太田述正コラム#5966(2013.1.14)
<狩猟採集社会(その1)>(2013.5.1公開)
1 始めに
米英両国で、同時に大変な反響を呼んでいる、ジャレド・ダイアモンド(Jared Diamond)の新著、’The World Until Yesterday’ のさわりを書評群をもとにご紹介し、私のコメントを付そうと思います。
A:http://www.csmonitor.com/Books/Book-Reviews/2012/1231/The-World-Until-Yesterday
(1月1日アクセス)
B:http://www.guardian.co.uk/science/2013/jan/06/jared-diamond-tribal-life-anthropology
(1月6日アクセス)
C:http://www.ft.com/intl/cms/s/2/6b3c3014-54e0-11e2-a628-00144feab49a.html#axzz2HGNAZ6iI
(1月7日アクセス)
D:http://www.latimes.com/features/books/jacketcopy/la-ca-jc-jared-diamond-20130106,0,4226467.story
(1月12日アクセス。以下同じ)
E:http://www.nytimes.com/2013/01/13/books/review/the-world-until-yesterday-by-jared-diamond.html?hp&_r=0&pagewanted=all
F:http://www.telegraph.co.uk/culture/books/non_fictionreviews/9756597/The-World-Until-Yesterday-by-Jared-Diamond-review.html
(1月13日アクセス。以下同じ)
G:http://online.wsj.com/article/SB10001424127887323277504578189871656766216.html
H:http://www.independent.co.uk/arts-entertainment/books/reviews/the-world-until-yesterday-by-jared-diamond-8437269.html
I:http://www.cleveland.com/books/index.ssf/2012/12/jared_diamonds_the_world_until.html
ちなみに、下掲の二つの書評には、引用すべき個所がありませんでした。↓
http://www.telegraph.co.uk/culture/books/bookreviews/9781232/The-World-Until-Yesterday-by-Jared-Diamond-review.html(1月13日アクセス。以下同じ)
http://articles.chicagotribune.com/2012-12-28/features/ct-prj-1230-world-until-yesterday-jared-diamond-20121228_1_diamond-world-society-canoe
また、ロンドン・タイムスは、書評も有料であるため、冒頭部分以外は読むことができませんでした。↓
http://www.thetimes.co.uk/tto/arts/books/non-fiction/article3637175.ece
なお、ダイアモンド(1937年~)は、次のような人物です。
「<米>国の進化生物学者、生理学者、生物地理学者、ノンフィクション作家。著書『銃・病原菌・鉄』で1998年度のピューリッツァー賞(一般ノンフィクション部門)、1998年コスモス国際賞を受賞した。また、1999年にアメリカ国家科学賞を受賞している。現在、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)[地理学]教授。・・・ボストンで・・・ユダヤ系の両親の間に生まれる。
{父親は著名な小児科医で、循環器疾患の専門家であり、母親はピアニスト兼言語学者だった。両親とも、≪ロシアのベッサラビア地方(現在のモルドバ共和国プラスアルファ)≫生まれのユダヤ人であり、20世紀初頭の累次のポグロムを逃れて米国に渡来した。}
1958年にハーバード大学で生物学の学士号を取得後、1961年にケンブリッジ大学で生理学の博士号を取得した。その後、生理学者として分子生理学の研究を続けながら、平行して進化生物学・生物地理学の研究も進め、特に鳥類に興味を持ち、ニューギニアなどでのフィールドワークを行なった。そこでニューギニアの人々との交流から人類の発展について興味を持ち、その研究の成果の一部が『銃・病原菌・鉄』として結実した。近著として、マヤ文明など、文明が消滅した原因を考察し、未来への警鐘を鳴らした『文明崩壊』がある。
