_Brewster
2 ハワード・ヒューズの先祖
ハワード・ヒューズの母方の先祖は、「オーウェン・テューダー(Owwen Tudor<。1400?~1461年>)・・イギリス皇太后のヴァロワのキャサリン(Catherine of Valois<。1401~37年。イギリス王妃:1420~22年>)の2番目の夫」(G)・・ただし、事実婚・・なのです。
オーウェン・テューダーは、プリンス・オブ・ウェールズと称したこともある、イギリスのヘンリー2世に執拗に刃向かったところの、ウェールズの大領主リス・アプ・グルフィッド(Rhys ap Gruffudd。1132~97年)の娘の子孫であり、それなりの血筋の男でしたが、寡婦となっていたキャサリンの下で働いていてキャサリンに見初められたという人物です。
ところで、どうして、ヒューズの先祖はヴァロワのキャサリンである、という言い方がなされないのでしょうか。
彼女は、フランスのシャルル6世(ヴァロワ朝(注1))の娘であり、イギリスのヘンリー5世(前夫。1387~1422年。イギリス国王:1413~22年。なお、彼の治世は、1337~1453年のいわゆる英仏百年戦争の真っ最中であり、彼はアジンコートの戦い(コラム#1695、2276、3604、4180、4307)の大勝利で名高い。)
http://en.wikipedia.org/wiki/Henry_V_of_England
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%99%BE%E5%B9%B4%E6%88%A6%E4%BA%89
(1月4日アクセス)の王妃であり、かつイギリス(兼フランス王と称した)、ヘンリー6世の母親であり、オーウェン・テューダーに比べて格式が桁違いに高いというのに・・。
(注1)「987年のユーグ・カペー即位以来フランス国王として君臨し続けたカペー朝は、1328年、シャルル4世の死によって男子の継承者を失い、王位はシャルル4世の従兄弟にあたるヴァロワ伯フィリップに継承された。」(ウィペディア上掲)
フランスの王家は、現在では滅亡しているから、ということなのかもしれません。
しかし、オーウェン・テューダー/キャサリン夫妻の孫(長男の子供)は、後にヘンリー7世となるヘンリー・テューダー(1457~1509年。イギリス国王:1485~1509年)・・テューダー朝の創始者
http://en.wikipedia.org/wiki/Henry_VII_of_England
(1月4日アクセス)(注2)・・であり、この子孫が現在のイギリス国王のエリザベス2世やスペイン国王のホアン・カルロス(Juan Carlos)であることを考えると、完全に腑には落ちません。
(注2)これでは、イギリス王家の血筋は一旦断絶しているではないか、と思われるかもしれないが、オーウェン・テューダー/キャサリン夫妻の長男エドムンド(Edmund)の妻のビューフォートのマーガレット(Margaret Beaufort。1443~1509年)は、イギリスのエドワード3世(1312~77年。イギリス国王:1327~77年)の玄孫(=曾孫の子=孫の孫)なので、断絶はしておらず、だからこそ、ヘンリー・チューダーはイギリス国王になれたのだ。
(ウィキペディア上掲及び
http://en.wikipedia.org/wiki/Edward_III_of_England
(1月4日アクセス)にも拠った。)
ちなみに、興味深いのは、オーウェン・チューダー/キャサリン夫妻の次男ジャスパー(Jasper)の子孫が、17世紀に、イギリス内乱後、長男の子孫であるチャールス1世・・その子孫がエリザベス2世ら・・を殺害し、護民卿(Lord Protector)を務めたオリヴァー・クロムウェル(Oliver・Cromwell)である、という点です。
彼が護民卿に推戴された背景には、恐らくこのような点もあったのでしょうね。
さて、この夫妻には、結婚して子をなしたと考えられるところの、子供がもう一人(ただし娘)いることから、ヒューズの祖先は、以上の3人のうちの誰かということになりますが、これについてはどこにも書いてないので分かりませんでした。
(以上、特に断っていない限り、BとCによる。)
だからどうしたって?
恐らくは、ヒューズは、母親からこの祖先のことを何度も聞かされたのではないでしょうか。
この母親を若くして失い、父親が一代で築き上げた石油掘削会社を、父親の死に伴い、これまた若くして受け継いだヒューズでした(G)が、彼は、自分は単に成り上がり者の子供ではない、貴族の血が流れている、という矜持を常に心底に抱いていた、というのが私の見立てなのです。
さて、いささか長すぎた前置きはこれくらいにして、本題に入りましょう。
3 ハワード・ヒューズとは何物か
(1)序
ここで、米国とは何かを、ごく即物的に考えて見ましょう。
「・・・米国は、世界最大の経済、世界の指導的大学群、世界の多くの大企業、を持っている。
米国の軍隊は、競争相手のどれよりも比較にならないくらい強力だ。・・・
米国の企業家的才覚と技術的剛腕との組み合わせは、技術革命をもたらしてきた。
才能ある移民達が引き続き米国の岸辺に群れ集ってくる。・・・
米国は、その(ハリウッドその他の)創造的産業群の全球的魅惑、その諸価値、次第に募る英語の普遍性、そして米国人の抱く夢の魅力、を誇っている。
以上の全てが本当のことだが、一般に考えられているところよりも一層貴重なのは、米国の大学群が恐るべき資産であり続けていることだ。・・・
そして、多くの外国人達が米国人の抱く夢について、魅力を深く覚えるにもかかわらず、世界において、反米感情の深い井戸が存在するのだ。・・・」(D)
この文章の「米国」を、ことごとく「ヒューズ」に置き換えても決しておかしくありません。
つまり、ヒューズは米国そのものを一身に体現した人物である、というのが私の見解なのです。
(続く)
映画評論20:アビエイター(その1)
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