太田述正コラム#6562(2013.11.9)
<皆さんとディスカッション(続x2077)>
<太田>(ツイッターより)
 「「がんばろう東北」…」
http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2013/11/08/2013110801330.html … 珍しく、掛け値なしの親日コラムを載せた朝鮮日報。
 惜しむらくは、「拠点の若松城が焼け落ちるのを見て、白虎隊の少年たち20人は自決した」という不正確な箇所があること。
 書く時、白虎隊のウィキくらいチェックしなきゃあ。
<陳>
≫チベットの自治権獲得を戦争(暴力)抜きで達成しようとしているダライ・ラマは、 あえて言うが、エセ仏教徒だと思っとるよ。≪(コラム#6560。太田)
 仏教は帰依心=信仰を重視するキリスト教、ユダヤ教の伝統と違って、全ての執着心を無くさせることで人を迷いの世界から済度するから、自分がチベット人であるという考えや、チベット文化というものへの愛着すら、実は取り除くべき執着心なのである。
 また、自分の命への執着すら仏に至る道の妨げである。
 こう考えると、あらゆる正教で殉教者と呼ばれる人が、なぜ天国に行けると説かれているのかがよく解る。
 チベットの集団無意識の世界を主宰しているアバターであるダライラマのやっていることは正にそのことで、それを口に出して言えないだけなのだ。
 彼は中共を話し合いの相手として認めることで、世俗政治的に言えばチベットの独立を放棄し、中共にチベット民族・文化を破壊させ続けている。これは現世の政治家としては最低の行為なのだが、菩薩としては実に正しい行為であると言える。
 なぜなら、中国人がチベット人を殺害したら、その殺された人は生命への執着から解放され、即座にチベット仏教の天国世界に済度されるからである。
 中国がチベット文化を破壊したり、チベット族を混血・断種によって絶滅させようとしても同じことだ。
 チベット人はチベット文化への愛着心から解放され、迷い・苦しみの世界に生まれる人の数も少なくなるからである。
 彼がこれを口に出したら、現実世界の限られた思考でしか物事を判断できない人間で、ダライラマを尊敬できる人など一人もいなくなるであろう。
<太田>
 18世紀以降、ダライラマは、清のチベット代官かチベットの修道院連合か、或いはその双方、の傀儡であり、一人を除いてそのどちらかによって殺害されたと考えられている。
 ダライラマがチベットの絶対的元首になったのは先代の第13世ダライラマの時だ。
 彼はチベットの近代化に努めたのだが、宗政一致のアナクロニズムの下で近代化がなるわけがなかった。
 現在の第14世ダライラマが元首の座に就いたのは1950年だが、彼は、先代の愚行を継承したことになる。
 その瞬間から、彼は元首の座から降りるか、さもなくば、絶対的元首たる政治家として生きるのか宗教家として象徴的元首として生きるのかの決断を迫られた。
 彼は、愚かにも、絶対的元首たる政治家として生きることを選んだ。
 彼が最初にやったことは、チベットの中共併合の受け容れだ(1951年)。
 1959年には、チベット人が中共に対して叛乱を起こしたが、彼は命が惜しくてインドに逃亡した。
 彼は、チベット亡命政府の絶対的元首として、1960年代において、(対中ゲリラ活動開始を期待した)CIAから毎年170万ドルを受け取ったが、何もしなかった。
 そして、1980年代末には、チベットの独立を諦め、高度の自治の実現へと亡命政府の戦略目標を切り下げた。
 そして、2001年に、ようやく、彼は、自ら象徴的元首の地位に退き、現在に至っている。
http://en.wikipedia.org/wiki/Dalai_Lama
 仏教徒が政治家であってももちろんかまわないが、政治家は結果責任だ。
 彼が政治家であった1950~2001年の間、キミも指摘するように、チベットは独立も自治の獲得もできなかったどころか、中共におけるチベット人の境遇は一層惨めなものとなった。
 だから、彼は政治家としては失格だ。
 これには、彼が非暴力主義に執着したことが大いにあずかっている、とボクは考えている。
 そもそも、仏教は、座禅等の方法で、人をその生来的な人間主義性に目覚めさせようとするところの、他に例のない「宗教」だが、この一点を除き、その他のことで仏教経典に書いてあることは、極端なことを言えば、どうでもいいことだ。
 さて、人間主義とは、ユニークな個性を持ち言動を行う存在である個々の人が、だからこそ、互いに他人に対し、(自分の個性や言動を押し付けることなく、)思いやりをもって接する、というものだ。
 当然のことながら、自分のユニークな個性を発揮し、言動の自由を確保しようとすることは執着ではない。
 従ってまた、そのような人が、自発的に他の人々と地縁的或いは文化的共同体を形成することも執着ではない。
 自分自身や自分が所属する共同体を守るためには、(無益な殺傷を慎むべきは当然だが、)暴力を行使する以外に手段のない場合もあるだろう。
 このような暴力まで否定したら、人間主義、ひいては仏教が成り立たなくなってしまう。
 こういうわけで、ボクは、非暴力主義に執着する現ダライラマは人間主義者ではない、すなわち仏教徒ではない、言ったのだ。
 
(参考)
