太田述正コラム#0073(2002.11.3)
<存亡の危機に直面する民主党>
経済の低迷が10年以上にわたって続き、かつ自民党等の国会議員の深刻な不祥事が次々に露見する中、10月27日に行われた衆参統一補選に民主党は惨敗しました。民主党が推した候補者が当選したのは、七つの選挙区のうち山形県の一つだけにとどまり、しかも、この議席は、次回の総選挙でカムバックを期している加藤紘一氏に、返上することが決まっているようなものだからです。
中野寛成民主党幹事長の「議席数を見ると、自民党は現有5議席を維持したということだ。与野党の議席数は変わらない・・そう考えると、むしろ勝者なき選挙ではなかったか」という発言(http://www.sankei.co.jp/news/021029/1029sei111.htm。10月30日アクセス)には、ただただ言葉を失うほかありません。
読売新聞は、同紙が実施した世論調査で、民主党の支持率が1998年4月の結党以来の最低の4.1%に落ち込んだと報じています(http://www.yomiuri.co.jp/01/20021028ia23.htm。10月29日アクセス)。
民主党は既に一泡沫政党に転落しており、文字通り存亡の危機に直面していると言ってよいでしょう。
経済の長期低迷や議員の不祥事の連続の主犯である自民党より先に、野党第一党の民主党の方が存亡の危機に直面してしまったことは、一見まことにもって不可解な話です。
しかし、それは不可解でも何でもありません。思い至る原因が山ほどあるからです。
その中で私が最も決定的だと考えているのは次の三つです。
第一は、安保・外交政策が確立していないことです。
安保・外交政策を確立することで、党を分裂させたり、社民党・自由党との友党関係をこわしたりしたくない、ということなのでしょうが、安保・外交政策への真剣な取り組みを回避している間に、民主党は、現在の日本の成熟したナショナリズムのうねりに、完全に乗り損ねることになってしまいました。
成熟したナショナリズムのうねりは、あらゆる場面で感じるとることができます。それは、北朝鮮による拉致問題にあっては、主権や人権を疎かにしてきた戦後の安保・外交政策への国民の怒りとなって現れています。
この怒りは、本来であれば、戦後の安保・外交政策を担ってきた自民党に向けられるべきところ、拉致議連で「活躍」してきたと称するミニ小泉的自民党議員達のTV出演等に幻惑されてか、矛先が、自民党の政策の実施機関にすぎない外務省や、自民党との暗黙の了解の下、戦後一貫して自民党の補完的役割を演じてきたにすぎない社民党(旧社会党)に向かってそらされてしまっています。
それもこれも、明確な安保・外交政策を持たないが故に、拉致問題にあっても、国民の怒りを本来のターゲットに向けて適切に誘導することができない民主党のせいであり、そんな民主党だからこそ、支持率が下がる一方なのです。
英国の労働党は、核兵器放棄を含む一方的軍縮の断行という急進的な安保・外交政策を棄て、保守党と同じ政策に転換(=労働党のかつての穏健かつ現実的な政策に復帰)することによって、(敵失にも助けられ、)保守党からの久方ぶりの政権奪取に成功しました。
民主党が、存亡の危機を乗り越えるためには、やはり、まずもって安保・外交政策の確立を図らなければなりません。ただし、その政策は、英国の労働党のように、単に政府・与党と同じ政策を採用しただけではダメなのであって、(国の主権や人権を疎かにする)日本の政府・与党の安保・外交政策を、抜本的に正したものである必要があるのです。
第二に、男女共同参画社会向けての取り組みに迫力が見られないことです。
日本は、世界の先進産業国家の中で、きわだって女性差別が甚だしく、女性の社会参画が遅れている国です。つまりは日本は、半分もの人的資源の有効活用を行っていない、金太郎飴的な片肺飛行の国であり、経済が低迷し、少子化がとめどもなく進行するのは当たり前だと言うべきでしょう。
このような状況を打破するためには、政府や地方公共団体が種々のポジティブアクション(例えば、公共工事の入札の際に、女性管理職の割合等の状況を勘案する)を講じて男性(そして女性)の意識改革を行う必要があります(日本経済新聞2002.10.29付夕刊の記事「入札条件に『女性活用』も」を参照)。
