太田述正コラム#0192 (2003.11.23)
<台湾は「独立」できるか?(続々)>
(2)政治面でのテコ入れ
11月初頭、陳水扁台湾総統は、パナマの建国記念式典に出席する途中、ニューヨークに立ち寄り、人権擁護団体から表彰状を受け取り、人権問題が中心ではありましたが、「政治的」講演を行いました。米中国交樹立(=米台国交断絶)以来、台湾の政府高官が米国内で講演を行うことが認められたのは初めてのことです。しかも、米下院は全員一致で陳水扁歓迎決議まで行っています。(彼が民進党党首として野にあった当時に米国を訪問した際には、ホテルから一歩も外に出ないという条件付でした。当時のことを思い出すと感無量だと陳水扁自身が語っています。)
パナマで、同じ式典に参列したパウエル米国務長官と立ち話を行ったことも画期的なことでした。米中国交樹立以来、最も高いレベルにおける両「国」の接触だからです。
パナマから帰台する途中、陳水扁はアラスカに立ち寄るのですが、現地では州知事が歓迎式典を行いました。李登輝前総統が現役総統時代に立ち寄った時には、空港の待合室の外に出ることも許されなかったことと比べると隔世の感がありますhttp://www.taipeitimes.com/News/edit/archives/2003/11/08/2003075083(11月8日アクセス)、http://news.ft.com/servlet/ContentServer?pagename=FT.com/StoryFT/FullStory&c=StoryFT&cid=1066565731896&p=1012571727102(11月9日アクセス)、http://www.taipeitimes.com/News/front/archives/2003/11/06/2003074738(11月7日アクセス)、http://www.taipeitimes.com/News/taiwan/archives/2003/11/10/2003075301(11月11日アクセス)、http://www.taipeitimes.com/News/taiwan/archives/2003/11/10/2003075300(11月11日アクセス))。
この陳水扁の米国「公式」訪問に随行した、米国の事実上の駐台湾大使であるシャヒーン女史は、その後、「「台湾独立を支持しない」との米国政府のスタンスは、「台湾独立に反対する」という趣旨ではない」と言明し、陳水扁訪米に不快感を表明していた中共を激怒させました(http://edition.cnn.com/2003/WORLD/asiapcf/east/11/16/taiwan.shaheen/index.html。11月17日アクセス)。
以上からはっきりしたことは、米ブッシュ政権が陳水扁再選支持、ひいては台湾「独立」を事実上、積極的に支援するスタンスを明確に打ち出したということです。
11月6日の演説(コラム#190。http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/articles/A8260-2003Nov6.html(11月7日アクセス))でブッシュ大統領が、「我々の民主主義へのコミットメントは中共で試されている。この国には今、一片、ひとかけらの自由しかない。しかし、やがて中共の人々は純粋かつ包括的な自由を求めるようになるだろう。中共は経済的自由が国富をもたらすことに気づいた。中共の指導者たちは自由は不可分であること、国家の偉大さと威信のためには社会的、宗教的自由もまた不可欠であることに気づくことだろう。やがて、自分たちの財産をコントロールすることを既に認められた<中共の人々は、>男女ともども彼らの生活と彼らの国家そのものをコントロールすることを求めるようになることだろう」と語ったことが思い起こされます。
このくだりの行間には民主主義を達成し、民主主義的手続きにのっとって国家のあり方を変えようとしている台湾への賞賛が隠されている、と言っていいでしょう。
4 台湾は「独立」できるか
台湾「独立」とは何かをまだ説明していないのに何だというお叱りは甘受することとして、私は、・・台湾が米国の要請に答える形の防衛力整備を行うならば(コラム#188)・・台湾「独立」の見通しは明るいと考えています。
2000年5月の総統選挙勝利の直後、陳水扁はまだ民意が熟していないとの判断から、かねてからの民進党の主張を凍結し、在任中に「独立」宣言をしない、台湾の国名を現在の「中華民国」から変更しない、「独立」に係る国民投票を行わないと言明しました(http://www.atimes.com/atimes/China/EK20Ad04.html。11月20日アクセス)が、再選を目指す観点から、陳水扁はこのところ「独立」志向を改めて鮮明にしてきており、それにつれて陳水扁政権の支持率が高まってきていたところにもってきて、上述したように、米国が、「独立」を唱える民進党の陳水扁総統を積極的に支援する姿勢を明確にしたからです。
陳水扁の米国・パナマ訪問中に行われた、来年4月の総統選挙に関する世論調査によると、現職の陳水扁総統・呂秀蓮副総統ペアの支持率が前月の28%から35%に上昇したのに対し、野党の連戦・宋楚瑜ペアの支持率は前月の41%から34%と下落し、陳呂ペアの支持率が連宋ペアを逆転しました。これは国民党系(=中国系=藍グループ=Pan Blue Group)の新聞による世論調査であり、民進党が10月下旬に行った世論調査では、既に陳・呂ペアが逆転していたのですが、これで陳・呂ペアのリードがはっきりしました(FT上掲、及びメルマガ「台湾の声」11.6)。
これに勇気付けられたか、陳水扁総統は、(それまでの憲法改正の必要性の示唆から一歩踏み出し、)2006年に(憲法改正ならぬ)新憲法制定、という目標を掲げ、その是非を問う国民投票の実施を提案しました
(http://news.ft.com/servlet/ContentServer?pagename=FT.com/StoryFT/FullStory&c=StoryFT&cid=1066565796307&p=1012571727102。11月12日アクセス)。
状況の急展開にあわてた連戦国民党主席は、9月末までの憲法改正反対、国民投票反対の姿勢を一変させ、台湾の国名変更(台湾の「独立」)には反対だが、憲法にまず国民投票規定を盛り込み、その上で来年末にも憲法改正の国民投票を実施すべきだ、と言い出しました(http://www.taipeitimes.com/News/front/archives/2003/11/16/2003076025。11月17日アクセス)。国民党内部からも、党名を台湾国民党に改め、台湾志向、「地域」志向を鮮明にすべきだという声が上がっています(http://www.taipeitimes.com/News/taiwan/archives/2003/11/20/2003076529。11月21日アクセス)。
あせった中共は、台湾での極端な独立への動きは、危険ラインを越えつつあり、戦争の危険を冒しつつある、と久しく使わなかった露骨な表現の警告を発したところです(http://news.ft.com/servlet/ContentServer?pagename=FT.com/StoryFT/FullStory&c=StoryFT&cid=1069131984719&p=1012571727102。11月19日アクセス)。
(続く)