太田述正コラム#6020(2013.2.10)
<湾岸諸国はどうなる?(その1)>(2013.5.28公開)
1 始めに
本コラムで、久しく湾岸諸国を取り上げていないこともあり、このところ激動が続いている中東諸国の中では相対的に「安定」しているこれら諸国を取り上げようと思います。
まず、総論を、昨年上梓されたクリストファー・M・デーヴィッドソン(Christopher M Davidson)の『首長達の後へ–湾岸君主諸国に近く訪れるであろう崩壊(After the Sheikhs: The Coming Collapse of the Gulf Monarchies)』のさわりを、その2つの書評及び本人による最近のコラムをもとにご紹介し、私のコメントを付するところから始めようと思います。
その上で、湾岸諸国中の、それぞれ異なった意味で例外国家であるところの、カタールとサウディアラビアを個別に俎上に載せたいと思います。
2 総論
(1)序
デーヴィッドソンは、ケンブリッジ大学卒の中東政治の著名な専門家であり、現在、英ダーラム(Durham)大学のフェローです。
http://en.wikipedia.org/wiki/Christopher_Davidson
(2)湾岸諸国の崩壊は近い?
ア 概観
「サウディアラビア、クウェート、アラブ首長国連邦、カタール、そしてオマーンは、他と明確に区別される集団だ。
(貧困に喘ぐ共和制イエーメンは、それ自体が惨めな、<独立した>一つの範疇だ。)
この6つの君主国のうちの3つは巨大な石油ないし天然ガスの埋蔵量と莫大な富とを享受している。
その全ては、時代遅れの政治諸構造を持ち、中東と北アフリカを変化の風が通り抜け始めてから緊張状態を呈してきた。
金持ちの諸国はこの問題にカネを惜しげもなく投じて対処してきたが、潜んでいる亀裂はそのままだ。
デーヴィッドソンは、族長(emir)達、国王達、そして首長(sheikh)達・・オマーンだけはスルタン(sultan<=イスラム教国支配者>)を今でも持つ・・が、かくも長きにわたって生き長らえてきたのは、伝統的な権力諸基盤に近代的諸制度を接ぎ木してきたからだとする。
忠誠は、<人々への>安定と諸役務の気前良い提供と引き換えに買われてきたが、現在の水準で金を使うことを無限には続けられない。
<また、>課税はゼロだし代表制はないかほんのちょっとしかない。
<更に、首長達への>畏敬、宗教、そして欧米的貪欲、が批判者達を寄せ付けず、現状維持を確保して来た。
東洋通(orientalist)による<改革して欲しいとの>たっての懇願は成功の見込みがない。
そこにおいて展開されて来たのは、抜け目のない政治的計算、顕示的消費・・ア首連はスコッチの世界最大の消費者だ・・、不透明な予算群、そしてハロッドやア首連スタジアムといった資産を吸い上げるソヴリン富ファンド群の非感傷的な物語だ。
バーレーンでのフォーミュラワンやカタールでの<サッカーの>ワールドカップといったスポーツ諸大会は、たとえそれらが諸資源の浪費を意味したとしても、<それぞれの国の>ブランド<価値を高める>ことに資した。・・・
ぎんぎらぎんの摩天楼群やお化けのように巨大なショッピング・モール群から目を逸らせば、その社会的帰結は冷酷だ。
金利生活者的諸経済は、その殆んどが未成年や若いところの国民に対し、きつくない、しかし退屈極まりない、政府の仕事を提供しており、インド亜大陸とフィリピンからやってきた外国人達が困難な移植的業務(hard graft)を行っている。
湾岸地域においては、そのどこにも、シリアやカダフィのリビアの規模の、国家による抑圧は存在しないが、期待水準の高まりと社会的メディアの普及によって、抗議に向けての新しい諸可能性が創造された。
<例えば、>クウェートは、世界で最もスマホの使用率が高い。
<また、>バーレーンの民主主義活動家達は、人々の目から隠されていた巨大な宮殿群をグーグルアースを使って暴露した。
<或いはまた、>アノニマスのサウディアラビアのツウィッター・アカウント群は、王族の腐敗の物語を伝える。
しかし、テクノロジーは道具に過ぎない。
諸政府は<諸政府で>、ハッシュタグ(hashtag)<(注1)>や王族のフェイスブック頁群を作り出したり、外国人顧問達やロビイスト達を雇ったりすることができる。
<そしてまた、>デーヴィッドソンは、英国と米国の学術諸機関への湾岸諸国の資金提供についての心穏やかならぬ一節を<この本に>設けている。
(注1)「Twitterの使い方のうち、ハッシュマークを利用してエントリーにタグ付けする使い方」
http://ejje.weblio.jp/content/hashtag
<更にまた、>ムバラクやカダフィのように、若干の湾岸諸国・・途方もなく金持ちのカタールを除く・・は、統治において、あの古きお好みたる、イスラム主義者カードを用い、自分達がイスラム同朋会の陰謀の標的になっている、と警告する。
エジプト<革命>の成り行きは、恐らく、不幸にも、彼らがこのカードをより効果的に使うことを助けるのではなかろうか。・・・
<こういうわけで、>石油や天然ガスの価格の急降下、或いは、長らく待たれてきたところの、米国のエネルギー独立、が予想よりも早く到来しない限り、デーヴィッドソンは2~5年で<湾岸諸国は>崩壊すると言っているけれど、その予想は短すぎる、ということになりそうだ。」
http://www.guardian.co.uk/books/2012/dec/28/after-the-sheikhs-christopher-m-davidson-review
(12月31日アクセス)
(続く)
湾岸諸国はどうなる?(その1)
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