太田述正コラム#5361(2012.3.16)
<皆さんとディスカッション(続x1493)>
<太田>(ツイッターより)
 シリアで、ホムス「陥落」前に体制側の人々によって虐殺されたスンニ派一家のうち、一人の子供だけが救出された映像だ。
http://edition.cnn.com/video/?hpt=hp_c1#/video/world/2012/03/14/pkg-damon-syria-only-one-survivor.cnn
 「民主主義化」しつつあるミャンマーでのアウンサン・スーチーの歴史的TV演説等もどうぞ。
 ・・・アウンサン・スーチーの映像は、最初の映像のURLをクリックして開いた頁の下の方の彼女の小写真をクリックしてご覧ください。
 昆虫のミバエは、セックスをする機会を奪われるとアルコールを欲するようになることが分かった。人類を含む哺乳類も同じだろうって。
http://www.washingtonpost.com/blogs/the-checkup/post/rebuffed-for-sex-deprived-male-fruit-flies-turn-to-alcohol-study-says/2010/12/20/gIQAHe9zES_blog.html?hpid=z4
<ねこ魔人>
 以下、稚拙ながら自分なりに考えた論考です。出来の悪いところは遠慮なくお教えください。
 私は、現在の日本の都市景観が、欧米に比べて魅力に乏しい理由は、本来的に日本では、街並み全体の景観がこれまで重視されてこなかったが、都市景観に対するそのような姿勢が維持されたまま、日本の都市が、都市の姿が著しく変貌する都市の現代化時代を迎えてしまい、しかも、都市景観に悪影響を与える現代化の副作用を本来ならば抑制すべき政治家や行政が、あろうことか開発業者と結託して都市政策において政官業癒着構造を確立し、その当事者の利益を追求してひたすら乱開発や歴史的建造物の破壊を行い続けたからであると考えます。
(1)日本の人々は、本来的に景観の整備には関心がありません。
 なぜならば、日本人は公共空間に関心がないからです。芦原義信の『街並みの美学』は見事にこのような日本人の姿勢が起きる仕組みを示しました。
 芦原は、住まいとは内部と外部があるが、日本人はこれを厳格に区別し、西欧人は外部を内部の延長として捉えると、和辻哲郎の『風土』を引用しつつ述べています。
 また芦原は、このような違いにより、日本人は自分の家屋にだけしか関心を持たないようになり、西欧人は公共空間にも関心を持つようになったとしています。
 芦原は、この結果、日本では都市景観の整備が極めてずさんとなった一方で、西欧では都市景観の向上がなされてきたと述べています。
 実際、日本では景観がぶち壊されている例が山のようにあります。
 太田さんもよくご存知でしょうが、日本一見識が高いはずである東大の教授たちですら、自分たちの所有する建築物を管理しきれていません。
 一高講堂や安田講堂の背後には、そろいもそろって、よくもまあこんな見識のないことができるものだと感心させられる、講堂の美しさを大きく減ずる巨大な建造物が建っています。
 もっと都市規模的なものとしては、バブル期にはマンハッタン計画のごとき都市計画が考案されました。
駒場の講堂(http://dosukoi.net/todai/mapi.html
マンハッタン計画(http://ud.t.u-tokyo.ac.jp/project/p98/marunouchi/keikan/history4.html
ここで面白いのが、あくまで憶測でしかないのですが、アングロサクソンも、日本人と同様、さして景観に興味がないように思えることです。
 イギリスでは、ローマからの影響で、まだ景観の考えが根付きましたが(典拠無し)、アメリカに至っては、ヨーロッパ的な中心部に中層建築が並ぶ都市景観を放棄して、高層建築をガンガン建てています。かつて、ニューヨークに高層ビルがなかった時代、ここはヨーロッパの一都市と見間違えるほどでした。
 再び芦原の本を引用すると、都市の形成に当たり、街路に強い愛着を抱いた民族は、ラテン系民族が筆頭であり、アングロサクソンはそれに次ぐ。
 日本人は最も関心がないとしています。
 その理由を、イタリア人にとって街路は生活の一部であり、愛着のあらわれであった一方、イギリス人にとってはそれほどではなかったからであるとしています。
 B・ルドルフスキーは、ボローニャ市民が町の中の儀式的な散歩を欠かそうなどとは決して思いもしないと述べています。
 一方、イギリスの都市は伝統的にヨーロッパでも最も不健全であり、田園生活に執着していたといっています。
 このように、実はアングロサクソンも、本来的にはさして街に興味がなかったので、都市景観にも本来は関心を払わなかったのでは、と思っています。
