太田述正コラム#5381(2012.3.26)
<皆さんとディスカッション(続x1503)>
<太田>(ツイッターより)
 香港の新行政長官に中共のプードル、梁振英(Leung Chun-ying。57歳)が当選。
http://j.people.com.cn/94474/7768073.html
 お口直しに、エリザベス・テイラーの未発表写真集でもどーぞ。
http://edition.cnn.com/2012/03/23/showbiz/liz-taylor-unseen-photos-life/index.html?hpt=hp_c2
 TVで中島「事件」の「占い師」のインタビューの一部を見た。
 どうやら中島嬢、マインドコントロールされてたんじゃなく、成年後見制度の対象とされるべき人物だったということのようだ。
 皆さん、くれぐれも、日本の、弁護士、心理学者等のインチキ専門家達の戯言に騙されないようにしてね。
<野口佳>
 私が紹介したニュールンベルグ裁判のdvdを観たようですね。
<太田>
 ちゃいます。
 コラム#4187で遠江人さんがリクエストしたものです。
 故意か過失か知りませんが、いかにも、各方面に典拠抜き思い付き投稿を繰り返しているあなたらしいですねえ。
<野口佳>
 ・・・「グッド・シェパード」マット・デモン主演 がお勧めです。
 第二次大戦前のアメリカ諜報部の創設が描かれている。
 アメリカが対ドイツの戦争を事前に決意したことが、あからさまに描かれている。
<太田>
 これについては、一応、承りました。
<XXXX>
 –大正末から昭和初期にかけての縄文モードの趨向–
 「戦前の昭和日本が、既に、縄文モードに転じていた、という・・・仮説と整合性のある挿話」は他にも以下のようなものもがあります。
 「<大正の末から昭和初期>の社会的情勢は、第一次世界大戦中の好景気の反動で、深刻な不景気の中であり、金のかかる軍隊を無用の長物視していて、三度の軍縮はこの風潮に拍車をかけることとなった。 電車の中で、騎兵中佐の拍車<(カウボーイの靴踵部分のあれ)>が邪魔になると、土工がケチをつけて中佐を謝罪させたり、軍服着用での外出を控えて、私服で外出する将兵が続出したなど、このころほど軍人の株がさがったことはなかった。 ・・・」
http://royallibrary.sakura.ne.jp/ww2/yougo/ugaki.html
 「編集責任・山崎正男,協力・偕行社で昭和44年に発行された「陸軍士官学校」の中に・・・「陸軍中央幼年学校本科以来,連続,遊泳演習に行っていた鎌倉の宿舎が断ってきて,やむを得ず館山へ変更したり(第36期生のとき),電車の中で鶏の蹴爪(拍車のこと)が邪魔になると言われたのも,この時代の反軍思想の現われであった」と記されている 」
http://www21.tok2.com/home/tokorozawa/faq/faq11u.html
 また、大正の末から昭和初期にかけて陸軍大臣を務めた宇垣一成の日記には、第一次大戦後、ロシアの軍事力・工業力が低下して脅威が減じた国際情勢を背景に、国民の「交世論の趨向」(いわば弥生モードから縄文モードへの転換)に応じて軍縮に踏み切ったが、1924年にはロシアの脅威が復活しつつある兆しが認められた事から、陸軍としては国際情勢の動向に合わせて軍縮から転換し軍備を整備しなければならなかったというのに、国内では依然として軍縮がはやし立てられ予算の削減を求められた事から、陸軍は軍縮を行い人件費を減らして予算を削減しつつ浮いた資金で装備の近代化を図り国防力の増加に努めた。しかし、1929年、宇垣が再度陸軍大臣に就任したとき、ロシアの国力は当初予期した通りに回復し、ロシアの脅威が明白になったおりに際しても、緊縮財政を掲げる民政党内閣の軍縮圧力は止まらず、1930年春、議会において「今後尚国庫の欠乏を補填すべき目的の為に陸軍々費の節約は国防当局者としては堪え得る所にあらず。・・・国防力の減少を意味する如き節減は容認の余地殆どなしと認める」と、苦言を呈した事が記されています。
 以下、原文(1930年7月上旬に書かれた日記から)
