太田述正コラム#0020
国際問題をどう見るか 
 私のコラムで国際問題を扱うことも多いのですが、私の国際問題へのアプローチの仕方をご披露しておきます。

 まず第一に、商売柄当然ではありますが、常に日本の安全保障の観点から物事を見ています。その際、軍事の視点を忘れないわけです。これは、日本では圧倒的少数派ですが、国際問題へのグローバルスタンダードな接近法です。(日本でもかつては安全保障・軍事的視点は当然視されていました。武士はいくらサラリーマン化していたとはいえ、軍学と武道を身につけていたのですから、欧米勢力の東漸に彼らが「軍人」として、安全保障上の危機意識を持ったのは当然です。ここから、あの世界史上例を見ない、ダイナミックな時代変革・・明治維新・・がもたらされたと言えるでしょう。)

 第二に、比較文明論的視点からアプローチするよう心がけています。私は米国に留学した際、米国の国際関係論が、(合理的な人間か非合理的な人間かの違いくらいしかない、)基本的に同質の人間を前提にした幾何学のように思えてなりませんでした。小さい時から和辻さんの「風土」や梅棹さんの「文明の生態史観」などの影響を受け、人間の「違い」に敏感な人間に育ったということでしょうか。

 第三に、メディアや文献だけで物事を判断せず、自らの経験を通じて培った「土地勘」に基づいて判断することにしています。私は、幼少の時の海外経験から始まり、現在まで様々な国籍の外国の人々とお付き合いをしてきました。例えば、「印パのにらみあい」を書くときには、約一ヶ月滞在したインド亜大陸の風景、そして私がこれまで出会ったインド人やパキスタン人達を思い起こしながら考えをめぐらします。逆に言えば、こういった「土地勘」の働かない地域の問題については、軽々にものを言うことは慎むということです。

 第四に、そうは言ってもメディアや文献は重要です。文献の方はきりがない話なので、メディアについてですが、「浪人」生活に入ってから、世界のメディアをインターネットで読み、整理するのに毎日三時間ほどかけています。私が必ず目を通すメディアは以下の通りです。
 外国のメデイアは、次の六つ。私の評価の順に並べました。英米のメディアだけなのは、私が基本的に英語しかできないということが大きいのですが、やはり英米のメディアの自由で高い品質は際だっていることによります。

 英ガーディアン:毎日知的興奮をおぼえる鋭い論考を何本も載せています。
 ワシントンポスト:米国の良心と言えるでしょう。
 ニューヨークタイムズ:ルポ記事が臨場感にあふれ、質量ともすばらしい。
 英BBC:世界の出来事を網羅的かつ簡潔に、そして偏見なく紹介しています。
 米スレート(メルマガ):米国のホンネが分かります。ポスト、タイムズだけが米国ではありません。
 米CNN:最も速達性に優れたメディア。落ち穂拾い的に読んでいます。

 日本のメディアも読んでいる(朝日と読売。日経は購読)のですが、もっぱら国内ニュースを追っています。ただし、読売で、たまに国際問題で収穫があることは前に触れたことがありますね。いずれにせよ、この読売を含め、中国関係の報道の「偏向」ぶり(=中国に批判的な記事は一切書かない)には慄然たるものがあります。

 最後に、実はこれが最も重要なのかもしれないのですが、私が「自由」と「法の支配」を尊ぶという価値観を抱いており、国際問題を見るときにも、この価値観のプリズムを通して見ることを心がけているということです。これらはアングロサクソン的価値観ですが、日本の古来からの価値観でもある、と私が考えていることも、多くの方は既にご存じだと思います。