太田述正コラム#0137(2003.8.6)
<国際情勢先物市場>
米国防総省の国防高等研究プロジェクト庁(Defense Advanced Research Projects Agency 。DARPA)が推進し、10月1日からの試行を目前にして、野党の民主党議員達や米国のメディアの袋だたきに会って挫折した国際情勢先物市場(Policy Analysis Market。PAM)設置構想について、日本のメディアはもっと関心を寄せてもよいのではないでしょうか。
(DARPAはご存じの方も多いと思いますが、インターネットの生みの親であり、かねてから米国防省はもとより、全米、更には全世界に多大のインパクトを与えてきた先端的研究開発機関です。)
このPAM構想は、石油先物市場が、石油価格という指標でしばしば中東情勢を的確に予想してきたことや、アイオワ大学で行われた実験で大統領選挙予測を賭けにすると学者や世論調査より予測確度が高いという結果が出たこと、などをヒントに生まれたものです(http://www.csmonitor.com/specials/sept11/dailyUpdate.html(7月31日アクセス)及びhttp://www.washingtonpost.com/wp-dyn/articles/A10810-2003Jul31.html(8月1日アクセス))。
当初は中東のみならず、南西、中央アジア全般を対象にし、その一方で参加者は米国政府内の情報専門家等に限定ようとしていたのですが、政府部内の機関の間で資金のやりとりすることは法的に問題がある等の理由から、一般人が誰でも参加できる形に変更され、かつ対象も中東8カ国の情勢に対象が限定され、インターネット上で試行が開始されようとしていました。
「商品」としては、これら8カ国の経済情勢、治安情勢、軍事態勢のほか、これら8カ国においてテロ攻撃、(アラファト議長等の)暗殺、(ヨルダン王制転覆等の)クーデターが発生する可能性等、が予定されていました。(ワシントンポスト前掲)
システムを受託したのは、Net Exchangeというネット市場専門会社のほか、(英ファイナンシャルタイムズ紙が株式の半分を持つ)英エコノミスト誌グループの子会社のEconomist Intelligence Unitでしたが、これはエコノミスト誌が持つ豊富な国別情報が高く評価されたからです。(http://news.ft.com/servlet/ContentServer?pagename=FT.com/StoryFT/FullStory&c=StoryFT&cid=1059478556725&p=1012571727102。7月31日アクセス)
ところが、「テロ攻撃」等を「商品」にするなんて非道徳的であり言語道断だ、しかもテロ等を誘発しかねない、或いはこれら「テロ攻撃」の芽をつもうとする米国等を妨害しようとする輩が出てくるかもしれない、といったいわれなき非難を受けて(クリスチャンサイエンスモニター前掲)この構想は頓挫してしまいました。
しかも、PAM構想の監督責任者であったジョン・ポインデクスター退役海軍提督まで辞任に追い込まれることになりました。提督は2002年1月に国防総省に戻り、新しく設置されたInformation Awareness Officeを率い、コンピューターを駆使して金融、旅行、医療等のデータベースを漁り、テロ関連情報を集めるという、これもまた論議を呼んだプロジェクトを手がけてきたことで知られています。(ワシントンポスト前掲及びファイナンシャルタイムズ前掲)
ちなみに提督は、1980年代にレーガン政権の安全保障問題のアドバイザーを務め、武器と人質を交換した、いわゆるイランコントラ事件に関与したとして起訴され、一旦有罪となったものの、後に無罪となったといういわくつきの人物でもあります(ファイナンシャルタイムズ前掲)。
いずれにせよ、この構想は極めて興味深く、将来、何らかの形で日の目を見ることが期待されます。
日本で国内、それがダメならオフ・ショアでこの市場を立ち上げて見ようという方はおられないものでしょうか。成功すれば「胴元」として相当儲けられるかもしれませんよ。