<彼のこれまでの主要著書(4冊)は、全て邦訳されている。>」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%83%AC%E3%83%89%E3%83%BB%E3%83%80%E3%82%A4%E3%82%A2%E3%83%A2%E3%83%B3%E3%83%89 (≪≫内も同様。)
(ただし、[]内はA、{}内はBによる。)
2 狩猟採集社会
(1)ダイアモンドのこれまでの主張
「『人間はどこまでチンパンジーか?――人類進化の栄光と翳り(The Third Chimpanzee: the Evolution and Future of the Human Animal)』<(1992年)>・・・は、同年の科学書に係る英王立協会賞(the Royal Society prize)を授与された<本だが、その中で>・・・農業の到来とともに、女性は家庭内の単調で大変な仕事をさせられることになり、人々は資源と富を貯めこむようになり、また、我々は動物に近接することとなり、それが、いまだに我々をなぎ倒しかねない伝染病に我々が罹る引き金となった、とダイアモンドは主張した。
<そして、>「農業とともに、我々の生存を辛いものにした(curse)ところの、大きな社会的かつ性的不平等、そして、疾病と専制主義が到来した」と彼は述べた。」(B)
「その次の<本の>『銃・病原菌・鉄――1万3000年にわたる人類史の謎(Guns, Germs, and Steel: the Fates of Human Societies)』<(1997年)>では、ダイアモンドは、最初の農民達によって導入された罪に<もう一つ>新しい罪を加えた。・・・スペインの征服者達によるインカの人々の奴隷化を含むところの、植民地主義だ。」(B)
「<この本>の中で、彼は主要な陸地の方向性に注意を喚起しつつ、どうして欧米が残余に対して勝利を収めたかを説明しようとした。
彼は、ユーラシア大陸が横長である(lateral)ことが、諸テクノロジーと疾病とが、類似の気候、生態系、そして生活様式を有する帯<状の地域>一帯において、東西間で交換され合うのを促進した、と主張した。
対照的に、南北アメリカ大陸、アフリカ大陸、そしてオーストララシアは、生態学的により多様性に富んでおり、それがゆえに、より孤立した社会文化的発展を遂げた、と。」(I)
「この本の中で、ダイアモンドは、人間の諸社会は、それぞれがどこに位置していたかによって、異なった成功の程度でもって異なった速さ(rates)で進化を遂げた、と断定(posit)した。・・・
ある程度において、地理は宿命だ。
人類は、当然のことだが、繁栄するためには充分な食糧が必要だ。
しかし、ダイアモンドが説明するように、「生育(domestication)に適していて穀物や家畜にすることができる野生植物や野生動物は驚くほど少ない。その数少ない野生種は世界の約12の小さな地域だけに集中していた。
これらの地域における人間諸社会は、その結果、食糧生産、食糧余剰、増大する人口、先進的テクノロジー、そして国家政府、を発展させるにあたって決定的に有利なスタートを切ることができた」のだ。
この違いが、我々が現在欧州の優越(dominance)と呼ぶもの<のよってきたるゆえん>を説明する。
すなわち、欧州人達は、「最も貴重であるところの、生育可能な野生植物種や野生動物種」の原生地である肥沃な三日月地帯の周辺に定住した。
これに対し、豪州なる巨大な島のアボリジニ種族は、「生育可能な野生植物種や野生動物種が極めて少ない地域に定住した」のだ。」(A)
「欧州が力の拠点(power base)の一つになったのは、その諸国が、8,000年くらい前に中東で出現した最初の農業諸社会の中から生じたからだ、と彼は言う。
なお、農業がそこで初めて出現したのは、世界で最も容易に生育可能な、羊、牛、そして馬、といった動物がそこで見つかったからだ。
このようなスタートを切ることができたので、欧州は最初の政治的諸国家と軍事力拠点を具現化させることを可能にする食糧生産の水準を維持できたのだ。
銃と鉄はその地で発明され、次いで世界の残余を征服するのに使われた。
これらのテクノロジーを持っていなかったインカ人達は、スペイン人に抗するすべは殆んど持ち合わせていなかった。
「欧州の他の諸大陸への不吉な贈り物」である病原菌群は、我々の跡を追っ<て伝播し>た。
この本のメッセージは、単純だが政治的には強力だ(charged)。
<すなわち、>欧米の人々が特別だったり生来的に優れているものは何もないのだ。
彼らは、支配的人種(master race)などではない。
彼らは、単に、地理的に恵まれていた(privileged)だけなのだ。」(B)
(続く)
狩猟採集社会(その1)
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