 1 「ガンジー自身は非暴力主義者ではあったが、非戦主義者ではなかった。なぜなら、ガンジーは第1次世界大戦のおりインド各地をまわって若者たちにイギリス本国とともに戦うよう兵役志願を呼びかけたのである。その目的はイギリスに協力することで、インドの独立を図ることにあった。つまりガンジーにおいても非暴力主義と非戦主義は異なるのである。他方非戦主義は国家の武力行使そのものを否定するが、個人の暴力を否定するものではない。カントの『永遠平和のために』で一読了解できる。カントは徴兵に基づく常備軍を否定し、国家間の戦争を否定した。その意味ではカントは非戦主義である。その一方で、カントは有事の際に個人の意志に基づき侵略者と戦う民兵は肯定した。つまりカントは非戦主義者ではあるが非暴力主義者ではない。」
http://mhe00465.cocolog-nifty.com/meguro/2012/03/post-84f6.html
→筆者の概念の遊びに惑わされなければ、要するに、政治家たるガンディーも、実践倫理を説く哲学者たるカントも、非暴力主義者ではなかった、いや、非暴力主義者ではありえない、ということ。(なお、ガンディーの「非暴力主義」がインド独立をもたらしたわけではないことに注意。)(太田)
 2「 フランスの仏教研究者ポール・ドミエヴィルは1957年「仏教と戦争――殺生戒の根本問題――」・・・の中で、大乗仏教徒が、いかにして不殺生戒を無効にして、殺人を正当化する論理を形成したか(ドミエヴィル p. 58-59)、またいかにして実際に仏教徒たちが特殊な仏教思想の下で積極的に戦闘行為を行ったかを概説している。彼が指摘した事例には、中国や日本における下層民の宗教的反乱も含まれている。(同 p. 63-64, p. 74)  絶対的平和主義の立場から、これらの暴力的反乱を、殺生禁断という観点で非難することは容易なことであろう。しかし不殺生戒を第一義的な遵守規定と見なし、抑圧された人々が自己の現世的救済を求めて仏教的思想の下で戦闘行為をすることを一概に否定するならば、仏教は結果的に体制側の暴力を容認し続ける体制擁護の宗教でしかないと社会的政治的脈絡の中で判断されてしまうだろう。」
http://hw001.spaaqs.ne.jp/miya33x/paper7-1.html
→殆んどの宗教は非暴力主義を掲げるが、いかなる宗教であれ、非暴力主義を貫徹することは不可能である、ということ。非暴力主義の貫徹にこだわれば、「宗教」である仏教、より限定的にはチベット仏教は、早晩、亡びてしまうこととなろう。(太田)
<太田>
 それでは、その他の記事の紹介です。
 スノーデン事件のおかげで、米国政府もオバマもドイツ人の信用、支持をすっかりなくしてしまった、という世論調査結果が出た。↓
 ・・・only 35 percent of Germans considered the US government trustworthy — numbers not seen since the times of highly unpopular President George W. Bush. Forty-three percent said they were satisfied with the work of US President Barack Obama. Just a year ago, he enjoyed the backing of 75 percent of Germans.・・・
  Edward Snowden — whom 60 percent of respondents consider a hero.・・・
 Germans’ trust in the British government had also deteriorated to 50 percent, down from 80 percent four years ago. ・・・
http://www.spiegel.de/international/germany/nsa-spying-fallout-majority-of-germans-mistrust-united-states-a-932492.html
 2003年にユネスコに復帰した米国が、パレスティナのユネスコ加盟で再び負担金の支払いを滞らさせ、ユネスコから叩きだされる運びとなった。↓
http://www.theguardian.com/commentisfree/2013/oct/27/us-should-pay-its-unesco-dues
 クルーグマンが欧州諸国にケインズ流財政出動を促してきたところ、聞く耳を持たず、歳出カットをやってきた諸国だけが経済が好調だというオハナシ。↓
http://www.foreignpolicy.com/articles/2013/11/08/paul_krugmans_blind_spot_eurozone?page=full
 世界中で反ユダヤ主義が蔓延ってることが分かった。
 イスラム教徒に至っては、95%超がそうで、一番そうじゃなかったのがイスラエルに居住するイスラム教徒だって。↓
