太田述正コラム#0193 (2003.11.24)
<アルカーイダとは何か(続)>

 (コラム#191と#192の「てにをは」を直し、#192の 3 の末尾にワンセンテンスを付け加えました。ホームページ(http://www.ohtan.net)をご参照ください。)

2 アルカーイダに目新しさはあるか

ニザール派とアルカーイダの違いは、テロの手段が前者は短剣での一刺しなのに、後者は自爆テロだというところにあります。どちらも実行者が死を逃れることはできない点では同じであり、ニザール派の当時にはまだ爆弾(9.11同時多発テロの際のジェット旅客機も、巨大な焼夷弾として用いられた)が発明されてなかったというだけのことです。
ニザール派のテロと違ってアルカーイダのテロは人間のほか施設も対象とし、かつ一般市民を巻き添えにすることが多い・・同時多発テロの際のニューヨークのツィンタワーは、米国の経済力の中枢とみなされてテロの対象とされ、ビル内にいた一般市民3千余名がこのテロの巻き添えになって死亡しました・・、というのもテロの手段の違いに由来する当然の帰結にすぎません。
ニザール派のテロは中東だけで実行されたのに対し、アルカーイダのテロは東南アジアからアフリカ北部、更には北米大陸をまたにかけて、いわば世界を舞台に行われているというのも、交通手段が発達して世界が小さくなったからに他なりません。(ニザール派の当時は、そもそも新大陸はまだ「発見」されていませんでした。)
一番肝心な点は、ニザール派もアルカーイダもテロそのものが宗教的行為なのであって、彼らが唱えるテロの目的をまともに受け取ってはならない、ということです(注1)。

(注1)ニザール派とアルカーイダのテロは、オウム真理教のテロと同様、どうして彼らがテロを行うのか、を詮索してみても始まらない、ということ。アルカーイダのテロをなくすためにと、イスラム圏における経済状況の改善(http://news.ft.com/servlet/ContentServer?pagename=FT.com/StoryFT/FullStory&c=StoryFT&cid=1069132067734&p=1045050946495)やパレスティナ問題の解決、果てには米軍等のイラクからの可及的速やかな撤収等をもっともらしく主唱する(http://www.guardian.co.uk/alqaida/story/0,12469,1090844,00.html)者は、全くの考え違いをしていると言わざるをえない。
 
ですから、アルカーイダにニザール派を「超える」目新しい点は何もないと言っていいでしょう(注2)。

(注2)ニザール派とアルカーイダは、いずれもテロ実行者に天国に行けるという「報償」を与えた点でも共通しているが、ニザール派はこれに加えて、テロ実行前に麻薬のハッシーシを与えて現世で天国を味わわせた点で念が入っていた。ハッシーシが訛ったAssassinという言葉が暗殺者を意味するようになったのは、この史実に由来する(http://uraken98.cool.ne.jp/rekishi/reki-westasia23.html(前出))。

3 アルカーイダの危険性

自爆テロはアルカーイダの「発明」でも何でもなく、最初に自爆テロを決行したのは戦後のスリランカ内戦におけるヒンズー教徒たるタミル人であり、次いでパレスティナ紛争においてパレスティナ人がこれを多用し始め、アルカーイダの自爆テロは、いわば三番煎じです。

それはそうなのですが、アルカーイダが危険なのは、
第一にタミル人にとってもパレスティナ人にとっても、自爆テロはやむをえざる最後の手段であったのに対し、アルカーイダは好んで自爆テロを行う点(以上、ガーディアン上掲による)、
第二に、タミル人(敵はシンハリ人)やパレスティナ人(敵はイスラエル人)と違って、アルカーイダのテロの対象が広範であるという点、
第三に、タミル人やパレスティナ人と違って、アルカーイダはテロ実行者を、10億人以上の全世界のイスラム教徒の中からリクルートできるという点、
なのです。

他方、アルカーイダの弱点は、この第三の点にあります。
つまり、アルカーイダがイスラム教徒という、知的生産性が低い人々・・これは決して偏見ではなく、現状においては厳然たる事実です(コラム#24参照)・・からしかリクルートできないところにあります。そのため、アルカーイダはローテク集団の域を脱することができず、日本人を構成員とするオウム真理教がいとも容易に製造した化学兵器の製造にさえ、懸命に努力しつつもいまだに成功していません(典拠失念)。

しかし、アルカーイダがイラクのような石油資源を有する潜在的に豊かな国・・ハイテク技術を買ってくることができる・・と本格的に提携するようなことになれば、アルカーイダが化学兵器(あるいは生物兵器。へたをすると更に核兵器)を手にすることになりかねません。大量破壊兵器を使って自爆テロをやられたのでは大変なことになります。そのような可能性を未然に摘んだという意味だけでも、米国等によるイラクのフセイン政権打倒は意義があったということになるでしょう。

いずれにせよ、ニザール派をモンゴル軍が壊滅できたように、アルカーイダも米国等の諜報力と武力(警察力・軍事力)で無害化することは決して不可能ではありません。
現に、米国による対アルカーイダ戦が発動された2001年9月11日以来、米(及び英)本国での攻撃に一度もアルカーイダは成功していません((http://www.guardian.co.uk/alqaida/story/0,12469,1090802,00.html)。しかも米国等によって、アルカーイダ本体は既にほぼ壊滅状態に追い込まれつつあります。だからこそ、アルカーイダは不本意ながら、息のかかったアルカーイダ系の技術的に未熟な土着テロリスト集団に、サウディの外国人(ただしアラブ諸国の外国人)とか、トルコのシナゴーグ、領事館、銀行、等の警戒手薄なソフト・ターゲットを狙わせざるを得なくなっているのです(http://www.nytimes.com/2003/11/22/international/22TERR.html)。

もとより、アルカーイダ本体及びアルカーイダ系のテロリスト集団すべてを壊滅させることは不可能でしょう。
しかし懸念には及びません。
同時多発テロの時の米国のように政治や軍事の中枢、あるいは金融中枢(、更には原発等の核施設など)が狙われるようなことがない程度にテロリスト達を押さえ込むことさえできればいいのです。
そもそも、アルカーイダおよびアルカーイダ系のテロリスト集団の攻撃による、ここ十年の犠牲者数は全部合わせても一万人には達していないはずです。
最悪、全世界でこれまでを若干上回るペースでアルカーイダ系によるテロが続いたとしても、全世界の交通事故死亡者数等と比較するまでもなく、テロによる犠牲者がその程度のオーダーで生じ続けること自体は、さほど深刻な問題であるとは言えないからです。

(完)