太田述正コラム#4677(2011.4.10)
<トマス・バティとヒュー・バイアス(その3)>(2011.7.1公開
3 トマス・バティとヒュー・バイアス
 (1)トマス・バティとヒュー・バイアス
 本来は、次にヒュー・バイアスについてご紹介すべきなのですが、バイアスだけについて論じたペーパーがないので、ただちに、Bに拠って、この二人の日本での協調行動をご紹介することとしたいと思います。
 ヒュー・バイアスは、41歳の時の1916年に、来日したばかりの47歳のバティと会うことになるのですが、バイアス自身はその2年前に奥さんと一緒に、米国人所有のアジア向け英字紙のJapan Advertiserの編集者になるべく来日していました。
 バイアスは、その後、英タイムス紙とニューヨークタイムス紙の東京特派員を兼ねるようになり、バティの国際法の観点からの日本擁護論を英国や米国の指導層に紹介する役割を担うことになります。
 バイアスは1875年生まれ(バティは1869年生まれ)、農夫の子でスコットランド出身の生粋のジャーナリストでしたが、学究のバティと大変ウマがあいました。
 バティはイギリス人でありつつも、スコットランドとの境近くの出身であり、自由を愛し独立独歩志向のスコットランド人が大好きでしたし、二人はヴィクトリア朝に誇りを持つヴィクトリア朝人としての自覚を共有していたからであり、かつまた、二人ともフェミニストであったからです。
 二人は、アジアの諸国家の中で、日本だけが進歩的な近代国家に進化する能力があるという考えで一致していました。
 また、二人とも日本の朝鮮半島統治を高く評価していました。
 ただし、バイアスは、バティと違って、英国の植民地統治を、原住民を放っておき(leaving people alone)、一定期間保護監督(a period of beneficial tutelage)を提供する点で、より優れている、としていました。(注3)
 
 (注3)BBCは、最近の記事において、英国の植民地統治の評価について、以下↓の見解で代表させている。
 「・・・英国人達が1947年にインドを去った時までに、彼等は、この亜大陸にいくつものかけがえのない資産を与えていた。
 英語だけでなく、現在も引き続き機能し続けているところの、良い政府のしくみ、地域組織、そして交通(logistical)インフラだ。
 インドに損害を与えたどころか、大英帝国の統治は、インドに有利なスタートを切らせたのだ。・・・
 この統治の中枢が、この国を運営した1,000人の強力な「天から生まれた(heaven-born)」行政官集団たる<ほぼ全員が英国人であったところの>インド帝国官僚(Indian Civil Service)だった。
 インドに強力かつ効率的な政府の基礎を敷いた彼等の功績に対し、それに値する尊敬と讃嘆が与えられたことは、これまで一度としてない。
 インド帝国官僚は、打ち解けず(aloof)、「原住民」を蔑んでいたと歴史の本には書いてあるが、実際には、インドを運営していたこれらの男達は、無私で効率的であり、最も重要なことに、全くもって腐敗とは無縁だったのだ。
 彼等は、良い政府、欧米的教育、近代医療及び法の支配の普及を監督しただけでなく、地域公共事業、飢饉救恤を推進したほか、特筆すべきことにパンジャブ地方における灌漑プロジェクトを推進したが、最後のものは、当時における世界最大の灌漑プロジェクトであり、それによってパンジャブ地方は大いに裨益した。
 <英国のインド統治の>恐らく、最もかけがえのない資産は、英語そのものだろう。
 それは、この亜大陸に、それまで見られたことのない一体性(unity)を与え、今日、インドの人々が世界中でビジネスを極めて成功裡に行うことを可能にした。
 英国は、その巨大な植民地帝国のすべての地域において、インドにおけるほどの成功を収めることはできなかったけれど、大英帝国が、その諸植民地に現実かつ具体的な便益を与えたことは、今なおはっきりしていることだ。
 どこであれ、英国が統治したところでは、英国人達は、軽やかで(light)相対的にカネの余りかからない形態の、腐敗しておらず、安定的で、かつ外からの投資家達にとって好ましい政府を打ち立てたのだ。」
http://www.bbc.co.uk/news/magazine-12992540
(4月8日アクセス)
 しかし、英国の植民地統治で最もうまく行ったのがインド亜大陸統治である、というのが事実・・香港やシンガポールの統治は、それぞれ地域として小さすぎるのでカウントをしていない?・・である、という前提で、インド・パキスタン・バングラデシュの現状と日本が植民地統治をした韓国と台湾の現状とを比較してみれば、(確かにインド亜大陸は朝鮮半島や台湾に比べると言語的・階層的に複雑ではあるけれど、)英国の植民地統治よりも日本の植民地統治の方が優れていた、と言わざるをえないであろう。
 これはまた、インド帝国官僚より、(そのほぼ全員が日本人であったところの)朝鮮半島・台湾に係る帝国官僚の方が、より「無私で効率的であり」、かつ同等に「腐敗とは無縁だった」ことをも意味しよう。
 更に言えば、英語の効用もまた、(一体性の付与という点を除けば)それほど大きいものではない、ということになりそうだ。
(続く)