太田述正コラム#0197(2003.11.28)
<日本の植民地統治(その1)>
石原慎太郎東京都知事は、10月31日の定例記者会見で、フランスやオランダ、米国がそれぞれアジアの植民地で残虐な行為をしたとし、「これに比べれば日本の植民地主義はまだ人道的、人間的だったと思う」と述べた(http://www.asahi.com/national/update/1101/010.html。11月1日アクセス)と報じられています。
残念ながら、私は石原さんのような文学者ではないので、「残虐」、「人道的」、「人間的」といった、主観によって左右される言葉を並べられても余りピンときません。
私が石原さんならさしずめ、植民地当時の原住民の人口を勘案しつつ、当該植民地で原住民にどれだけの被殺害者、感染症病死者、及び餓死者が出たか、を比較することで旧宗主国による植民地統治の評価をするところです。私はこの点だけをとっても、日本の植民地統治は、英国、米国、フランス、オランダ、ロシアのいずれよりもマシだったのではないかと思っています。しかし、今手元にデータがないので、問題提起にとどめておきます。
私は、かつて植民地であった国の現在の経済的パーフォーマンスを通して、旧宗主国による植民地統治を評価することも可能ではないかと考えています。
ミリタリーバランス(The Military Balance 2003/2004, IISS)で中東以外のアジアの旧植民地中、現在人口1000万人以上の国の一人当たり所得を調べてみると、次の通りです。(2002年、単位米ドル、旧植民地の国は人口の多い順に並べた。)
英国 :インド486、パキスタン462、バングラデシュ330、ミャンマー1,233、マレーシア4,210、スリランカ857
米国 :フィリピン983
フランス:ベトナム425、カンボジア260
オランダ:インドネシア810
ロシア :ウズベキスタン2,531、カザフスタン6,560(ただし、カザフスタンは、人口の原住民比率が55%に過ぎない)
日本 :韓国10,035、台湾13,250、北朝鮮903
(参考)植民地歴のない国: 中共970、タイ1,890、ネパール230、アフガニスタン197
地域や文明を異にし、植民地になる前の経済発展段階も異なり、かつ植民地であった時代の長さも異なり、更に独立後の歴史や体制も異なる国々を比較することに果たして意味があるのか、などと四角四面なことを言わずに、虚心坦懐にこの表を眺めてください。
一目見て分かることは、(旧宗主国ごとに、かつて植民地であった国の一人当たり国民所得について、人口を考慮した平均値を出すまでもなく、)かつて日本の植民地であった国の経済的パーフォーマンスが飛びぬけて高いことです。(北朝鮮は、ソ連時代のロシアによって共産主義体制を押し付けられたという悲運を背負っている上に、このところ経済失政が続いていますが、それでも経済的パーフォーマンスは、相対的にはそう捨てたものではありません。)
全体としては、かつて植民地であった国の経済的パーフォーマンスは、旧宗主国別に、日本>ロシア>米国>オランダ>英国>フランス、の順序であることも分かります。
ロシアの一人当たり所得が7,416米ドルに過ぎないことを考えれば、一番「良心的」な旧宗主国はロシアだったという見方もできるのかもしれません。これまで私はロシアに対し、厳しい評価をしてきました(コラム#144、#145、#186)が、ロシアの数少ないとりえの一つは、ソ連時代にロシア本国の犠牲の下に植民地を優遇したことでしょう。
とまれ、日本の旧植民地の国の経済的パーフォーマンスが飛びぬけて高いのはなぜでしょうか。
日本の植民地統治が相対的に一番優れていたからだ、と考えざるを得ません。
では、一体どのように優れていたのでしょうか。
(続く)