 「・・・陸軍々備の方針は日露復讐戦に備ふるを対象として平時二十五個師団五十個師団整備の計画樹立せられ・・・世界大戦後露国は・・・王朝の瓦解に伴ひ其軍隊も崩壊解体の有様となり差当り敵国としても恐るの必要なきものと変じたり。是に於て陸軍としては・・・大正十一二年の交世論<世論のかわりめ>の趨向と隣邦の形勢に鑑み・・・五六師団に相当する人馬を減少したり・・・。之を<山梨軍縮>と為す。然るに余の大正十三年陸相就任の当時に於ける露国の状態は・・・其基礎は確実となり夫れに伴ひ一時解体の形にまで陥りし露国軍隊も整備し国力を充実しつつある曙光を認めたるに依り、帝国としても油断を許さず追々と軍備も整頓充実を行わざる状態にありと判断したり。然るに帝国内の国論は露国解体当時の現象から支配せられ新状勢に目覚むることなく依然として軍備縮小を高潮せり。依って余は表面此国論を容るるの形を採り内実は軍備の充実を計るの手段として四師団を廃止し夫れにより浮び上がりし経費の全部・・・を挙げて新施設に注入せり。<それこそが宇垣軍縮であり>事実は国防力の増加を図りたのである。昭和4年余が再度の陸相就任当時の露国の状勢は兼ての予想に違はず漸次国力を恢復し政府の基礎は確実となり軍備は充実拡張し来り、最早帝国としても恐るべき存在と認めざるを得ざるに至れり。依て此新趨勢に対応すべき方策即ち第二次の充実案を作成すべく軍制調査会を設置せり。其目的は軍容の刷新と内容充実を主とし併せて財政逼迫の現況にも順応すべく経費の減少をも企図したり。其後経費の縮小に関しては数度に亘る予算の緊急整理によりて七千余万を節減繰延し、殆んど残る問題は軍用の刷新と内容の充実丈けと申す有様となれり。故に本春の議会貴衆両院に於て余は反復して経費の捻出節約は成し尽して居る、今後は国庫に返納すべき様な経費の捻出し得らるることを引当にし期待して呉れるな、との意味を声明し置きたり。今後尚国庫の欠乏を補填すべき目的の為に陸軍々費の節約は国防当局者としては堪え得る所にあらず。・・・国防力の減少を意味する如き節減は容認の余地殆どなしと認める。之れは余一個の意見でなく陸軍全体の空気此辺に在りと考へられて間違ひなし。此空気の観察を誤りて無理を強ゆると事態紛糾の恐れ多し。注意あり度云々」
角田順 『宇垣一成日記2』みすず書房 1968年 pp803-804
<太田>
 昨日のTAさんの鋭い良い質問に引き続き、今度は、鋭い良い問題提起ですね。
 「議会の追及を受けて山梨半造陸軍大臣のもと<1922、23年の>二度にわたり軍備の整理・縮小を実施した(山梨軍縮)が、これではまだ不足であるとした政府・国民の不満と1923年・・・に発生した関東大震災の復興費用捻出のため1925年・・・に宇垣一成陸軍大臣の主導の下、第三次軍備整理が行<われた。(宇垣軍縮)>・・・<山梨軍縮では>師団の数は維持した(将官のポストは減らさなかった)山梨軍縮とは違い宇垣軍縮は4個師団を削減したため、将官の整理を行う結果となった。・・・師団の存在は各地域の格付けという意味合いもあったため師団の廃止は地域にとって少なからず衝撃を与え国民に軍部蔑視の風潮を生み出し、陸軍内での士気の低下が蔓延した。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AE%87%E5%9E%A3%E8%BB%8D%E7%B8%AE 
 「議会の追及を受けて」と「国民に軍部蔑視の風潮を生み出し」には、どちらも直接的典拠が付けられていませんが、私は、そうであったとしても不思議ではないと考えています。
 すなわち、アングロサクソン化の徹底による2大政党制下の機能不全議院内閣制が行き過ぎた軍縮とその結果として国民の間での嫌軍感情を生んだのではないか、従って、これらは、日本社会の縄文モード化を示すものでは必ずしもないのではないか、と考えているわけです。
 もちろん、反証をあげてもらえれば、この考えを変えることにはやぶさかではありませんが・・。 
<XXXX>
 [蛇足]
 太田コラム「戦間期日英関係の軌跡 」では在支日本人達や財界に近しい日本人達の安全保障感覚が優れていたと推察できるところ、本国の平均的な日本人はそうではなかった可能性が高いです。
