太田述正コラム#6040(2013.2.20)
<湾岸諸国はどうなる?(その5)>(2013.6.7公開)
3 カタール
「この小さなペルシャ湾岸国家は、一人当たり国民所得において世界一だ。・・・
<カタールは、>GDPの半分を超え、かつ政府収入の70%を占めるものが天然ガスの輸出から来る。
この状態は、長期間にわたって維持できる。
なぜなら、カタールの埋蔵量は、イランとロシアに続く世界3番目の大きさである一方で、人口は<この両国に比べて>はるかに少ないからだ。
(富は、推計250,000人の市民達に大きく集中している。<そして、>その約4倍の移民達が、日常的な仕事の多くを行っている。)
しかし、それでもリスクはある。
天然ガスが枯渇するより前に、米国におけるシェールガス革命と豪州のガス輸出の増大が価格を下げたり、テクノロジーの諸革新がそれ以外の予見できないリスクをもたらすかもしれない。
カタールは、他の湾岸諸国における、石油関係価格が下がると成長が鈍化し、反対の声が高まる、という経験からも学んでいる。
賢明にも、カタールはそのカネのかなりの部分を人的資本に投資している。
教育、科学研究、職業訓練、芸術、映画といった<分野にだ>・・。
カタールの投資のうちの若干は、単純明快な経済的収益(returns)を追求したものだが、その他のものは、この国のブランド<価値を高める>ことを意図したものだ。
ロンドンでは、その大部分をカタールが所有しているところの、ザ・シャード(Shard)摩天楼<(注7)>が、劇的な知名度(visibility)<の向上>をもたらしている。
(注7)「ロンドンのロンドン・ブリッジ駅の南西側に建設中の超高層ビル。2008年9月に着工、2012年7月5日に外構が竣工した。内部の完成は2013年の予定である。地上87階建て、尖塔高310mで、2007年竣工のモスクワ・シティのナベレジナヤ・タワー (268.4m)を超え、<現在、>ヨーロッパで最も高いビルディングである。・・・建築設計はポンピドゥー・センターや関西国際空港旅客ターミナルビルで知られるイタリア人建築家レンゾ・ピアノ(Renzo Piano)。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B6%E3%83%BB%E3%82%B7%E3%83%A3%E3%83%BC%E3%83%89
パリでは、それとは対照的に、数百万ユーロがバンリユー(banlieux)地区<(注8)>の経済的再生に投じられており、しばしば(カタールが次第に大きな影響力を発揮している)北アフリカのアラブ・イスラム諸国出身であるところの、多くの失業中の若者達によって感謝の念をを捧げられることとなろう。・・・
(注8)「フランス語で「郊外」という意味である。・・・1970年代から1980年代ごろから、「バンリュー(郊外)」という言葉は、<フランスの>パリなどの大都市のはずれにある、旧植民地からの移民(アルジェリアやモロッコからのアラブ人、サハラ以南からの黒人)が主に住む低所得世帯用公営住宅団地を婉曲に指して使うことが多くなった。・・・石油ショックによって移民を必要とした好景気は終わり、1980年代以降、フランスの若い世代全体に新規の求職がない状態が続き、とりわけ・・・移民2、3世の若者は求職で合格をもらうことが困難で失業率が増加した。非行化が進む移民2、3世の少年達によって軽犯罪が増加した結果、バンリューの団地はフランス社会から貧困で危険な地域だと見られるようになった。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%90%E3%83%B3%E3%83%AA%E3%83%A5%E3%83%BC
カタールは、6つの湾岸王国の中で、最も遅く富とご縁ができた国だ。
わずか、10年ちょっと前までは、後進地域だった。・・・
しかし、1988年から2008年にかけて、世界の天然ガス価格は3倍になり、新しいカタールが生まれたのだ。・・・
アル・ジャジーラは、そのアラブの春の先端的報道によって全球的称賛を浴びた。
それは、アラブの放送局の中で、まともに欧米の視聴者に受け入れられた唯一のものであり、全球化が欧米化を意味しなければならないとのステレオタイプに挑戦状を叩きつけている。
<また、>長年にわたって広告を受け入れていなかった<サッカー>チームであるFCバルセロナのシャツには、今では、カタール基金(Foundation)・・族長の奥さんのシェイカ・モザ(Sheikha Mozah)を長とする組織・・のロゴがこれ見よがしに付けられている。
このブランド<価値>を高める営みは、この国が、その経済を発展させその国民を訓練してくれる才能ある人々を惹き付けことに資している。
カタール基金は、ジョージタウンといった、米国の最上級の諸大学に加えて英国のロンドン大学ユニヴァーシティ・カレッジにカタール・キャンパスを設立するよう取り計らった。
それは、愛国主義への投資でもある。
この国は、まだ生まれてから42年しか経っておらず、国境が画定したのも2001年になってから<という若い国>だ。・・・
英国は、とりわけカタールとは近しい関係にある。
カタールは、英国が使用する天然ガスの半分前後を今や供給している。
これは、英国がカタールの政治的安定に大きな関心を持たざるを得ないことを意味する。
また、カタールの主たる安全保障上の支援者は、同国に大きな航空基地を持つ米国だ。
歴史的に、クウェートはイラクを、そしてバーレーンはイランについて心配してきたのに対し、カタールは、その巨大な隣国であるサウディアラビアの方を神経質に見やってきた。
この両国は、おおむね関係の修復に成功しているが、問題はなお残っている。
カタールは、イランについても心配してきた。
イランとは、世界最大の天然ガス田を共有している<関係にある>。・・・
以前のカタールは、地域のあらゆる立場の者達と友好関係を取り結ぶ偉大なる能力を発揮してきた。
その首都であるドーハ(Doha)は、ハマス指導者のハレド・メシャル(Khaled Meshaal)の殆んど第二の故郷的<な場所>だったし、公式にはイスラエルを承認していないにもかかわらず、イスラエル大統領のシモン・ペレス(Shimon Peres)の訪問を受け入れた。
数年前には、そのシリアの大統領のバシャール・アル=アサド(Bashar al-Assad)との関係もこれあり、カタールによる仲介が、レバノンにおけるヒズボラとその反対者達との間の政治的危機を終わらせた。
<しかし、>現在では、カタールは、アサドの体制に対する軍事介入の指導的擁護者であり、反対陣営を支援する最前衛だ。
この反対陣営の新しい連合が昨年11月にドーハで創られ、この次第に自信を深めつつある小さな国が自身を背伸びさせることを、依然躊躇していないことを<我々に>再確認させた。」
http://www.taipeitimes.com/News/editorials/print/2013/02/09/2003554580
(2月10日アクセス)
(続く)
湾岸諸国はどうなる?(その5)
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