太田述正コラム#6170(2013.4.26)
<ドイツ中心近代史観(その1)>(2013.8.11公開)
1 始めに
 コラム#6168で言及した、Brendan SimmsのEurope: The Struggle for Supremacy, 1453 to the Presentの概要を、その書評類をもとにご紹介し、私のコメントを付そうと思います。
 もとより、示唆に富んでいる部分もないわけではないのですが、近代史に係るシムズの欧州単一史観(ドイツ中心史観)を私のアングロサクソン対欧州対峙史観でもって、また、より一般的には世界史に係るシムズの外交軍事的史観を私の文明論的史観でもって批判する、という趣のものになりそうです。
A:http://www.ft.com/intl/cms/s/2/37d90f60-a5d7-11e2-b7dc-00144feabdc0.html#axzz2QyQJ2Yk2
(4月20日アクセス。書評(以下同じ))
B:http://www.literaryreview.co.uk/rayfield_04_13.php
(4月24日アクセス(以下同じ))
C:http://www.economist.com/news/books-and-arts/21576370-two-compelling-analyses-germany-our-time-and-battleground-country
D:http://www.publishersweekly.com/978-0-465-01333-3
E:http://www.telegraph.co.uk/culture/books/non_fictionreviews/9986890/Europe-by-Brendan-Simms-review.html
F:http://www.militarybookclub.com/history-books/european-history-books/europe-by-brendan-simms-1077629885.html
G:http://www.newstatesman.com/world-affairs/europe/2013/03/cracked-heart-old-world
(著者本人による解説)
 なお、シムズは、ケンブリッジ大学の国際関係史の教授であり、
http://en.wikipedia.org/wiki/Brendan_Simms
1992~95年のボスニア戦争での英国の政策を厳しく批判した’Unfinest Hour’や、大英帝国の出発点は、植民政策や商業政策よりも欧州大陸における戦争や政治的策動への関与であったと指摘した、’Three Victories and a Defeat’で知られている人物(E)です。
 彼は、この本を書いたこともあり、債務危機を巡って、EU、就中ドイツのEUとの関わり、に対して国際的な関心が高まっている折から、いわゆるドイツ問題の歴史に通暁している人物として注目されており、例えば、4月11日付のドイツのシュピーゲル誌に、そのインタビューが掲載されたりしています。
H:http://www.spiegel.de/international/europe/cambridge-scholar-examines-roots-of-anti-german-sentiment-in-europe-a-893439.html
 このインタビュー中で、彼は、この本の中で展開された彼のドイツ観の一端を披露するとともに、EUはドイツのイニシアティヴで政治統合がなされなければならず、この政治統合されたEUの一員に英国やスイスはなるべきではない、とも述べているところです。
2 ドイツ中心近代史観
 (1)序
 アフリカにおけるドイツ植民地主義のある一人の主唱者が山のような<ドイツ>拡大諸計画を引っ提げてオットー・フォン・ビスマルクを訪ねた時、年老いた宰相は、懐疑的な面持ちでこの諸計画を点検した後、「私のアフリカの地図は欧州に置かれている。ここにロシアがいてここにフランスがいて、我々はその間にいる。これが私のアフリカの地図だ」と述べた。
 ブレンダン・シムズは、この挿話を、約5世紀にわたるところの、欧州の諸君主、諸政治家、そして諸将軍の地政学的想像物が、いかに、殆んど全ての全球的出来事を自分達の大陸への影響という観点から<受け止めることによって>形作られてきたか、についての一つの事例として引用する。
 諸戦闘、経済的諸機会、及びアフリカ、南北アメリカ、アジア、オーストララシアにおける新しい諸世界の征服は、すべて、究極的には、おおむね欧州における権力闘争に係る営みであった、とシムズは強く主張する。
 「その期間の長短に関わらず、中欧を制した(control)者はそれが誰であれ欧州を制するし、全欧州を制した者は究極的には世界を支配(dominate)する」と。」(A)
(続く)