太田述正コラム#5072(2011.10.24)
<中野雅至『天下りの研究』を読む(その3)>(2012.2.9公開)
「経済産業省(=旧通商産業省)・・・は産業を所管しているだけあって、他省庁に比べても民間企業への天下り先は豊富である。また、エネルギーなどの側面では規制官庁という側面も併せ持つため、非営利法人の天下り先もある。・・・
<なお、>昭和時代においては天下り先の民間企業で役職を上っていくパターンが大半であり、経済産業省との距離感が計り切れない部分がある。それに対して、平成以降は非営利法人への再就職が中心となっているため、役所が生活を保障するという傾向が強くなっている。・・・
天下り先のレベルが落ちていると結論づけられるだろう。」(102~104頁)
→「エネルギーなどの側面では規制官庁という側面も併せ持つため」というくだりは意味不明です。
「産業を所管している」方においても、所管とは、そもそも、助長と規制を行うということだからであり、エネルギー行政においても、事情は基本的に変わらないからです。(太田)
「旧郵政省・・・の天下り先は、電気通信・放送関係を中心に豊富である。・・・他方で、事務次官の天下り先を見てもわかるように、特殊法人を中心とした非営利法人の豊富さは建設省や財務省に比べて見劣りする。」(108~109頁)
→現業の郵便局の元締めの一人となり、全逓と切り結ぶつもりであったキャリア郵政官僚、IT社会が到来し、時代の最先端の産業を郵政省が所管するようになったことに伴い、天下り先が爆発的に増えて、目をぱちくりしつつも、さぞかしウハウハであったことでしょうね。(太田)
「旧運輸省・・・も財務省や経済産業省と同様に天下り先が豊富な省である。財政投融資を所管している財務省に比較すると非営利法人への再就職では劣るかもしれないが、陸海空の運輸という許認可規制の強い分野を所管していることから考えると、むしろ、財務省や経産省よりも安定した民間企業の天下り先を持っていると言ってもいいかもしれない。しかも、陸海空の企業はどれも著名な巨大企業である。・・・
国土交通省となってからは、旧建設省と統合されて巨大な公共事業官庁となったこともあって、営利法人の天下り先の豊富さがさらに目立つようになっている。・・・
経産省などと比較すると、副社長や副会長にとどまることなく社長・会長まで上りつめる例も多い。・・・
<ただし、このところ、>主要な民間企業への再就職が先細る中で、非営利法人に天下りがシフトしているという見方もできる。」(104~106頁)
→私は、入省してから間もない運輸省のキャリア官僚が、退職後の天下りのことを楽しそうに語るのを聞いて唖然とした記憶があります。(太田)
「旧建設省・・・<の>天下り先<としては、>・・・建設業を中心とした営利法人と道路公団などの非営利法人の2つが揃っており、天下り先は豊富である。・・・
天下り先のレベルに大きな変化が見られないことも特徴であり、これだけ談合事件などが起こっているにもかかわらず、傷がそれほど深くないのは不思議な気さえする。その一方で、事務次官レベルではゼネコンへの天下りは一切ないのも大きな特徴となっている。」(106、108頁)
→(旧建設省から始め、以下、旧自治省、警察庁、旧厚生省、そして旧労働省まで、内務省から分枝して、或いは内務省が分割されてできた省庁を並べました。)
文系で建設省に入るキャリア官僚など、本人は口にはしないものの、その狙いは安定的な生涯所得最大化であろう、と私は、密かに役所時代に想像をたくましくしていたものです。(太田)
「旧自治省の場合、総合的に見て天下り先が豊富に存在するというわけではない。・・・そもそも、旧自治省は中央官庁の中でも職員の少ない組織であり、天下り先を多数抱えることのメリットが乏しい。また、在職中の副知事・総務部長・財政課長など地方公共団体の主要ポストへの出向が話題になることが多く、旧内務省の嫡流としてエリート官庁として名高い反面、所管業界や関連非営利法人が少ないこともある。さらに、事務次官になる前に都道府県知事や政令指定都市市長へ転身する者も多いことから、他省庁のように事務次官がトップであるという位置づけが弱いこともある。」(110~111頁)
→ここでも、中野は、どうして自治省キャリアが地方公共団体に引く手あまたなのか、そして、その出向先で培ったネットワークを活用して首長へ容易に転身できるのか、その打ち出の小づちたる同省の権限・・地方自治制度や地方交付税交付金等・・への言及があってしかるべきでした。(太田)
「警察庁<は、>・・・他省庁と比べて天下り先は豊富ではない。特に、自ら所管する業界が少なく、なおかつ、所管業界もさまざまな指導が必要とされることもあって、安定した天下り先がない。他方で、警察特有の強みを生かして営利法人・非営利法人を問わず、監事にようなお目付け役的な役割を期待されて天下るというケースが多い。その意味では、不安定な部分があるものの警察出身者に対するニーズは常に高いとも言える。」(112頁)
→「所管業界もさまざまな指導が必要とされることもあって」というくだりも意味不明です。
摘発の「脅し」をきかせながら行う「さまざまな指導が必要」な業界であればこそ、天下りを「押し付け」易い、ということに中野は言及すべきでした。(太田)
「旧厚生省・・・の天下り状況は、・・・産業を所管する経済産業省に比べて豊富ではないが、・・・産業を所管しない非経済官庁のように天下り先の確保に苦しんでいるという状況にはない。
ただし、民間企業への天下りはあくまで例外で、大半の者は非営利法人へと天下っている。」(115頁)
→旧文部省同様、行政対象のうちかなり大きな部分の上澄み・・厚生省の場合は医科学・保健学・薬学の研究者等・・より自分の所のキャリアの方が人材的に見劣りするという例外的な官庁であるにもかかわらず、どうして天「下り」が可能なのか、という根本的な「問題」を中野は「解明」して欲しかったと思います。(太田)
「旧労働省<は、>・・・所管する産業がほぼ皆無なこともあって、・・・天下り先は豊富ではない。天下り先の多くは特殊法人・財団法人などの非営利法人である。・・・
ただし、・・・産業を所管しないという点では旧経済企画庁・旧総務庁、環境省といった官庁と共通しているが、これらの省と異なって非営利法人の天下り先は豊富である。」(116~117頁)
→中野自身の出身官庁であるにもかかわらず、他省庁並びの平板な記述であるのは物足りません。
例えば、比較的女性キャリアの多い官庁であったことから、女性キャリアの天下り事例にも触れて欲しかったところです。(太田)
「防衛庁(省)<は、>・・・天下り先の豊富さについては、防衛産業などへの天下りやそれに関連した不祥事が目立っているものの、<生え抜きの>事務次官の天下り先を見る限りにおいて<も>、それほどとは言えない。」(113頁)
→中野には土地勘がないので仕方がないのかもしれませんが、そんな防衛庁(省)で、どうして天下りがらみの不祥事が目立つのか、太田コラムに倣って、踏み込んだ記述をして欲しかったと思います。(太田)
(続く)
中野雅至『天下りの研究』を読む(その3)
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