 ちなみに、宇垣が問題視していたところの「交世論の趨向」が再度変わったのは、下掲雑誌記事によると満州事変のほんの少し前、縄文モードが進行しつつある国民に対して陸軍が安全保障感覚を刺激する梃子入れを行ってからのようです。
 「事変一ヶ月前までは、新聞はそれまでと同様に反軍的論調を展開していた。1931年8月4日に南次郎陸軍大臣(大将、57歳)が行った師団長会議での訓示が新聞に掲載されたのだが、満州問題の根本解決を覚悟すべきであると呼びかけたその訓示が、軍人の政治関与にあたるとして各新聞は陸軍を激しく非難していた。陸軍省は陸軍省で、関東軍よりも限定的な南満州への政略出兵(内閣主導)を構想しており、新聞メディアを通じて国民の支持を得ようとしていたが、このような新聞の論調にあっては、政府はおろか国民の支持すら容易には得られなかった。そこで陸軍省は持っていた隠し玉<(中村大尉事件の公表)>を使った。それにより、世論は一気に中国に対して硬化し、急速に事変支持の下地が形成されていくこととなる・・・」pp86-87
http://ci.nii.ac.jp/naid/40018955379
 以上から、少なくとも満州事変以前における対「赤露」意識において、帝国陸軍≒日本国民とは言えないのではないか、というのが自分の観察です。
 (満州事変以降どのように日本国民の対「赤露」意識が推移したかについては、自分でも調べている段階なのでなんとも言えないのですが、国会図書館のOPACに「赤露」と入れて古書を検索すると、満州事変以降、『背面の脅威この赤露 (1932年)』、『日米開戦と赤露の襲来 (1932年)』、『赤露の見たる太平洋争覇戦 (1932年)』、『眼前に迫る世界大戦と英米赤露の襲来:SOSの日本 (1932年)』、『日本の脅威武装の赤露 (1933年)』、『赤露の動きと我覚悟 (1933年)』、『危機一九三六年と赤露の脅威 :日露若し戦はば(1933年) 』、『国民に檄す国体明徴と赤露の膺懲(1935年)』、『軍縮と新聞ニユース :付・咆へる赤露、英の東洋逆襲 (1935年)』、『一切を挙げて赤露の挑戦に備へよ (1935年)』…といった具合に赤露の脅威を訴える出版物が増えてる様子が窺えます。(それ以前にタイトルから赤露の脅威を訴えていると推察できるものは『赤露の対支陰謀 :支那国民運動の真相 (1927年)』ぐらいです。) 
 網羅的では無く典拠としては心許ない限りですが、太田コラム「先の大戦直前の日本の右翼 」では帝国陸軍≒日本国民と言って良いような状況が出現している事から、上記のような出版物を通じて満州事変以降急速に意識を共有していったのではないかと、とりあえず仮説を立てています。)
<太田>
 幣原外交に対する国民のフラストレーションの高まりから推察できるように、国民は既に変わっていても、二大政党下の機能不全議院内閣制が(有事だというのに)まだ続いていたことから、政治やマスコミの変わりようにはタイムラグがあった、ということではないでしょうか。
 この点についても、反証をあげてみてください。
 
 それでは、その他の記事の紹介です。
 ドイツの首相と大統領が、それぞれルター派の牧師の娘、元牧師であることに注意を喚起する記事だ。↓
 ・・・The most powerful woman in the world, Angela Merkel, is a Lutheran believer, the daughter of a pastor. The new German president, Joachim Gauck, is a former Lutheran pastor. ・・・
http://www.bbc.co.uk/news/magazine-17489035
 猫が高所から落ちても怪我をしたり死んだりしにくいのはなぜかが、丁寧に説明されている。↓
 <落ちながら、下向きに体を整える。↓>
 Through natural selection, cats have developed a keen instinct for sensing which way is down, analogous to the mechanism humans use for balance, biologists say.
