太田述正コラム#5482(2012.5.15)
<日進月歩の人間科学(続x27)(その1)>(2012.8.30公開)
1 始めに
 コラム#5479で米ウォール街で働く人々の10%は精神病質者(sociopath=psychopath)であるという話を紹介し、市場原理主義ないし原理主義的資本主義は精神病質者の理想郷である的なことを示唆したところですが、またまた、(しつこいと苦笑されることは覚悟の上で、)松尾匡の『商人道ノススメ』批判も念頭に置きつつ、精神病質を巡る米国の最新の研究成果をご披露しておきたいと思います。
 (なお、コラム#5481の2か所の伏字「XXXXX」が何を指しているかはお分かりですね?)
A:http://www.nytimes.com/2012/05/13/magazine/can-you-call-a-9-year-old-a-psychopath.html?_r=3&src=me&ref=general&pagewanted=all
B:http://healthland.time.com/2012/05/14/understanding-the-psychopathic-mind/
C:http://healthland.time.com/2011/09/20/study-1-in-25-business-leaders-may-be-psychopaths/
D:http://healthland.time.com/2011/06/03/mind-reading-when-you-go-hunting-for-psychopaths-they-turn-up-everywhere/
(いずれも、5月15日アクセス)
2 精神病質について
 (1)精神病質について
 「・・・精神病質者は、<米>人口の1%を占めていると推計されているが、犯罪を犯して刑務所にに入っている者のおおむね15から25%を占めており、暴虐的犯罪や殺人を犯した者の中では極めて大きな割合を占めている。
 <ある>神経科学者の最近の推計によれば、精神病質者の国家的コストは毎年4600億ドルにのぼっており、鬱<病患者>のコストのほぼ10倍だ。
 その一つの理由は、精神病質者は何度も逮捕される傾向があるからだ。
 (非暴力的な精神病質者の社会的コストは、更に高い可能性がある。
 <ある学者は、>金融家達やビジネス界の人々に精神病質者が存在する証拠を描写する。 
 彼は、バーニー・マドフ(Bernie Madoff)<(注1)>がこの範疇に属するのではないかと疑っている。)・・・
 (注1)バーナード・ローレンス・マドフ(Bernard Lawrence Madoff。1938年~)。「アラバマ大学を経てホフストラ大学に入学し、政治学を学んだ。・・・ユダヤ系アメリカ人の実業家、元NASDAQ会長。・・・自身が興した証券会社・・・の会長兼CEOとして、30年にもわたって人々を騙し続けて巨大な金額の金融詐欺事件を引き起こした人物・・・。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%90%E3%83%BC%E3%83%8A%E3%83%BC%E3%83%89%E3%83%BBL%E3%83%BB%E3%83%9E%E3%83%89%E3%83%95
 研究者達は、<精神病質者等に見られる>冷血的ふるまいを、低水準のコルチゾル、及び、恐怖等の嫌忌的社会的諸感情を処理するところの、扁桃体が、正常状態を下回って機能していることと結び付けてきた。・・・
 成人の精神病質者の脳を磁気共鳴画像診断したところ、<健常者の脳との>顕著な解剖学的な違いのように見えるものが示された。
 すなわち、<健常者と比較して、精神病質者の脳は、>膝下皮質(subgenual cortex)が小さく、傍辺縁系(paralimbic)システムの各所における脳密度が5から10%少なかったのだ。
 脳のこれらの部位は、共感(empathy)及び社会な諸価値観と関わりがあり、道徳的意思決定の際に活性化する。・・・
 以上のような違いは、遺伝的起源を有する可能性が極めて高い、と研究者達は言う。・・・
 <だから、>精神病質は、これまで治療が不可能であると考えられてきた。・・・」(A)
 「・・・1960年代に、精神病医の一人は、正しく、精神病質の問題は、狂気が正常性の装いの下に隠されていることだと感じたが、間違って、よってこれを直すためには、治療できるようにこの狂気を表面化させることだと感じた。・・・
 通常の場合、明らかに重度の精神病質者が社会復帰させられると、その60%が再び悪さをしでかすが、<治療の一種である>裸体でのLSDを服用した患者達の集団治療を経た者は、その率が80%に跳ね上がった。
 つまり、<治療した結果、彼らは>更に悪化したわけだ。
 私は、最初は、治療が彼らをより狂わせただけだと思ったが、そうではなく、治療が、彼らに共感の騙り方を教えることで、彼らをより巧みな犯罪者に仕立て上げたのだ。・・・
 不安感(anxiety)が精神病質を考えるにあたって重要だと思うの<は、>自分にとって、不安感と共感は同じコインの表裏だからだ。
 私は、精神病質者は、十分な不安感を抱かない人々であると見ているところ、<健常者である>私は、自分自身を不安感を抱き過ぎる人物であると見ている。・・・
 私は、この世界がどう動いているのかについての巨大な数のミステリー・・諸企業における腐敗からジェノサイドに至るあらゆるもの・・を解き明かす鍵が精神病質者であるとの理論を信じつつある。
 独裁者達、そして独裁者達の仰々しさ(grandiosity)、病理的な嘘、共感の欠如、良心の呵責の欠如、に一瞥をくれてごらん。<(注2)>・・・」(D)
 (注2)まさに、そのような観点から古今東西の独裁者の代表事例5人を月旦した記事が下掲だ。↓
 ’The Dictator: Why do autocrats do strange things?・・・’
http://www.bbc.co.uk/news/magazine-17990615
(続く)