太田述正コラム#5256(2012.1.23)
<イギリス史とロシア史が共鳴した瞬間(その2)>(2012.5.8公開)
・フレデリック・マイヤーズ
「・・・チャールズ・ダーウィンが彼の弟のエラスムス(Erasmus)の家で1874年1月に行われた降霊術の会に出席した時、この生物学のパイオニアは、優生学者にして近代心理学の創始者の一人であるフランシス・ガルトンと、小説家のジョージ・エリオットを同道した。
この3人は全員、心霊論(spiritualism)が科学的唯物論の前進を阻止しないか心配していた。・・・
<他方、>「テレパシー(telepathy)」という言葉の発明者であり、かつフロイトの著作を初めて英国に紹介した作家でもある、フレデリック・マイヤーズ(Frederic Myers)<(注12)>は、その後、心霊現象研究学会<(前出)>の創設者の一人となった。・・・
(注12)フレディ・マイヤーズとして前出。Frederic William Henry Myers。1843~1901年。イギリスの古典学者、詩人、哲学者。
http://en.wikipedia.org/wiki/Frederic_William_Henry_Myers
<また、>ダーウィン自身は心霊論を全面的に受け入れなかったけれど、生物学者で探検家のアルフレッド・ラッセル・ウォレス(Alfred Russel Wallace)<(注13)>・・彼のことをダーウィンは自然淘汰の共同発見者と認めた・・は、<科学的唯物論から>心霊論への改宗者となった。
(注13)1823~1913年。「イギリスの博物学者、生物学者、探検家、人類学者、地理学者。アマゾン川とマレー諸島を広範囲に実地探査して、インドネシアの動物の分布を二つの異なった地域に分ける分布境界線、ウォレス線を特定した。そのため時に生物地理学の父と呼ばれることもある。チャールズ・ダーウィンとは独立して自然選択<(=淘汰)>を発見し、ダーウィンの理論の公表を促した。また自然選択説の共同発見者であると同時に、進化理論の発展のためにいくつか貢献をした19世紀の主要な進化理論家の一人である。その中には自然選択が種分化をどのように促すかというウォレス効果と、警告色の概念が含まれる。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%95%E3%83%AC%E3%83%83%E3%83%89%E3%83%BB%E3%83%A9%E3%83%83%E3%82%BB%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%82%A6%E3%82%A9%E3%83%AC%E3%82%B9
ウォレスは、自分は科学的方法論を否定したわけではないと繰り返し言明した。
シジウィックやマイヤーズのように、彼は、科学は世界についての唯物論的見方が間違っていることを示すことができると確信していたのだ。・・・
<死後の>生存の証拠を探すことが、マイヤーズにとって、熱中の対象となった。
というのは、彼が深い愛着(attachment)を覚えるに至っていた、一人の人妻が自殺し、彼は自分の残りの人生を霊媒達を通じて彼女と接触を試みることに費やすことにしたからだ。・・・」(A)
・アーサー・バルフォア
「アーサー・バルフォアは、1902年から1905年まで<英>首相を務めた。・・・」(I)
「・・・心霊現象研究学会は、会長に誇らしくもウィリアム・ジェームスやアンリ・ベルグソンを擁し、テニソン、グラッドストーン、物理学者のレイレー(Rayleigh)卿<(注14)>やサー・ウィリアム・バレット(William Barrett)<(注15)>、そしてアーサー・バルフォアらの人物を惹きつけた。
(注14)第3代レイリー男爵ジョン・ウィリアム・ストラット(John William Strutt, 3rd Baron Rayleigh。1842~1919年)。「光の散乱の研究から空が青くなる理由を示す(レイリー散乱)、地震の表面波(レイリー波)の発見、ラムゼーとの共同研究によるアルゴンの発見、熱放射を古典的に扱ったレイリー・ジーンズの法則の導出などを行った。このほかにも流体力学(レイリー数)や毛細管現象の研究など、古典物理学の広範な分野に業績がある。・・・1904年の ノーベル物理学賞を受賞した。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%A6%E3%82%A3%E3%83%AA%E3%82%A2%E3%83%A0%E3%83%BB%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%A9%E3%83%83%E3%83%88
(注15)William Fletcher Barrett。1844~1925年。物理学者、超心理学現象研究者(parapsychologist)
http://en.wikipedia.org/wiki/William_Fletcher_Barrett
バルフォアは、彼の伝記作者達が呼んだように、「最後の貴顕(last grandee)」であり、<当時の>英国における最も金持ちの男の一人だった。
そして、彼のアイルランド担当相(chief secretary for Ireland)の時の抑圧的諸政策により、血腥い(Bloody)バルフォアという綽名がつけられた人物だ。
バルフォアの、ダーウィン後における人類の苦境についての説明は、以下のように、哀調を帯びた(plangent)、心からの(heartfelt)ものだった。
「人間…は、宇宙の目的因(final cause)<(注16)>であるところの、天から降臨した、全ての時代における<神の>後継者ではもはやない。その存在は偶然の産物であり、その物語は、惑星群のうちの最もつまらぬもの<(=地球)>における、短く、つかの間の不慮の出来事に過ぎない」と。
(注16)「アリストテレス<は、>・・・自然学は現象についてその四種類の原因・・・質料因、形相因、作用因、目的因・・・を検討すべきであると・・・論じた・・・。・・・
焼きそば<を例にとれば、そ>の質料因は、生麺や豚肉など、焼きそばの材料を指す。・・・
焼きそばの形相因は、「焼きそば」の本質、人が食べるものである。・・・
焼きそばの作用因は、「焼きそばがここにある原因」、つまり料理人による実際の「調理」そのものを指す。・・・
焼きそばの目的因は、「焼きそばがここにある目的」、つまり「空腹を満たすため」「売り物にするため」などの目的を指す。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%9B%E5%8E%9F%E5%9B%A0%E8%AA%AC
バルフォアと彼のグループの人々の実に多くにおける、このようなすさまじい自覚から、心霊論に対する新たな熱情的信仰が生れ出たのだ。
バルフォアは騙されやすい人間どころか、徹底的な懐疑主義者だった。
しかし、彼は、墓の向こう側からの交信の可能性を固く信じたのだ。
彼とその他の心霊論者達は、30年間を超える、種々の霊媒達による、自動筆記または「相互交信(cross-correspondences)」の集積という巨大なプロジェクトに依拠して、この信念を支えていた。
グレイは、「相互交信に関わった人々は、エドワード期の社会の最上の階層に所属していた。これらの多くの人は、堪え難い永訣に苦しんでいた。死者と生前、長期にわたる秘密の個人的交情関係にあった人もその中にはいた。手書き文群は、未解決の個人的永訣、そして秘密の恋愛<を解決するという目的>のための手段(vehicle)となったのだ。」と記す。・・・」(A)
(続く)
イギリス史とロシア史が共鳴した瞬間(その2)
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