時事コラム
2001年12月28日
太田述正コラム#0008
不審船(続)
昨日、韓国の朝鮮日報は次のように報道しました。
「日本のマスコミによると、防衛庁は不審船の追跡を始める2日前の19日、既に不審船と北朝鮮との間で交信された無線の内容をキャッチしていた。「朝鮮労働党の周波数を使用した」という報道は、日本が北朝鮮の通信内容の“種類”まで完全に把握しているという証拠だ。また、「音声ではなく暗号化された機械音が送出された」というNHKの報道が事実だとすれば、北朝鮮の工作員の暗号システムも把握しているということだ。「交信内容は軍人同士の破壊工作に関する対話だった」という分析結果の報道もあった。 ・・日本は経済大国として知られているが、軍事能力についてはほとんどがベールに隠されている。しかし今回の不審船事件の報道によって明らかになった日本の監聴・分析の能力は、東北アジア全体を完全に手のひらに乗せているかのようだった。」
(http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2001/12/27/20011227000022.html)
これは大変な(ためにする?)買いかぶりというべきでしょう。 論より証拠。以下の報道を思い起こして下さい。
「不審船の電波を傍受したのは海上保安庁への連絡(22日未明)より三日も前だった――関係者によると、米軍の偵察衛星が北朝鮮を出港して日本近海へ向かう不審な船舶を発見し、日本へ通報してきたのは18日。米軍の情報をもとに鹿児島県喜界島にある通信施設で、防衛庁が19日から北朝鮮の朝鮮労働党が使用する周波数の一つに合わせて情報を収集したところ、複数の数字を組み合わせて文字化する特殊な暗号電波をとらえた。交信先は北朝鮮とみられ、乱数表も北朝鮮の工作員が使用するものと合致したため「北朝鮮の工作船」との疑いを強めながら、海上自衛隊の対戦哨戒機P3Cが奄美大島付近を捜索。21日の午後4時半ごろ、発見した。位置を確認したうえで首相官邸や海上保安庁に通報したのは、日付が変わった22日未明だった。」(日本経済新聞27日朝刊)
「鹿児島県奄美大島沖の不審船事件で、不審船が海上自衛隊の哨戒機で目視される以前に、不審船がいた海域で朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)と交信する特殊な電波を防衛庁が傍受していたことがわかった。しかし、防衛庁はこうした情報を首相官邸側に報告していなかった。」(http://www.asahi.com/politics/update/1226/003.html)
「防衛庁は25日、鹿児島県奄美大島沖での不審船の発見から海上保安庁への連絡に至るまで9時間近くを要した理由について改めて発表した。P3C哨戒機が撮影した10枚の写真を海上自衛隊鹿屋基地(鹿児島県)から海上幕僚監部(東京都)に電送するのに約3時間かかり、不審船の疑いが強いと判断するのが遅れた、としている。 説明した防衛庁幹部<は>、・・同機には電送機がなく、いったん鹿屋基地に戻った。写真の画質が悪く、精密モードで送ったが、1枚に50分程度かかった。・・電送途中で、99年3月に能登半島沖で発見された不審船と形状が酷似していることがわかり、位置を確認するため、同機を改めて現場海域に飛ばせた。・・たまたま今回は(操縦士の)機転が利いた。この手の不審船を見逃してきた可能性がある・・と述べた。」(http://www.asahi.com/politics/update/1225/008.html)
(象のオリ等からなる)通信傍受施設や(対潜哨戒機P-3Cや地上支援施設からなる)対潜システムは、もともと在日米軍が設置し、或いは装備していたものを自衛隊が引き継いだものです。いずれについても、その後も米国の世界戦略の一環として、米国の指導の下、防衛庁が日本国民の税金を湯水のように使って整備してきたわけで、能力が高いのは当たり前です。
しかし、このように他律的な整備をしてきたため、傍受情報は米国にリアルタイムで流れている可能性が高い一方、日本の官邸や他省庁には忘れた頃に伝達されるわけですし、対潜システムは完璧に(米国にとっても恐ろしい)潜水艦を探知・撃沈できても、(米国にとってはものの数ではない)水上艦船に関しては、対処するための情報・通信機器などロクに整備をしてきていないという次第なのです。
それにしても、機微にわたる話がよくもまあこんなにリークされるものです。日本の政治家や官僚の秘密保全音痴ぶりはここにきわまった感があります。
世界第二位の4兆円もの巨額の防衛費を支出しながら、日本安全保障の現状は以上の通りなのです。年末の寒風が一層身にしみるというものではありませんか。