太田述正コラム#0053(2002.8.1)
<女性の登用>
「韓国国会は31日、張裳氏(62)の首相任命同意案を否決した。・・名門・梨花(Ewha)女子大の総長だった張氏は7月11日の内閣改造の目玉だったが、長男の米国籍取得・兵役免除疑惑や自身の学歴詐称問題が浮上。さらに国会の人事聴聞会では、最大野党ハンナラ党が不動産投機疑惑なども指摘した。張氏の答弁はあいまいな点が多く、採決では与党・民主党の一部も反対に回った。」(http://www.yomiuri.co.jp/05/20020731id25.htm。8月1日アクセス)という記事を読まれましたか。この程度しか日本のメディアでは報道されていません。
朝鮮日報のサイト(英語版。日本語版もあるが、英語版の方が更新が早いし中身も充実している)を見ると、韓国国会(一院制)で首相候補が否認されたのは1960年以来のことであるとし、どうしてそんなことになったかが説明されています。
張装(Chang Sang)女史(63歳)は、長男の米国籍取得による兵役免除疑惑については法務省を非難し、別の住所に実際は居住しながら形の上だけ住民登録地を三度も動かして6ヶ月の居住条件をクリアした上で不動産投機を行った疑惑については、義理の母親が勝手にやったことで自分は知らなかったと言ってのけ、プリンストン神学校Ph.Dなのにプリンストン大学Ph.Dと学歴詐称しているとの疑惑については秘書の翻訳ミスのせいにしました。このため、責任をすべて他人に転嫁するようでは、その国家観も倫理観も疑われるし、何よりも女史の言葉を信頼することはできないとして、(秘密投票なので正確なところは分からないものの、)多数派の野党(128名)の議員はほぼ全員否認票を投じ、少数派の二つの与党(計125名。このほか、無所属が6名で、議員総数は259名)の議員中からも否認票を投じた者が出た結果、承認票が100名、否認票が142名、棄権1名、無効票1名となったというわけです。
そして朝鮮日報は、記事の最後で、金大統領が、事前によく調べもせず、大統領に次ぐ職責にこんな人物を任命しようとしたことを厳しく批判し、まともな人事ができないような大統領が、国の運営ができるわけはないと切り捨てています。
(http://english.chosun.com/w21data/html/news/200207/200207290008.html。7月30日アクセス。http://english.chosun.com/w21data/html/news/200207/200207310033.html。8月1日アクセス。http://newssearch.bbc.co.uk/2/hi/asia-pacific/2163212.stm。8月1日アクセス。http://www.nytimes.com/2002/08/01/international/asia/01KORE.html。8月1日アクセス)
そもそも、張女史の首相候補への指名は、金大統領の二人の息子が相次いで収賄容疑で逮捕されるというスキャンダルと、6月29日に起こった韓国と北朝鮮の海軍艦艇同士の銃撃戦(韓国軍水兵4名死亡19名負傷)の際の国防省の弱腰の対応、に対する韓国世論の強い反発をやわらげるため、残りの任期がわずかな大統領が、首相と(私の英国国防大学の同期生である)金東信(Kim Dong-shin)国防相等7名の閣僚の解任を含む内閣改造を断行して行われたものです。
(http://www.nytimes.com/2002/07/12/international/asia/12KORE.html。7月12日アクセス)
構造的な男女差別社会の国の最高指導者が、その差別構造の打破に正面から取り組むことを回避しつつ、世論、就中女性世論受けだけをねらって、政治家としての能力・識見が定かではない著名な女性を重要ポストに起用して大失敗したという話は我々も記憶に新しいところです。小泉首相が外相に任命した田中真紀子さんのケースがそうです。
それにしても、日本の世論やマスコミは小泉さんに甘いですね。