太田述正コラム#0119(2003.5.16)
<イラク復興のために日本は何をすべきか(その1)>

(ある雑誌のために執筆したのですが、掲載されるかどうか先行き不透明なので、とりあえず、冒頭部分を皆さんにご披露することにしました。)

1 始めに

 イラク戦争の結果、イラクのフセイン政権が事実上打倒されたのは開戦後三週間目の4月中旬だったが、5月1日にはブッシュ大統領によって正式に戦闘終結宣言が発せられ、いまやイラク問題の焦点は復興支援に移っている。
 ところが、日本はこれまで緊急援助的に人道援助を中心に散発的に援助を約束し、実行して来てはいる(注1)ものの、イラクに本格政権ができるまでのイラクの姿(注2)が見えてきた現在に至っても、日本としていかなる方針でイラク復興支援に臨むのか、いまだに明確な考え方が政府から示されていない。

 (注1)少し時点が古いが、2003年4月25日発行 のメルマガ[Japan Mail Media] No.215によれば、日本の確定拠出額は、NGO活動資金として約4億円、緊急活動資金として3つの国際機関へ約6億円、WFPを通じた食糧援助として約14億円、計約24億円。(ただし、この食糧援助の中から日本の政府米1万トンを買い上げることになっているのでその代金相当分は日本に戻入される。)また、日本政府は国連に対し130億円を上限(ただし、増額がありうる)として資金を拠出すると表明している。

 (注2)米国等は5月9日、国連安保理に決議案を提出した。その概要は以下の通り。
     対イラク経済制裁を解除する。イラク支援基金(assistance fund)を創設し、石油売却代金や各国からの拠出金の受け皿とする。国連は世銀やIMFとともに顧問委員会(advisory board)に顧問を派遣し、この基金の運用を監査する。イラク駐在米英軍にイラク占領当局(Authority)としての法的地位を認め、この占領当局にイラクの諸制度の変革権を与える。占領当局に、イラクに本格的な政権が樹立されるまで、少なくとも一年間、石油売却代金の運用について監理(control)権を与える。イラク人民によってイラク臨時統治機構を発足させる。国連事務局長は特別調整官(special coordinator)を任命し、イラクの人道支援と復興について調整させる。(http://www.nytimes.com/2003/05/08/international/worldspecial/09UNTEXT.html。5月10日アクセス)。
ロシアやフランスの賛同を得るため、米国等が若干の修正に応じる可能性はあるが、基本ラインの変更はないものと思われる。
 
そこで、日本のイラク復興支援に関する私案を提示することにしたい。

 最初に、日本によるイラク復興支援のあり方を模索するにあたって考慮すべき事項を列挙してみよう。

第一に日本は、大量破壊兵器の拡散防止と国際テロの根絶を期して行われた米国等によるイラク戦に対し、積極的に賛意を表しつつもこの戦争そのものには軍事面でも資金面でも一切協力をしなかった。そうである以上、せめてイラクの復興過程において日本ができる限りの貢献をして米国等の負担の軽減を図るのが道理というものであり、その場合、資金的な協力だけでは(1991年の湾岸戦争の時の前例に照らしても)殆ど評価はされないということだ。
第二に米国としても、日本がイラク復興支援に積極的に貢献することを期待しており、北朝鮮問題を抱える日本にとって、この米国の期待に応えて日米同盟の信頼性の維持向上を図ることは、これまでにも増して重要となっている。
他方で第三に、イラク戦に賛成した結果、悪化したアラブ諸国の対日感情の改善を図る必要もある。先進諸国の中で最も中東の石油への依存度の高い日本としては、イラク復興支援という名目で火事場泥棒的に金儲けをしているという印象をアラブ諸国に与えることだけは避けなければならない。
そのためにも第四に、治安状況が決して良くない戦後イラクにおいて、なおかつできるだけ早く日本として復興支援の実をあげる必要がある。
そして日本によるイラク復興支援が成功裏に進展すれば、結果として第五に、イラクに本格政権ができてからのアラブ諸国とのビジネスも資源外交もうまく行こうというものだ。
しかしながら第六に、湾岸戦争の時に比べて日本経済の体力は落ち、財政事情も悪化していることから、湾岸戦争の時のように、資金だけ出してその支出先や支出効果は関知しないということは許されず、貢献内容の費用対効果が納税者たる日本国民から厳しく問われるだろう。
 なお第七として、これまでの日本の発展途上国支援政策には落第点がついている(注3)ことから、イラク復興支援が日本の発展途上国支援政策を抜本的に改善するきっかけになることが望ましい、ということをつけ加えておこう。

 (注3)前回のコラム(#118)がここに入ります。

2 日本のシェア

復興支援事業全体のうち日本が負担する割合は、??湾岸戦争時の戦費負担のシェアが20%、アフガン戦争後の復興支援の負担割合が13%(緊急レポート「イラク復興のコストと論点」三菱総合研究所 4月26日)、??国連のお墨付きがあった湾岸戦争やNATOの賛同が得られていたアフガン戦争の時に比べて、イラク戦への日本政府の賛同は米英に対する大きな政治的支援となった、??他方、湾岸戦争の時と異なり日本は戦費そのものの負担は求められておらず、アフガン戦争時のように自衛隊が「参戦」してもいない、??昨今の日本の経済財政事情は湾岸戦争時に比べてはるかに厳しい、といったことを総合的に考慮すれば、15%程度とするのが妥当であると考えられる。
これを金額に換算するとどれくらいになるだろうか。
上記三菱総研レポートは、石油収入を復興支援に充当することは基本的に困難と判断しつつ、復興支援経費総額(債務免除額を除く。人道支援、社会資本整備、平和維持の合計。人道支援額は小さく、社会資本整備と平和維持は金額的にほぼ拮抗)は、500??2,000億ドル程度と見込んでいる。日本の負担分(15%)は75??300億ドル(120円で換算して、9,000億??3兆6,000億円)程度ということになる。ちなみに、湾岸戦争の時の拠出額は130億ドル(1兆5,000億円)だった。
(続く)