太田述正コラム#0044(2002.7.2)
<佐世保重工業(その1)>

東証一部上場の造船準大手の佐世保重工業(SSK)が社員の教育訓練をしたように装って国の助成金を不正受給した事案で、前社長姫野有文氏を始めとする当時の経営陣ら七人が6月27日に逮捕されました。新聞報道によれば、トップの姫野氏以下、全社一丸となってこの詐欺行為が実行されていたという前代未聞の事案のようです。
http://www.tokyo-np.co.jp/00/sya/20020628/mng_____sya_____010.shtml。2002年6月28日アクセス)

私は姫野氏と二度会っています。忘れもしない、1996年のベローウッド修理事案の時です。
これは、佐世保を母港とする米海軍の揚陸強襲艦ベローウッドの定期修理をSSKが受けるかどうかの契約交渉が難航したため、業をにやした米海軍が、SSKの佐世保の第三ドックを強制的におさえた上で、修理業者を公開入札で募集しようとしたところ、またもやSSKがゴネて、政治問題化した事案です。(第三ドックは戦後SSKに国から払い下げられたのですが、その時の条件が、米海軍が必要なときには無償で使用させるというものでした。米軍はこの伝家の宝刀を一度も抜いたことがありません。)
この事案については、拙著「防衛庁再生宣言」の5??7頁でもとりあげたところですが、その時はSSKや外務省のことは余り書きませんでした。しかし、その後外務省不祥事が次々に明るみに出、とうとうSSKの不祥事まで出てきたわけで、遠慮なく拙著の記述の補足をさせてもらいます。

SSKがらみの二つの事案の背景にあるのは、同社の構造的な赤字体質です。
佐世保には戦前、帝国海軍の鎮守府があり、これをサポートする海軍工廠がありました。敗戦後帝国海軍はなくなり、米海軍が進駐してきます。海軍工廠の施設は逐次払い下げられて行き、その受け皿となったのがSSKでした。海上自衛隊ができると、やがて佐世保には総監部が置かれることになります。佐世保の海上自衛隊と米海軍にとって、艦艇の改修や修理を地元で請け負ってくれるSSKは、貴重な存在であり、現在でもこの点は変わっていません。
ところが、SSKには、大手の三菱重工の造船所が近傍の長崎にあること等から、そもそも海上自衛隊と米海軍以外の顧客があまりいません。しかも、本格的な造船を手がける機会にも恵まれませんでした。これでは技術力が伸びず、だからますます顧客が少なくなる、という次第で、SSKは構造的な赤字体質を抱えてきたのです。
SSKは、この赤字体質を改善する地道な経営努力を怠りつつ、政治家に政治資金を提供し、見返りに顧客の提供等の便宜を図ってもらうという安易な方法で生き残りを策してきました。
そのSSKにベローウッドの修理という災厄が天から降ってきました。
ベローウッドのような空母並の艦艇の修理には高度な技術力が要求されます。SSKにはそんな技術力はない。そうなると、修理のプライム契約を米海軍と結んでも、大部分の工事は自社よりもレートの高い大手造船会社に「下請け」に出さざるを得ない。それでは、米軍が相当甘い積算で契約を結んでくれたとしても赤字になってしまう。だからこそ、SSKはあらゆる難癖を米海軍につきつけ、契約交渉の進展を妨げたのです。
ついにキレた米海軍が第三ドックを強制的におさえようとしたとき、上記のようなホントの話がばれるのは困るし、虎の子の第三ドックがこれが先例になってたびたび強制使用されるようになったらもっと困ることから、SSKの当時の長谷川社長と姫野副社長は、米海軍を悪者にしたてあげ、(かねてより親密な関係にあった)村上正邦議員に泣きつき、善処方を頼んだわけです。(続く)