太田述正コラム#0156 (2003.9.16)
<外国人の日本株買い>

 (これは、経済をメインテーマとするメルマガJMMへの投稿です。村上龍編集長(芥川賞作家)が同誌に掲載するかどうか、お手並み拝見というところです。)

 私は、現在の日本の閉塞状況をもたらしている最大の原因の一つが、国際的な平和と安定の確保を米国に丸投げしてひたすら自らの経済的繁栄を追求するという、「利己」的な国家戦略である吉田ドクトリンを戦後日本が墨守してきたことにあると考えている者です。
貴誌は経済をメインテーマとし、しかも高名な文学者が編集長であられることから、まさに現在の日本を象徴するメルマガであろうと拝察し、大変興味を持って拝読させていただいております。
ですから、いわば私の研究対象である貴誌に私自身が投稿するというさしでがましいことは差し控えてきたのですが、昨日(2003年9月15日)発行された貴誌を読んで、どうしても一言申し上げたくなりました。

「外国人投資家は、相変わらず日本株を買い越しているようです。外国人投資家は、どうして日本株を買うのでしょうか。」という編集長の投げかけた設問に対し、常連回答者の方々の今回の回答は全く回答になっていません。(「バブル後の最安値をつけた頃と、日本経済の状態が大きく変わっている感じはしません。単に「見方が変わった」だけだという岡本さん<(回答者の一人)>の指摘は示唆的だと思いました。」というあたりに、回答に接した村上編集長ご自身のはがゆさが現れています。)
それもそのはずで、設問はより端的には「時代はなぜ変わったのか」ということであり、経済的観点だけでこれに回答することはそもそも困難だからです。
マックス・ヴェーバーならずとも、経済はレール(時代)の上を走る機関車に過ぎず、いかなるレール(時代)の上を走るかを決定する転轍機の役割を経済が果たすことはありえません。ヴェーバーは転轍機の役割を果たすのは宗教だと考えましたが、これを世界観と言い換えてもいいでしょう。
私は、このところの外国人の日本株買いは、経済的には説明が困難であって、要するに彼らの世界観が一変したからだと考えています。
なぜか。
手がかりは、米国の世論調査を紹介した次の記事にあります。

「日本を「親密な同盟国」と認識する米国民は前年<の2002年>より4ポイント増えて1982年以来の高水準の32%となり、ドイツを抜いて前年の8位から7位に浮上した。
・・イラク戦争に強く反対したフランスは8位から19位に、ドイツも6位から14位へと大幅に下がった。首位は前年と同じく英国で74%が「親密な同盟国」と認識。2位のカナダ(57%)、3位のオーストラリア(53%)を大きく引き離した。 親密度ランクはイラク戦争への支持・不支持が色濃く反映。スペインが12位から8位に、韓国も14位から9位にそれぞれ浮上した。」(http://www.sankei.co.jp/news/030911/0911kok027.htm。9月11日アクセス)

 思い出してください。日本の株が上がりだしたのは、つまりは外国人の日本株買いが始まったのは、イラク戦争が始まった3月中旬であったことを。
 小泉政権が、イラク戦争支持の立場を鮮明に打ち出し、これがブッシュ政権によって高く評価され、日米関係の安定性が強くアッピールされたこと。このことにより、従来から米国等の投資家が小泉政権の経済政策、ひいては日本経済に対して抱いていた不信感、不安感が払拭されたこと。
これこそが、米国等の外国人投資家が日本に回帰した最大の理由だと私は考えているのです。

そうだとすると、小泉政権が自衛隊のイラク派遣を一日延ばしにしていることは、危ういこと限りなしと言わざるを得ません。
外国人投資家が日米関係の先行きに不安を覚えるようになった途端、彼らは躊躇なく世界観を再修正し、日本株を売り浴びせてくることでしょう。

                   元防衛庁審議官 評論家 太田述正(のぶまさ)
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