 ・・・Across Europe, some 190 million agree that “Jews in general do not care about anything or anyone but their own kind.” The situation is even worse in many parts of the Muslim world, where some surveys suggest that more than 95 percent of the population has a “very unfavorable” view of Jews. The one notable exception is among Muslims who are citizens of Israel, for whom the rate is 35 percent. ・・・
http://www.washingtonpost.com/opinions/the-devil-that-never-dies-global-antisemitism-by-daniel-jonah-goldhagen/2013/11/07/6057b6fa-14b6-11e3-a100-66fa8fd9a50c_story.html
<太田>
 昨日、歯が痛くなりかけて歯医者に行き、抗生物質が処方されたのですが、昨夜から本格的に痛みだし、本日、もう一度行って、今度は痛み止めをもらってきました。
 元凶は、既に金属をかぶせてある二つの奥歯のどちらかなのですが、ひょっとして抜くことになるのか、そうなると部分入れ歯だな、といやーな気分になっています。
 ところで、太田掲示板に、初めて(ダライラマについての)長い文章を投稿したのだけれど、字数制限、長センテンス禁止、連続投稿禁止といったスパム防止策と思われる制限が厳しすぎて、(歯痛で睡眠不足になったのを回復しようとして)途中で2時間昼寝を入れて、結局、投稿し終わるまでに2時間半もかかってしまいました。
 こんなにスパム防止策が厳重なのに、この間、3本のスパムメールが投稿されていました。
 やまもとさん、何とかしてくださーい。
——————————————————————————
 一人題名のない音楽会です。
 寺井尚子の第三回目ですが、ここで、彼女の作曲した曲を挟もうと思います。
Thinking of You ピアノ:松岡直也
http://www.youtube.com/watch?v=9CYSwtIb-48
あなたがわたしをさがすとき 二胡:WeiWei Wuu
http://www.youtube.com/watch?v=YFOJRpDoc24
そよ風とともに
http://www.youtube.com/watch?v=xAvy4MY-mIQ&list=RD02z_IalqqJc64
出会い スンバラシー!
http://www.youtube.com/watch?v=hFUnQ4MFaoY
夢の終わりに 同上。
http://www.youtube.com/watch?v=tIMOJNy-XBk
あなたの中の私(I’m Here For You) 同上。
http://www.youtube.com/watch?v=VmfNC9B0evY
過ぎ去りし日々 これがベストか。途中で、彼女のブレスが激しく聞こえる一瞬があり、それがこの上もなく官能的だ。
http://www.youtube.com/watch?v=7VqqB0GMiQk
? そもそも、寺井作曲?
http://www.youtube.com/watch?v=MucbdEusoYE
 それでは、広義のポップス篇に戻ります。
Stardust(注)(ホーギー・カーマイケル作曲) ピアノ:北島直樹
http://www.youtube.com/watch?v=HWAlHL2wIrM
 Stephane Grappelli 同じくバイオリンを用いつつも正統ジャズアレンジ。
http://www.youtube.com/watch?v=JaGobcJLjqQ
 美空ひばり ど演歌よりもこういった曲をもっと歌って欲しかった。
http://www.youtube.com/watch?v=D90YiSJPm7o
 Nat King Cole 原曲。
http://www.youtube.com/watch?v=i9SD8uYgIo0
(注)「カーマイケルが1927年に発表したジャズのスタンダード・ナンバーである。・・・1929年に、ミッチェル・パリッシュ(英語版)により歌詞がつけられている。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%83%80%E3%82%B9%E3%83%88_(%E6%9B%B2)
 カーマイケル(Hoagy Carmichael。1899~1981年)は「<米>国の作曲家、歌手、ピアニスト、バンドリーダー・・・俳優・・・。・・・インディアナ大学ブルーミントン校ロー・スクール卒」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%82%AE%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%82%AB%E3%83%BC%E3%83%9E%E3%82%A4%E3%82%B1%E3%83%AB
(続く)
——————————————————————————————————————————————-
太田述正コラム#6563(2013.11.9)
<台湾史(その9)>
→非公開