 太田さんがおっしゃるように、近代文明のほとんどはイギリスが生み出したものでしょうが、欧州が作り出した近代文明のうち、数少ない世界で通用する偉大なものの一つは、クラシックと並んで、その都市景観でしょう。
 ヨーロッパの都市景観は、世界中どこと比べても素晴らしいと思います。
 人々はそう思っているからです。海外旅行者の数がそれを示しています。
 ではなぜ、ヨーロッパの都市は素晴らしいのでしょうか。
 ヨーロッパの都市の他の地域の都市と違う点は、秩序だっているところです。
 街路は広く取られ、市街には街路樹や広場がたくさん造られる。
 建物は中層の近代建築が建てられる。
 建築と建築の幅はゆったりととられ、狭い土地に多くの建物が建てこんだりはしていない。
 都市計画において、このようなルールが存在するので、個々の建物が主張して全体の調和が乱されることなく、ヨーロッパの都市は秩序立ちます。
 ということは、都市景観において素晴らしいことは、全体の秩序が保たれていることと言い換えることが出来そうです。
 上述の通り、ヨーロッパでは、都市の美しさが、個々の建物の個性を抑制し、全体の秩序を保つことで保たれてきました。
 このような都市景観を保つ方法は、典拠はありませんが、アングロサクソンや日本人には極めて難しいのではないでしょうか。
 なんせ、本来的に外部たる都市景観に全く興味がない上に、全体による個の抑圧を嫌うのだから。
 とはいえ、イギリスでは、ヨーロッパ大陸の影響でその方法がかろうじて根付いたが、日本はその影響を受けることはなかったので、日本人は都市景観音痴になった、といえる気がします。
(2)現代になり、都市景観は大きな変化を経験しました。
 近代以前は、高層建築物を建設する技術はなく、どの建築も中低層の高さで建設されました。
 材料もその地域で取れるものを使用する以外に方法はなかったので、ミクロ的に同じ地域の中の建築の間で比較すれば個性はないけれど、マクロ的にある地域と地域の都市景観を比べると、地域毎に独特の個性がありました。
 例えば日本家屋は、となりの家と比べたら個性に乏しく見えるかもしれませんが、地域によって多様性が見られます。
 さらに、異文化交流が今ほど行われなかったので、海外の建築様式が流入するのも限定的でした。
 この結果、都市は中低層のスカイラインで統一され、地域独自の個性を持ち、海外文化に影響されていない純粋なものとして存在してきました。
 しかし、近代以降は事情がことなります。
 とりわけ現代になると、この事情は激変します。
 なぜなら、高層建築物を建設する技術が誕生し、材料には従来にはなかったガラスやコンクリートが導入され、海外の建築様式が自国に流入するようになったからです。
 それに伴って、都市に高層ビルが立ち並び、都市を構成する建築の外壁はコンクリートやガラス製となり、建築の様式は伝統的なものではなく、国際様式が普及しました。
 この結果、都市計画が稚拙な国の都市は景観が大きく変化しました。
 都市のスカイラインは中層と高層のどちらかで統一されず乱れ、地域色のある建物が失われる一方で、国際様式の建物がどんどん建てられたからです。
 このように、都市を形成する条件が変化したのに伴い、都市景観も大きく変わっていったのです。
(3)これまでの日本では、都市開発においては景観が顧みられることはなく、ひたすら経済的利益のための都市開発がなされてきました。
 京都タワーや京都ホテルを見ればわかります。
 景観の美しさとは国民全体の利益です。
 では、なぜこの景観の美しさが守られてこなかったか。
 本来ならば、国民全体の利益を実現する集団の政治家と公務員です。
 実際、フランスのパリでは、モンパルナス塔が建設されて以後は、議会によって強い高さ制限が施行されました。
 しかし、日本では政治家と公務員が、経済的利益を追求する民間開発業者と癒着した結果、政治家と公務員の利益が民間開発業者と一体化しました。
 すると、政治家と公務員は、景観という国民全体の利益ではなく、民会開発業者の利益という自分たちも甘い汁が吸える利益を優先するようになったからではないでしょうか。
 以前にも記した通り、政治家は民間開発業者が乱開発できるように行政に取り計らい、公務員は民間業者に天下る。そして、民間業者は行政に献金する。
 ただし、これには具体例がないです。
 丸の内美観論争で検索しても、このような構図が見えてくることはありませんでした。
 近年、丸の内で再び三菱地所や森ビル主導で再開発が進んでいます。
 これらの業者は、丸の内に広大な敷地を所有しているからです。
 しかし、だからといって三菱地所や森ビルに東京都から天下った人がいるという事実を知りません。どうなんでしょうか?
 太田さんは、このような民間業者が都市の開発規制を緩和させるために、政治家に献金したり、官僚を天下りさせている例をご存知でしょうか?
