太田述正コラム#4586(2011.2.27)
<スムート・ホーリー法(その1)>(2011.5.20公開)
1 始めに
戦前、貿易戦争を起こし、国際情勢を不安定化したとして評判の悪い、1929年の米国のスムート・ホーリー法(Smoot-Hawley Tariff Act)に関する新著、Douglas Irwin ‘Peddling Protectionism: Smoot-Hawley and the Great Depression’ が出たので、まだ二つの書評しかありませんが、それらをもとに、この新著のさわりをご紹介しましょう。
A:http://www.ft.com/cms/s/2/eb6357c0-3d1a-11e0-bbff-00144feabdc0.html#axzz1EXRf5lt3
(2月24日アクセス)
B:http://online.wsj.com/article/SB10001424052748704696304575538573595009754.html
(2月25日アクセス)
C:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%83%A0%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%BB%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%AA%E3%83%BC%E6%B3%95
(2月27日アクセス。以下同じ)
D:http://en.wikipedia.org/wiki/Smoot%E2%80%93Hawley_Tariff_Act
2 スムート・ホーリー法
(1)制定まで
「・・・1913年に連邦所得税が導入されるまで、関税は米国政府の主要な歳入源だった。
だから、米議会においては、貿易が困難になるようなことをしでかさないインセンティブが働いていた。
また、昨今においては、通貨は変動相場制なので、貿易収支の改善を関税で果たしても、そんな成果は通貨が高くなることによってすぐ失われてしまう。・・・
<所得税導入以前と現在のどちらでもない時期に、スムート・ホーリー法は制定されたのだ。>
この法律は、実際に存在した問題を解決することを狙いとするものだった。
1920年代は好景気だったが、穀物価格は下落を続けた結果、1926年から29年の間に、5分の1近くの農場が閉鎖に追いこまれた。
民主党と中西部の共和党は、価格支持と輸出補助金でもって農民達を助けることを求めた。
しかし、スムート<米上院議員>と<ホーリー米下院議員等(D)>彼の仲間達は違う考えを持っていた。
それは、「農業に<工業との>パリティを」というものであり、米国の工業に係る関税措置と同様の関税措置を米国の農場にも導入しようというものだった。
これは誤った考えだった。
そもそも、米国民は、80個のジャガイモのうちたった1個、8,500個の卵のうちたった1個しか輸入していないのだから、輸入関税を上げたところで農業に係る価格を高騰させることができるわけがないのだ。・・・
・・・<しかし、>1930年6月に、この法案は、議会内での画策と投票買収によって通った。
そして、ハーバート・フーバー大統領は、これは「完璧」なものではないと認めつつも、この法案に署名したので、それは法律になってしまった。・・・」(A)
(2)その悪評は誇張されている
「・・・スムート・ホーリー関税の影響は、時として誇張されてきた・・・。
というのも、それは平均関税率を1ドルにつきわずかに6セントくらいしか引き上げなかったからだ。
だから、それは米国と世界の貿易の縮小については、おおむね責任がない。
また、単なる景気後退はもたらしたかもしれないが、それが大恐慌に大化けしたことについても責任はない。・・・」(A)
「・・・スムート・ホーリー法が大恐慌を引きおこしたか、と聞かれたシカゴ大学の経済学者にしてノーベル賞受賞者のミルトン・フリードマンはこう答えている。
「違う。私はスムート・ホーリー関税法は悪い法律であったと思う。それは害を及ぼしたと思う。しかし、スムート・ホーリー関税それ自体が、労働者の4分の1を失業させたはずがない」と。
フリードマン氏自身の著作が示したように、マネーサプライと国内価格が大恐慌中に3分の1減ったが、それは、大部分、金本位制の機能障害と連邦準備制度理事会による不適切な金融政策が原因だ。・・・
スムート・ホーリー関税法が大きなマクロ経済学的インパクトを持たなかったのは、制定された当時は、現在とは違って、米国は国際貿易に対してそれほど開かれてはいなかったからだ。
総輸入額は国内総生産のほんの一部であり、しかも、輸入の3分の2は、(コーヒ、茶といった)消費財と(絹、錫といった)原料だった。
1929年には関税対象品目の輸入はGDPのわずか1.4%でしかなかった。
スムート・ホーリー法は、これら品目の平均関税を38%から45%に引き上げた。
GDPの1.4%に対するこの程度の関税の増加は、それだけでは、大規模な経済縮小を発生させるには十分ではない。」(B)
(続く)
スムート・ホーリー法(その1)
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