太田述正コラム#0011
  日本の政治

 自民党元幹事長の加藤紘一代議士の秘書で、加藤氏の地元山形県で現地事務所代表を務める佐藤三郎氏が建設業者から「口利き料」などを受け取り、加藤氏の政治資金や自分の個人所得(脱税)に充当していた問題が明るみに出て、加藤氏の政治生命が絶たれようとしています。

 私が指摘したいことは三点あります。
 どうして時間がこんなにかかったのか、加藤氏のような人物がどうして有力政治家たりえていたのか、どうして自民党が生きながらえているのか、の三点です。

 まず第一点。昨年の「正論」(産経新聞社)二月号に評論家の屋山太郎氏が「加藤紘一は斡旋利得を政治と心得ている、少なくともそれを保守本流だと思い込んでいる」という厳しい指摘を行い、私自身も拙著「防衛庁再生宣言」(日本評論社。7月)の中で、このくだりを引用しつつ、「このことは、山形県を管内に抱える仙台防衛施設局の局長であった私が、職務上実感したことだ。」と記述したところです(47頁)。また、朝日新聞のサイトは、昨夜、「佐藤・・秘書が・・<「口利き料」などを>・・受け取っていたといううわさがあったことは聞いている」という、山形県の高橋知事の発言を報道しました(http://www.asahi.com/politics/update/0115/004.html)。
 つまり、少なくとも昨年の初めから、日本中で加藤氏をめぐる疑惑を知らない人がいない状況だったにもかかわらず、今回司直の手が入るまで、ジャーナリズムも野党も全くこの問題を追及することなく放置してきたわけです。これは一体どういうことなのでしょうか。

 次に第二点です。これだけ時間的余裕があったにもかかわらず、加藤氏が、佐藤秘書を解任する等の措置を何らとらないまま、佐藤秘書等が稼いでくれた資金を使い、自らの政治的「復権」をめざして全国行脚等にうつつをぬかしてきたことことをどう思われますか。加藤氏は自らの危機管理が全くできていないと言われても仕方ないでしょう。こんな人物が、一昨年11月の加藤の乱の帰趨いかんによっては日本の首相になって、日本の安全保障・危機管理を担う立場になっていたのですから何をかいわんやです。もっとも、加藤氏は防衛庁長官を二度も務めたにもかかわらず、自衛隊が嫌いで防衛庁を蔑視する考えを持っていた(拙著47-48頁)のですから、危機管理感覚がゼロなのは当然というべきかもしれません。

 それにしても、第三点、こんな加藤氏が有力政治家であり続けられた日本の政界だからこそ、自民党がいまだに政権政党たりえていると私には思えてならないのです。
 形式的に言えば、佐藤氏は私設秘書であり、加藤氏が口利きなどに直接関与していなければ、加藤氏に刑事責任はありません。しかし、政治的道義的責任は大きいし、時代はそんな形式論で加藤氏が逃げおおすことを許さないでしょう。
 問題は、加藤氏のような人物が有力政治家の大部分を占める自民党(ただし、加藤氏のように「脇の甘い」有力政治家はめずらしい)に国民がいまだに信任を与えていることです。自民党総裁たる小泉首相は、ご自身はたまたまクリーンかもしれないけれど、自民党の斡旋利得政治(自民党の戦後一貫した経済優先、安全保障・危機管理忘却政策に由来。小泉さんご自身も、実は経済優先、安全保障・危機管理忘却の典型的な自民党政治家)によって支えられ、自民党の延命に力を貸しているという意味で、その罪の重さは加藤氏の比ではありません。そもそも、加藤氏は、山崎現自民党幹事長とともに、YKKと称された小泉さんの盟友であったことを、よもや皆さんお忘れではありますまいね。
 しかし、小泉さんに8割もの支持を与え続けているのは国民です。してみると、(支持政党なし層や野党支持者を含め、)国民一人一人が自らの斡旋利得志向を断罪しない限り、日本の政治、すなわち日本の再生はありえないということでしょう。