<太田>
 ちょっと典拠が少なすぎますが、労作であるし、過去の私のコラムも相当読み込んでおられるようなので、使わせていただきました。
 最後のご質問ですが、あっても不思議はないけれど、私は知りません。
 日本の都市景観問題については、ご専門やご専門に近い読者の方のご意見もぜひお聞きしたいですね。
 私のツッコミは以下のとおり。
(1)について→完全な誤り
 縄文時代(三内丸山):「住居・大型掘立柱建物・掘立柱建物・貯蔵穴・土坑墓・粘土採掘穴・盛り土・道路などが、・・・計画的に配置されている。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%89%E5%86%85%E4%B8%B8%E5%B1%B1%E9%81%BA%E8%B7%A1
 奈良・平安時代(平城京・平安京):説明する必要はないでしょう。
 室町時代:「室町時代以降、各地の大名が京都を真似た町づくりをし<た。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B0%8F%E4%BA%AC%E9%83%BD
 江戸時代(江戸):「江戸は大きな火事に何回も見舞われます。火事の度に江戸は耐火建築を施していきました。土壁を使う土蔵づくり,塗屋づくりが普及します。高さも7.2mに制限されました。町並みが統一されていきました。・・・家康は,・・・都市景観に富士山という大自然を入れる<という、>・・・ヨーロッパの都市にはないスケールの大きさ・発想の豊かさで,江戸のまちの都市景観を整えたのです。・・・<また、彼は、>富士山のほかにも,芝丸山,愛宕山,神田山,筑波山が正面に見える通りを意図的に造りました。・・・幕末に江戸を訪れたイギリス人。ロバートフォーチューン「江戸の美しさは世界のどの都市も及ばないであろう」」
http://www5a.biglobe.ne.jp/~jubilo/mati%20tosikeikan.htm
(2)について→それほど違和感はないが・・
 補足的に私の見解を述べれば、木造建築だけの世界に石造建築が欧米からどっと入ってきて、都市景観のあり方を根本から見直す必要が生じたが、政府が、他にやるべきことが多すぎ、そんなことまで対応しきれなかった、ということではないでしょうか。
(3)について→果たしてそうか?
 日本型政治経済体制が確立し、とりわけ、戦後、ボトムアップ傾向が強まり過ぎた結果、トップダウンで計画し、維持すべき都市景観が損なわれたまま推移している、ということだと思います。
 
 それでは、その他の記事の紹介です。
 日本が4月から法人税を引き下げることになったことで、世界一高い法人税国の座を米国に譲り渡すことになったとさ。↓
http://online.wsj.com/article/SB10001424052970204781804577269791012344900.html?mod=WSJ_Opinion_AboveLEFTTop
 シリアの大統領夫妻のメールメール漏出事件の続報だ。
 アサド夫人の父・・ロンドン在住の名医師・・が婿たる大統領に盛んに反体制派弾圧に関してアドバイスをしてきたってんだな。
 一世も、そして二世までも、シリア人、いやアラブ人は一族(部族)命なのねえ。↓
 ・・・as the violence escalated in recent months,・・・Dr Fawas Akhras, who is the father of Assad’s wife, Asma・・・offered the Syrian president detailed political and media handling advice as well as moral support in dozens of emails direct to his personal inbox.・・・
http://www.guardian.co.uk/world/2012/mar/15/assad-emails-father-in-law-crackdown
 上記漏出事件の結果、これを報じたガーディアンのウェッブサイト等がシリア当局の妨害を受けている。↓
 ・・・The Guardian’s website was also reported to have been blocked in much of Syria on Thursday in an apparent attempt to prevent citizens from reading the Assad emails. Pan-Arab satellite channel Al Arabiya, which has also obtained the leaked emails, reported significant interference with its transmission signal this week.・・・
http://www.guardian.co.uk/world/2012/mar/15/syrian-activists-assad-emails-angered-revelations
 『セイラームーン』でもって米国の少女達が日本の少女マンガ・アニメに目覚め、ブームになったんだね。
 『ONE PIECE』が日本における人間主義の再普及に貢献しているとして、『セイラームーン』は恐らく日本における女性のスポーツの世界における活躍に貢献しているに違いない。
 しかし、どうして『セイラームーン』は日本女性のスポーツ以外の世界での活躍に貢献してないんだ?↓
 ・・・It is a story that encourages young people to stand up for themselves, be independent, and fight for what is right. Sailor Moon’s journey is one of friendship, determination, magic and love.・・・
http://herocomplex.latimes.com/2012/03/08/sailor-moon-serenas-arrival-20-years-ago-changed-anime/?track=ud
 睡眠不足は食欲を増進させる(、そして太らせる?)ことが分かった。↓
http://healthland.time.com/2012/03/15/why-sleep-deprivation-may-lead-to-overeating/
 このほか、興味深い記事が二つあった。
 これは、国姓爺の話だが、明日の有料読者向けコラムに回すね。↓
http://www.atimes.com/atimes/China/NC16Ad03.html
 これは、将来書く「映画評論16:スミス都へ行く/エビータ」シリーズの完結編のためにとっておくね。↓
http://www.foreignpolicy.com/articles/2012/03/14/argentinas_dubious_boom?page=full
—————————————————————————————————————————————————-
太田述正コラム#5362(2012.3.16)
<松尾匡『商人道ノススメ』を読む(その7)>
→非公開