太田述正コラム#6359(2013.7.30)
<日支戦争をどう見るか(その9)>(2013.11.14公開)
 (12)ラファティ吠える
最後に、ケヴィン・ラファティ(Kevin Rafferty)が、書評Hの中で、ミターに輪をかけて日本に対して厳しい論を展開している箇所をご紹介しておきたいと思います。
 なお、彼は、大阪大学の未来戦略機構(Institute for Academic Initiatives)の教授です。
 「安倍晋三、日本、そしてアジアについてよかれと願っている者は、この日本の首相にラナ・ミターの新本・・・を一冊買ってやるべきだ。
 予想されているところの、3週間後における参院選挙での大勝利に付けこもうと彼が試みる前に、安倍に、帝国日本が支那に加えた厭うべき損傷を、この本を読むことによって理解させるべきだ。
 このような勝利をあげれば、安倍は衆参両院で多数を獲得し、日本の憲法を改正し、この国の「偉大さ」を回復するとの約束を実現することだろう。
 <しかし、>安倍の、「日本は復活する(Japan is back)」という約束は、全員が互いに依存しあっている現代世界においては場違いだ。
 安倍が、蘇りつつある支那の面前で赤旗群を振ろうと試みているに等しい以上、このことは、とりわけ危険なのだ。
 よかれと思う同じ人物は、支那の指導者達にもこの本を提供することができよう。
→本の献呈云々について、大人げないことは重々承知しつつ、一言。
 安倍は2年間米国に遊学していますが英語は不得手のよう
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AE%89%E5%80%8D%E6%99%8B%E4%B8%89
なので、この本をもらっても読まない(読めない)からつんどくに終わりそうです。
 他方、中共当局の序列上位の連中は、習近平を始めとして、米英に留学した子供や留学している子供がいる
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%BF%92%E8%BF%91%E5%B9%B3
者が多いので、本人こそ読まない(読めない)かもしれないけれど、放置されることにはならないのではないでしょうか。
 (ただし、仮に言葉のハンデがなかったとしても、この本は、書評類から見る限り、これらの人々に読んでもらうだけの質的水準をクリアしていないことから、数頁読まれてゴミ箱入りでしょうがね。)
 私が言いたいのは、本の献呈云々は修辞に過ぎないとはいえ、彼が、言語の壁の存在を認めない(知らない)英語帝国主義者らしい点一つとっても、ラファティは、この種の問題を論じる資格はない、ということです。(太田)
 そうすれば、彼らは、支那と現代世界の形成に、日本、蒋介石とその国民党、そしてまさに米国と他の欧米の諸同盟国、が果たした役割を理解することができよう。
 ・・・ミターにとっては、第二次世界大戦は1939年ではなく1937年に盧溝橋事件で始まったのだ。
 その時、日本はあらゆる巧言令色(pretence)を捨て去って支那との戦争を始めたのだ。・・・
 ミターは気を滅入らせる舞台を設定する。
 「もし我々が、今日の全球的社会における支那の役割を理解しようと欲するのなら、1930年代と40年代において、史上空前の闇の闇たる勢力の若干<である日本>に対して、この国が行った悲劇的かつ巨人的闘争は、単に自身の民族的矜持と生存に資しただけでなく、東西の全ての連合諸国の勝利に資したこと、を銘記するべきなのだ」と、
 安倍氏よ、歴史の顔に向かって唾を吐きかける前に、このことを噛み締め(digest)よ。・・・
 ミターは、支那のために戦い、日本に対して屈することを拒み、その過程で数百万もの支那人の命を犠牲にしたのは蒋介石であったことを指摘する。・・・
 安倍はまだまだ多くのことを学ばなければならない。
 彼は、いまだに祖父の岸信介の正当性を立証しようとしているのだろうか。
 彼は、アジア太平洋地域の何十億もの人々の平和と安全を、祖父への尊敬よりも下位に置くのかどうかを問われなければならない。
 中共当局(Beijing)には、自分の歴史についての心地よくない諸真実を受け入れ、それらから学ぶかどうか、という問題が存在する。・・・
 支那と日本は文化的従兄弟であり、相互に学び続けなければならない。
 安倍が信奉しているところのナショナリズムの道は、大災厄をもたらすことしかできない。
 それは、<日中間の>対峙や更にひどいこと<・・日中間の戦争・・>をもたらさないまでも、高齢化しつつある、借金漬けの日本には不相応であるところの、より増加された軍事支出をもたらすから、ということでは必ずしもない。
 問題は、<日本の>政治家達が我々の運命が相互に結びつけられていることを理解していないところにあるのだ。
 ミター<の本>は、歴史の諸教訓を教えてくれることができる。
 これら諸教訓を学ぶことで、大災厄を回避することができるかもしれないのだ。」(H)
→このように、ラファティは、上から目線で、日本の首相に対して罵声を浴びせ、中共当局の中枢の人々に対してもご託宣をたれ、その上で、両者に仲よくせよと言い放っているわけですが、South China Morning PostやJapan Timesへの定期寄稿者である
http://www.scmp.com/comment/insight-opinion/article/1291452/bbc-loses-plot-over-royal-birth
http://www.japantimes.co.jp/opinion/2013/04/26/commentary/cost-of-the-american-dream/#.UfeiE409R8E
というのに、彼の名前が余りにもありふれていることから、経歴等が分かりませんでした。
 恐らく、米国人ではないかと思われるのですが、彼の他の寄稿を2~3見ただけでも、彼は、随分多岐にわたる分野のことを論じる何でも屋さんであり、彼による、この書評は、さして東アジア近現代史に詳しくない一平均的米国人インテリが、平均的米国人インテリの東アジア近現代史観を吐露したものである、と断じてよさそうです。(太田)
(続く)