太田述正コラム#6391(2013.8.15)
<日支戦争をどう見るか(その25)>(2013.11.30公開)
思いつくままに挙げるだけで、米国内で少数派の黒人、アメリカ先住民、それ以外の有色人種を迫害することで政権を維持したローズベルト政権に対するに、ロシア国内で少数派の富農(クラーク。中国共産党の場合は地主)や少数民族を迫害することで政権を維持したスターリン政権、また、ユダヤ人の圧倒的支持を受けて当選を繰り返しながら、
http://en.wikipedia.org/wiki/American_Jews
密かに生来の反ユダヤ主義的政策を行ったローズベルト政権
http://www.thenation.com/article/175315/fdrs-jewish-problem#axzz2c1knWIYB
に対するに、マルクスレーニン主義が攻撃した反ユダヤ主義を、大粛清の際にユダヤ人を狙い撃ちすることで、そして、戦後、スターリンが亡くなるまでの間、むき出しの反ユダヤ主義に転じることで覆したスターリン政権、
http://en.wikipedia.org/wiki/History_of_the_Jews_in_Russia
と、両者が似ている点がいくつも出てきます。
しかも、スターリン主義がマルクスレーニン主義を受け継いだところの、理想主義的・民主主義的思想や終末論的思想(注44)や選民思想(注45)や使命感(注46)もまた、当然のことながら、リベラル・キリスト教神学の申し子であったローズベルト政権やローズベルト政権に近い米国の指導層に近親感を覚えさせたはずです。
(注44)ローズベルト政権にあってはキリストの再来による救い、スターリン政権にあっては共産主義社会の到来。
(注45)ローズベルト政権にあってはWASPを中核とするチュートン系、スターリン政権にあってはスターリン主義共産党員、が選民。
(注46)ローズベルト政権にあってはマニフェストデスティニー、その尖兵は宣教師、スターリン政権にあっては世界の共産主義化、その尖兵はコミンテルン員と各国の共産党員。
そして、何よりもかによりも、両政権とも白人政権でしたからね。
(以上については、更なる検証が必要。)
このような多重的な親近感を少なくともローズベルト政権がスターリン政権に抱いていたからこそ、ローズベルト政権はソ連(スターリン政権)に宥和的であり続けたのだし、ハリー・デクスター・ホワイトのような容共高級官僚が同政権内で大活躍ができた(コラム#5904等)のだし、ジョゼフ・スティルウェルのような高級軍人やエドガー・スノーのような時代の寵児的ジャーナリストが毛沢東に誑かされ、同政権による蒋介石政権の切り捨て/中国共産党支持への大転換が行われた(コラム#6350)のです。
すなわち、先の大戦における、米ソの事実上の同盟は、両者の、非原理主義的キリスト教性が必然たらしめた、というのが私の見解です。
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<脚注:米国における妊娠中絶論議の特異性>
「「欧州」・・そこには今や明らかにイスラエルが含まれるが・・は、<妊娠中絶について、>米国よりもより制限的な諸法を持っている。
その諸法は、より家父長制的(paternalistic)なのだ。
ドイツ、フランス、及びオランダは、再考するための待機期間を設けているし、多くの国が、精神的問題や貧困といった、妊娠中絶をうける「理由」を挙げることをあなたに求めている。
また、しばしば、より制限的期限もあり、妊娠中絶は、12週から14週までしか合法ではない。
(米国の反選択派<(=妊娠中絶違法化推進派)>が、欧州の多くの国がそうしているように、12週から14週までしか妊娠中絶を認めないという線を飲むことは金輪際なく、むしろ、あらゆる妊娠中絶を禁止するとともに避妊法へのアクセスを甚だしく制限しようとしていることは言うまでもない。)
どうしてこのような違いがあるか<について、>・・・米国では、妊娠中絶諸法は道徳性に関することであるのに対して、欧州では、何が共通善を構成するのかという国民的(national)諸観念が反映されている<、とする説がある。>
<欧州諸国の>家父長制的な妊娠中絶諸法は、恐らく、気前のよい政府<提供の>諸便益のコインの裏側なのだ。
すなわち、政府は、あなたの赤ちゃん達にたっぷりと提供する見返りとして、あなたの生殖諸選択について問い質そうとする、と。・・・
しかし、もしあなたが、妊娠中絶についての議論は、道徳性それ自体に関するものというよりは、宗教に関するものであること、とりわけ、どれだけキリスト教とその深い家長的(patriarchal)歴史が国民の法的生地に織り込まれているか、を理解すれば、<このような>説は通らない。
米国では、教会と国家の間により強固な壁が設けられているけれど、実態においては、政府の多くの部分をコントロールし、できうる限り、自分達の厳格な宗教的ドグマを政府を使って押し付けようとしているところの、巨大な宗教的原理主義者達の部隊(contingent)を我々は持っている。
英国、フィンランド、デンマーク、そしてスウェーデンを含む多くの欧州諸国では、公式の国家教会を持っているか、支配的な教会であることを国によって(nationally)認められているけれど、日常的実態においては、はるかに少ない人しか、原理主義的どころか、真に宗教的ではない。
宗教は、しばしば、毎日の生活を導く力としてではなく、単に、国民的ないし民族的(ethnic)性格の文化的/歴史的表現と見られている。
その結果、これらの多くの諸国で妊娠中絶諸法は公式には生殖と女性の役割についてのキリスト教的家父長制を反映していることとされているけれど、実際には、米国におけるよりも妊娠中絶がはるかに容易に認められているのだ。
多くの国で妊娠中絶についてあなたは理由を提供するよう求められるかもしれないが、それは、単なる形式であって、四角の中にチェックを入れさえすればそれは障害ではなくなるのだ。
より重要なことだが、妊娠中絶を行う側が付け回されて存在を抹殺されることはなく、しかも、多くの場合は、妊娠中絶経費は国家医療によって支払われる。」
http://www.slate.com/blogs/xx_factor/2013/08/06/abortion_in_europe_and_america_to_understand_the_difference_you_can_t_ignore.html
(8月7日アクセス)
すなわち、米国では、宗教、すなわちキリスト教は、「毎日の生活を導く力」なのであり、私が累次申し上げているように、米国は、先進国では例外的に世俗化していない異常な国であるわけだ。
ちなみに、韓国は、キリスト教徒が3割近くを占めている
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E9%9F%93%E6%B0%91%E5%9B%BD%E3%81%AE%E5%AE%97%E6%95%99
にもかかわらず、「米国や欧州のように、妊娠中絶問題が、激しく議論され国の諸政策に深刻な影響を及ぼしているのとは違って、韓国で公に議論されることがおおむねない」
http://english.chosun.com/site/data/html_dir/2009/11/17/2009111700797.html
(8月10日アクセス)ことにほっとするのは私だけではあるまい。
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(続く)
日支戦争をどう見るか(その25)
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