 Then – if given enough time – they are able to twist their bodies like a gymnast, astronaut or skydiver and spin their tails in order to position their feet under their bodies and land on them.・・・
 <四肢を広げてパラシュートのようにして落下速度を減殺する。↓>
 Cats can also spread their legs out to create a sort of parachute effect・・・They splay out their legs, which is going to expand their surface area of the body, and that increases the drag resistance・・・
 <空気中での最高落下速度は猫は時速97km、男性は193km。↓>
 ・・・an average-sized cat with its limbs extended achieves a terminal velocity of about 60mph (97km/h), while an average-sized man reaches a terminal velocity of about 120mph (193km/h)・・・
 <着地する時に、四肢が衝撃を吸収する。↓>
 When they do land, cats’ muscular legs – made for climbing trees – act as shock absorbers. ・・・
http://www.bbc.co.uk/news/magazine-17492802
 幼少時に耳に慣れた音楽が刷り込まれるって以前書いたが、同じことをこのコラムニストも言っている。↓
 ・・・ the music you hear at five or six seeps into you forever, whether you like it or not. I have no scientific evidence to back this up・・・
http://www.guardian.co.uk/music/2012/mar/25/children-difficult-music
 いい関係の異性のパートナーの手を握り締めると、血圧は下がり、ストレスは低下し、健康は増進し、物理的痛みは軽減する。↓
 ・・・If you’re in a healthy relationship, holding your partner’s hand is enough to subdue your blood pressure, ease your response to stress, improve your health and soften physical pain.・・・
 <幸せな結婚は、人を愛されている赤ん坊のような気持にさせ、ストレスから解放させる。↓>
 A happy marriage relieves stress and makes one feel as safe as an adored baby.・・・
http://opinionator.blogs.nytimes.com/2012/03/24/the-brain-on-love/?ref=opinion
 ヤク、アルコール、眠気、旅行等の刺激物によって非日常に誘われると、集中/計画能力等が減退し、創造的思考が改善され、新しいアイディア、革新的解法が生まれ易いんだって。↓
 ・・・science is confirming that altered states of consciousness — whether induced by drugs, alcohol, sleepiness, travel or anything else that removes us from our usual way of seeing the world — do indeed improve creative thought. The inhibition of what researchers call executive functioning, which includes focus and planning — abilities that decline when we’re under the influence — may be what lets us generate new ideas and innovative solutions, instead of remaining fixed on the task at hand.・・・
 <このことを、被験者をほろ酔いにして確認したところ、パーフォーマンスが30%向上した。↓>
 ・・・blood alcohol content of 0.075 (just under the legal limit)・・・
 Being drunk improved performance by about 30%.
 <しかも、彼らは、より直観的に問題を解いていた。↓>
 Moreover, the drunk men solved the problems much more intuitively than the sober ones did・・・
 <これでもって、どうして、芸術家や作家やミュージシャンに中毒患者が多いのかが説明できるってわけ。>
 If less executive function is linked to more creativity, this may also help explain why artists, writers and musicians appear to be more vulnerable to addiction.・・・
 <ちなみに、注意力が散漫になる脳損傷者や高齢者は、恒常的に刺激物を投与されているに等しいんで創造力が高いんだと。↓>
 ・・・older people with reductions in attentional control are better at tests that examine creative thought, as are those with brain damage that interferes with attention.
 <じゃ、逆に注意力を高める薬物の効果はどうか。不思議や不思議。知力が高い者は創造力が低くなり、知力が低い者は高くなるっていう実験結果もあるんだって。↓>
 The findings raise the question of whether drugs that increase attention and focus — most notably, stimulants like Ritalin and amphetamines that are used to treat ADHD — would have the opposite effect on creative thinking.・・・
 For example, some research has found that while stimulants can improve test performance for those who are less intelligent, for the smartest folks, the medications can have the opposite effect.・・・
http://healthland.time.com/2012/03/22/how-getting-tipsy-may-inspire-creativity/
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太田述正コラム#5380(2012.3.25)
<松尾匡『商人道ノススメ』を読む(その15)>
→非公開