太田述正コラム#5636(2012.8.2)
<エアシー・バトルについて>(2012.11.17公開)
1 始めに
以前(コラム#5120で)、米軍の新しい軍事構想であるエアシーバトル(Air-Sea Battle)に触れたことがありますが、これまでこの構想をきちんと取り上げたことがないところ、ワシントンポストに本ドクトリンに関する記事が2本載ったので、その概要をご紹介しておきたいと思います。
2 エアシー・バトル
「・・・エアシー・バトル<構想>は、・・・<現在>91歳の未来学者<にして、>・・・かつての核戦略家で、・・・過去40年間にわたって米国防省の純評価局(Office of Net Assessment)を取り仕切ってきた、アンドルー・マーシャル(Andrew Marshall)の、1980年代にまで遡るところの、技術的進歩が戦争に関する新しい時代の鳥羽口へと導きつつあるとの強烈な思いの中から生まれ出た。
新しい情報テクノロジーは軍隊が敵を見つけてから数秒以内に攻撃することを可能にした。
<また、>より性能の高い精密照準爆弾は米軍がその標的にほとんど毎回的中させることを保証した。
これらの進歩により、在来爆弾に、小さい核兵器とほとんど同等の力を与えることができる、とマーシャルは推測した。
マーシャルは、彼の<当時の>軍事補佐官であ<った>・・・アンドルー・クレピネヴィッチ(Andrew Krepinevich)中佐・・・という、ハーヴァード大博士の俊秀の将校に対し、迫りくる「軍事における革命(revolution in military affairs<=RMA>)」について、一連の論考を起草するよう求めた。
その成果は、何ダースもの将官達や何名もの国防長官達の心をとらえた。
やがて、米軍部の上級指導者達は、イラクとアフガニスタンにおける血腥くローテクな戦争に大わらわとなり、マーシャルの革命については忘れてしまったかのように見えた。
他方、マーシャルは、中共が、軍事における革命を活用して米国の世界唯一の超大国としての地位に取って代わろうとする可能性が最も高いとして、この国に照準を合わせていた。・・・
<クレピネヴィッチが国防省をスピンオフしてつくった会社が、純評価局の委託を受けて先般実施した>ウォー・ゲームは、20年先において、中共がヘゲモニーを目指す攻撃的な敵となっているとの前提で行われた。
誘導対艦ミサイルが米海軍の空母等の水上艦艇を沈める。
同時並行的に行われる中共軍による攻撃が、米国の航空基地を破壊し、米軍の戦闘機を離陸不可能にする。
多勢に無勢の米軍部隊は、中共の本土めがけて在来兵器でもって反撃し、中共の長距離精密ミサイル群及びレーダー群を破壊する。・・・
相手が、高度の正確さをもって遠くを見ることができて遠くを攻撃することができれば、米国の大基地群は聖域ではなく標的と化する。・・・
<これを受け、>生き残るために、米統合軍の司令官達は、自分達の航空機をテニアン(Tinian)やパラオ(palau)といった太平洋諸島の簡素な飛行場に分散させた。
彼らは、爆弾に対して抗堪性のある航空機用掩体をつくり、損害を受けた滑走路を修理するための即時簡易修理資材を購入した。
<実際に攻撃を受けた場合には、>ステルス爆撃機と静粛な潜水艦が反撃を行う。
<かくして、>統合的アプローチがエアシー・バトルの基盤となった。・・・
国防省内では、陸軍と海兵隊がこの構想(concept)に対して攻勢をかけてきた。
<この構想の下では、空軍と海軍の予算は増額されるだろうが、そのあおりで、自分達の>地上戦闘に係る支出が減額されることになりかねないからだ。・・・
この構想は、オバマ大統領の、米軍の焦点をアジアに移すという、より広範な努力と整合性があるし、その多くについて米議会内に強力な応援団がいるところの、国防省の極めて高度な兵器計画のいくつかを存続させる枠組みを提供するものでもある。・・・」
http://www.washingtonpost.com/world/national-security/us-model-for-a-future-war-fans-tensions-with-china-and-inside-pentagon/2012/08/01/gJQAC6F8PX_print.html
「中共は・・・第一列島線(inner island chain)のかなたに米軍の艦艇や戦闘機を止めておくことを企図したところの、精密ミサイルシステムと高度なレーダーに、過去10年間大いに投資を行ってきた。
エアシー・バトルは、長距離爆撃機と潜水艦を使ってこれらのシステムを無能力化する、という米軍の構想だ。・・・」
http://www.washingtonpost.com/world/national-security/what-is-air-sea-battle/2012/08/01/gJQAlGr7PX_graphic.html?hpid=z2 (←第一列島線と第二列島線(outer island chain)が図示されている。)
3 終わりに
オバマは、アエシー・バトル構想をそっくりそのまま採用したと言えそうなアジア重視戦略をとることによって、軍事命(いのち)の共和党に目つぶしをくらわしつつ、(共和党が強いた面もあるところの、まったなしの)財政再建のための国防費総額の圧縮を行いつつ、(はたまた、在沖海兵隊のグアム移転を沖縄を含む日本側の事情に藉口して巧妙に事実上凍結することによって在沖海兵隊を立ち往生させつつ、)搦め手から海兵隊の大幅削減を実現しようとしている、と見るべきであるという気が私にはしてきました。
してみれば、本来の海兵隊としての生き残りを図ったとも言える沖縄へのオスプレイ配備、そして、ただの陸軍的地上部隊としての海兵隊の生き残りを図ったとも言える下掲のアドバルーン↓は、存続の瀬戸際に追い詰められた海兵隊が、派手な悪あがきを支離滅裂な形で行っている、ということになるのかもしれませんね。
「米シンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS、本部ワシントン)が最近、韓国軍の西海(黄海)地域での対北朝鮮防衛・対応能力の改善を支援するため、米海兵隊を韓半島(朝鮮半島)に追加駐留させるべきだと提言した。・・・」
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120730-00001275-chosun-kr
エアシー・バトルについて
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