太田述正コラム#5218(2012.1.5)
<ダニエル・カーネマンの世界(その4)>(2012.4.22公開)
希望は我々の精神を安きに置き、ストレスを低め、身体的健康を増進させる。
心臓疾患の患者達を調査した研究者達は、楽観主義者達は非楽観主義的な患者達に比べて、より、ビタミンを摂取し、低脂肪食品を食べ、かつ運動をするので、全般的な血管のリスクが減少していることを発見した。
癌患者を調査したところ、60歳未満の悲観主義的な患者達は、当初同じ健康状態、地位、年齢であった非悲観主義的な患者達に比べて、8か月以内に死ぬ可能性が高いことが明らかになった。
実際、楽観主義が人間の脳に進化の過程で組み込まれたのではないかという結論に導く科学的証拠の一群が次第に増えているのだ。・・・
記憶が不正確になりがちな理由の一つは、我々の、過去の出来事を記憶するための神経システムが記憶だけのために進化しなかった可能性があるからだ。
つまり、記憶システムの中核的機能は、今後生起することに対して我々が準備することを可能にするために、未来を想像するところにあるのだ。
研究者達は、このシステムは、過去の出来事を完全に再現するようには設計されていないと主張した。
このシステムは、我々の頭の中で、未来の様々なシナリオを柔軟に構築するためのものとして設計されているのだ。
その結果、記憶は再構築プロセスに堕してしまい、しばしば、その詳細が削除され、ほかのものが<代わりに>挿入されるのだ。・・・
一旦人が未来を想像し始めると、最も陳腐(banal)な生活上の諸出来事でさえ、より良いものへと劇的に変じるように見える。
平凡な諸光景が、あたかもハリウッドの台本監修者(script doctor)によって演出されたかのように陽気な詳細でもって輝きを帯びる。・・・<縁起でもない>死についての知識などは、輝かしい未来を描く一貫した能力と手を携えて出現<することで(中和され)>なければならないのだ。
未来を心に描く能力は、その一部を、記憶にとって不可欠な脳構造であるところの、海馬に依拠している。
だから、海馬に損傷のある患者達は、過去を思い出すことができないが、彼らは、未来の諸シナリオの詳細なイメージを構築することもまたできない。
彼らは、<現在流れている>時間の中にはめ込まれているように見える。・・・
・・・我々の未来に係る思考を積極的な方向へと向けているのは、我々の前頭皮質と、脳深くにある皮質下(subcortical)諸領域との間の対話の結果なのだ。
額の裏にある大きな領域たる前頭皮質は、脳の中で最も最近進化した部位だ。
他の霊長目と比べて人間の前頭皮質は一番大きいが、それは言語や目標設定といった多くの複雑な人間の諸機能にとって枢要<な部位なの>だ。・・・
<更に言えば、>我々の脳の二つの枢要な領域において、活発な活動が起こっていることが観察できた。
一つは、感情の処理の中心であり脳の奥深くに位置する小さな構造体であるところの扁桃体(amygdala)であり、もう一つは、前頭皮質の一領域であり感情とやる気を調節するところの吻側前方帯状皮質(rostral anterior cingulate cortex=rACC)だ。
rACCは、交通整理人のような活動をし、プラスの感情及び連想の流れを増進する。
ある人が楽観主義的であればあるほど、プラスの将来の出来事を想像している場合には(マイナスの出来事を想像している場合に比べて)この二つの領域の活動がより高まるとともに、この二つの構造体の間の連接性がより強化される。・・・
軽い鬱状態の人は、将来の出来事を予測する場合、<普通の人に比べて>相対的に正確だ。
彼らは世界をありのままに見る<からだ>。
換言すれば、非現実的な楽観主義を生み出す神経メカニズムが欠如しておれば、人間全員が軽い鬱状態になる可能性があるということだ。・・・
<ある>実験で、学生達のプラスとマイナスの諸期待が操作されるのと並行して学生達の脳がスキャンされ、認知的作業のパーフォーマンスがテストされた。
成功への期待をもたらすため、彼らがテストを行うよう求められる直前に、<一方の学生達には、>頭がいい(smart)、知性がある(intelligent)、利口だ(clever)といった言葉を聴かせた。
<そして、>失敗への恐れをもたらすため、<もう一方の学生達には、>ばかだ(stupid)、無知だ(ignorant)といった言葉を聴かせた。
<そうしたら、>肯定的なメッセージを聴かされた学生達の方がパーフォーマンスが高かった。・・・
<また、被験者に想定させる実験だが、>足の骨折は、それを選ぶまでは他のいくつかの疾患よりも「ひどいもの」と思われているけれど、それを選択した後には、被験者は、希望の光を見出すものなのだ。
「足が骨折していれば、罪の意識にかられることなく、ベッドに横たわってTVを見ることができる」と。・・・
<かつまた、>それを過去において経験したことがある場合は、逆境的出来事を、<人は>よりプラスの気持ちで受け止めるものなのだ。・・・
<更にまた、>二つの目的地の一方を選んでから何秒もしないうちに、人は自分が選んだ目的地に前よりも高く、また、選ばなかった目的地に前よりも低く点数をつけた。
脳をスキャンしたデータが示したところによれば、これらの変化は尾状核(caudate nucleus)で起きている。
それは線条体(striatum)の一部分の神経細胞群の塊だ。
尾状<核>は、報酬を処理し彼らの期待を発する(signal)ことが示された。
支払小切手を与えられようとしている、或いはすごくおいしいチョコレート・ケーキを食べようとしている、と信じると、尾状<核>は脳の他の諸部位に対して、「何かいいことがあるのに備えよ」と放送するアナウンサー役を演じる。
報酬が得られた後には、その価値はすばやく更新される。
支払小切手の中にボーナスが入っておれば、このより高い価値が線条体の活動に反映されるだろう。
もしケーキががっかりさせるものであった場合は、減少された価値の足跡が付けられ、次回には我々の期待が低められよう。・・・
・・・人が学ぶ時、彼らの神経細胞は、我々の楽観主義を増進させることができる好ましい情報は符号化(encode)するが、予期に反する好ましからざる情報を編入(incorporate)することには失敗する。・・・」
http://www.guardian.co.uk/science/2012/jan/01/tali-sharot-the-optimism-bias-extract
(1月2日アクセス)
これは、カーネマンによる説明ではありませんが、幸福の科学は、「脳科学的根拠が」かなり「提供され」つつあるようですね。
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(続く)
ダニエル・カーネマンの世界(その4)
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