太田述正コラム#5144(2011.11.29)
<映画評論30:時計じかけのオレンジ(その5)>(2012.3.16公開)
(3)キューブリック
「スタンリー・キューブリック(Stanley Kubrick。1928~1999年)は、米国人映画監督・脚本家・制作者・撮影家で、そのキャリアの最後の40年間の大部分、イギリスに住んだ。・・・
キューブリックは東欧ユダヤ人の子孫でニューヨークのユダヤ人界隈で育ったが、彼の家族は宗教的ではなかった。
もっとも、彼の両親はユダヤ式儀式で結婚している。
1980年の<インタビューで、>宗教的な育てられ方をしたのかと聞かれたキューブリックは、「いや、全くそんなことはない」と答えている。
彼はバル・ミツワー(bar mitzvah=ユダヤ法を守る宗教的・社会的な責任を持った成人男性のこと・・・。また、子供がこの責任を持てる年齢に達したことを記念して行われるユダヤ教徒の成人式のことも指す)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%90%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%83%9F%E3%83%84%E3%83%AF%E3%83%BC
をしなかったし、シナゴーグに行くこともなかった。
しかし、彼が亡くなってから、彼の娘と妻は、「彼は自分のユダヤ性を否定しなかった。全くもって」と語っている。
彼の娘は、ホロコーストについての映画をつくりたいと思っており・・・何年もそれについて調査をした、と述べている。
[もっとも、友人であるスティーヴン・スピルバーグ(Steven Spielberg。1946年~。米国人映画監督・制作者。「オハイオ州でウクライナ系ユダヤ人の家庭に生まれ、アリゾナ州に育つ。」)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%BC%E3%83%B4%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%B9%E3%83%94%E3%83%AB%E3%83%90%E3%83%BC%E3%82%B0
が、『シンドラーのリスト(Schindler’s List)』(1993年)をつくり、先を越されたために、ホロコースト映画作りを断念することになる。]
また、彼の、友人達や初期の撮影や映画作りの協力者達の大部分はユダヤ系であり、彼の最初の2回の結婚相手は、欧州から米国に渡って来てから日の浅い移民者の娘達だ。
彼の晩年、緊密に彼と一緒に仕事をした英国の脚本家・・・は、スタンリー・キューブリックを、彼のメンタリティの基本的様相たるそのユダヤ性抜きで分かろうとするのはばかげていると指摘しつつ、キューブリックの映画の独創性(originality)の一つの理由は、彼が(ユダヤ人的に?)学者に尊敬の念を抱いていたからだと考えている。・・・
キューブリックの父親は、彼に12歳の時にチェスを教えたが、このゲームは、彼の生涯にわたる熱中の対象であり続けた。・・・
[医者である]彼の父親は、彼が、もっと良い成績がとれると感じていたのに学業成績が良くないことに失望していた。
彼の父親は、家にある自分の大量の本の中から、彼が読書することを奨励し、同時に真剣な趣味として写真を撮ることを彼に[奨め]た。・・・
キューブリックは、学校の出席率も低く、しばしば学校に行かずに二本立て映画を見に行ったものだ。
[転地すればもう少し勉強をするようになるのではないかと思った父親は、1941年から42年まで、キューブリックを、カリフォルニアのその叔父の所に預けている。]
彼は高校を1945年に卒業したが、成績が悪かったのと、第二次世界大戦の復員兵の大学入学需要が大きかったこととで、大学以上の教育を受ける望みを絶たれた。
ずっと後になって、キューブリックは、自分の受けた教育、そして教育一般について侮蔑的に語っている。
学校に関することは何一つ関心はない、と・・。
<もっとも、>既に高校にいた時に、彼は、ある年の学校の公式写真家に選ばれていた。
1946年に、<仕方なく、>・・・彼は短期間、ニューヨーク市立大学の夜間コースに通ったが、間もなく退学している。・・・
<映画をつくり始めた頃、>キューブリックは<最初の結婚をした。>
二番目の妻となる、オーストリア生まれの踊り子兼舞台デザイナー・・・と彼が出会ったのは1952年のことだ。
<そして、キューブリックは、今度はドイツ人の女優と出会い、2番目の妻と離婚して彼女と3度目の結婚を1958年にし、彼女とは1999年に死去するまで添い遂げることになる。>」
(以上、特に断っていない限り、Dによる。ただし、[]内は、下掲による。
http://www.imdb.com/name/nm0000040/bio )
全く月並みな感想で恐縮ですが、ユダヤ人の上澄みって凄いな、特に独創性(オリジナリティ)が凄いな、というのが第一点、潜在的能力が高い子供で、何か熱中する対象があるのであれば、学業成績が振るわなくても余り気にすることはないというのが第二点、子供が人となるにあたって、両親がその環境を整えてやることは本当に大切だな、というのが第三点です。
(完)
映画評論30:時計じかけのオレンジ(その5)
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