しかし、民主党は、政府の女性政策の後追い的女性政策でお茶を濁しているだけで、党独自の、しかもラディカルな政策を打ち出すに至っていません。党内における女性議員等の登用の度合すら、(閣僚や審議会委員に女性を積極的に登用している)小泉政権に遅れをとっているように見えるのはなさけない限りです。
民主党が、とりわけ女性に人気のない党であるのもまた、むべなるかなというべきでしょう。
第三に、新しい政党政治家像を提示できていないことです。
今回の統一補選の、目を覆わしめる抵投票率は、それが与党であれ、野党であれ、国民の政治家・政党への不信感がいかに大きいかを示しています。
自民党議員の不祥事が明るみに出るたびに、民主党は鬼の首をとったように政府・自民党を責め立てますが、そのつどワイドショー的関心は呼んでも、国民は白け切っています。
国民は、権力を握ったら民主党の多くの議員が同じような不祥事に手を染めるだろう、民主党も自民党と同じ穴のむじなだと思っているのです。
どうして国民にそのような思いを抱かせてしまったのか、民主党の国会議員一人一人が自分の胸に手をあてて反省すべきです。自分が、選挙での当選或いは権力の追求のためには違法行為や社会規範に反する行為を行うこともやむをえないという、自民党的議員でないかどうかを。
民主党は、国会議員に関わる厳しい行動規範を作成し、この行動規範の遵守を誓う候補者のみを公認、推薦することとし、これに違背した会派所属議員は除名処分することとすべきです。
<読者>(2004.2.22)
コラムいつも読んでます。
非常に納得できる内容ばかりで是非国会へ行って頂きたいと思います。
ただなぜ民主党なのでしょう?
旧社会党や労組の連中がいる民主党ではあなたのような意見の持ち主はバランサーとしては用いられても主流にはなりえないのでは?
あなたの政策を実現しやすいのはやはり自民党では?
自民党にも問題があるのは確かですが、中に入って改革していけばいい。
是非ご一考を。
<太田>
エールを送っていただき、ありがとうございます。
誤解なきようまず申し上げておきますが、前回の参議院議員選挙の時以来の選挙モードの私のホームページの模様替えをしていないのは、単にさぼっているだけであり、私は現在のところ、どの政党からも立候補する予定はありません。
(Political correctnessを気にせず、言いたいことが言えるという生活を今更変えたくない、という気持ちに段々なってきたということもあります。)
ただ、私は(民主党から立候補した時を含め、民主党員であったことはありませんが、)現在でも民主党シンパではあり続けています。
なぜかは拙著をお読みいただくといいのではないかと思いますが、簡単に申し上げれば、第一にずっと政権政党であったことから自民党には滓がたまっていて自浄能力がないことであり、第二には、吉田ドクトリンの党だからです。
後者について付言すれば、YKKトリオが成り立ちうる自民党のいいかげんさが、私には耐えられないのです。(総理になったK氏は安全保障に関心がなく、カネの不祥事で議員を辞めて今般復活したK氏は吉田ドクトリン墨守論者であり、女性スキャンダルのY氏はタカ派です!)
なお、民主党にはいまだに安全保障政策がありませんが、万一、民主党が吉田ドクトリン的路線を採択するようなことがあれば、残念ながら民主党とも訣別することになります。
最後に一言。
この前、鳥取県米子市で自治労の皆さんに講演をしてきましたが、質疑応答等で私も大いに啓発されました。労組の人々に変な先入観を持たない方がいいと思いますよ。
<読者>
> 私は現在のところ、どの政党からも立候補する予定はありません。
うーん残念です。
投票したくても投票したい候補者がいない選挙区の住人としてはあなたのような方がいれば投票に行く気になるのですが。
> YKKトリオが成り立ちうる自民党のいいかげんさ
そのとおりですが、この柔軟性が自民党の強さのひとつかと。
つまり吉田ドクトリン的路線を生み出したと同時に変えうる政党でもあろうかと。
> なお、民主党にはいまだに安全保障政策がありません
> が、万一、民主党が吉田ドクトリン的路線を採択する
> ようなことがあれば
「吉田ドクトリン的路線を採択する」云々以前に、「安全保障政策が無い」ってほうがよっぽど深刻な問題と思います。
仮にも政権交代の受け皿となる第1野党がですよ?
まあ、政治家になってしまうとコラム書いてる暇もなくなりそうですから、僕としてはこのままでも良いと言えば良いんですが。
では、今後の活躍をお祈りします。