太田述正コラム#6405(2013.8.22)
<日支戦争をどう見るか(その31)>(2013.12.7公開)
 お待たせしました。
 それでは、ウォーカーの本の書評からです。
 「歴史家のリチャード・ホフスタッター(Richard Hofstadter)<(注57)(コラム#1082、2892、3801、5927)>は、その影響力のあった1964年の論文、「米国政治における妄想的(Paranoid)型式(Style)」の中で、・・・最もしばしば陰謀的思考を抱懐したのは、社会的アウトサイダー達や「辺境的(marginal)」運動だったと強く主張した(コラム#3801)。
 (注57)1916~70年。米国の政治史家。「ユダヤ系の父とドイツ系の母の間に生まれる。1933年にバッファロー大学に入学し、哲学と歴史を専攻する。・・・大学では青年共産主義同盟(The Young Communist League )に入り、・・・コロンビア大学で修士、博士号を取得。1938年に・・・共産党に入党。1939年のソ連によるナチ・ドイツとの協定により、・・・<米>共産党だけではなくソ連、マルクス主義全般に対する幻滅を経験・・・<したが、>資本主義に対する嫌悪は、生涯にわたって保ち続けられ<た>。・・・<彼は、>多数派の「与論」からは斥けられた主張は、忘れ去られるのでなければ「与論」に反逆して、マッカーシズムのような暴力・言論弾圧のような病理として現れる<と主張した>。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AA%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%BC%E3%83%89%E3%83%BB%E3%83%9B%E3%83%95%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%83%E3%82%BF%E3%83%BC
 ウォーカーは、ただちにこの主張を粉砕する。
 18世紀にはそうではなかったのであり、当時、フェデラリストの指導者達とそのジェファーソン主義的競争相手は、双方とも陰謀論を流布させた、と彼は言う。
 また、現代においても間違いなくそれは真実ではない。
 なぜなら、主流メディアと民主共和の両党の政治的指導者達が妄想的諸物語を流布させてきたからだ。」(A)
 「(自身が陰謀論者であるかもしれないところの、・・・)多くの観察者達が、政治的妄想を、「素面である<米国の>中心が炎を消すことができるまでの間、時々燃え上がるところの、<米国の>端っこ(fringe)に存在する混乱(disorder)である、と決めつけがちだが・・彼らは間違っている。諸陰謀への恐怖は、植民地時代から現在まで、そして、支配層(establishment)においても諸極端派(extremes)においても、政治的スペクトラム全体における有力な(potent)力であり続けてきたのだ。」・・・
 諸秘密結社は、歴史において力を持ったことはないが、諸秘密結社が歴史において力を持ってきたという観念は歴史において力を持ってきた<、と>。」(D)
 「この『妄想合衆国』<という本>は、米国史の何世紀にもわたる「妄想」思考のルーツの奇妙に面白い探索だ。・・・
 米国人は、諸陰謀論を信じているだけでなく、他人たる<米国の>同僚市民達は、「選良達」の諸陰謀と操縦に、自分達よりも、(実際にそうである以上に)乗せられ易い、と信じている。」(A)
 「「米国は、妄想の時代一色だ」と彼は記す。・・・
 「人気を博した陰謀論は一種の民間伝承(folklore)になる」と・・・ウォーカーは説明する。
→私の言葉に置き換えれば、米国人は、一貫して、上も下も陰謀論なる妄想を鬱期に抱くところの、双極性障害的人物が多かった、ということです。(太田)
 「この事実は、たとえ、その陰謀論それ自体の諸目的についての真実を何も物語ってはいないとしても、それを信じ、それについて繰り返し語る人々の諸不安と諸経験についての何らかの真実を物語っている」と。
→妄想の背後に、私の言葉に置き換えれば、双極性障害の鬱期の不安感情が存する、というわけです。(太田)
 ウォーカーは、 米国の陰謀論の5つの原型(archetype)を同定する。
 感得されたところの、(サーレム魔女裁判といった)内なる敵(enemy within)、(アルカーイダ、植民地期の間のインディアン諸種族、諸宗教運動といった)外なる敵(enemy outside)、(政府、イルミナティ(Illuminati)<(注58)>のように新世界秩序を打ち立てようとする秘密裏に悪事を首謀する諸組織といった)上にいる敵、(奴隷蜂起といった)下にいる敵(enemy below)、(天使達、神智学協会(Theosophical Society)<(コラム#4661、5278)>といった)「慈悲深い(benevolent)陰謀」<の5つだ>。
 (注58)「日本語では啓明結社、パヴァリア啓明結社、光明会とも訳され、澁澤龍彦・・・はパヴァリア幻想教団と訳<し>た。イルミナティとは、ラテン語で「光に照らされたもの」を意味するが、後に・・・「啓蒙、開化」をも意味するようになる。近世以降、この名前で呼ばれた秘密結社が数多くある<が、>・・・ヴァイスハオプト主宰のものを指す場合が多い<。>・・・バイエルン王国で1776年に、インゴルシュタット大学・・・の実践哲学教授アダム・ヴァイスハオプト・・・が啓蒙主義的な Perfektibilismus(人類の倫理的完成可能説)を謳い、Perfektibilisten の同盟をつくり、のちに、イルミナティと改名した。原始共産主義を志向する側面と、内部の位階制の側面が同居している。・・・1784年にバイエルン王国がフリーメイソンリー、イルミナティを含むすべての秘密結社を禁止<し、更に>1785年にローマ教皇・ピウス六世<によって>・・・異端とされ<たことで、>・・・活動は・・・終わった。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%83%AB%E3%83%9F%E3%83%8A%E3%83%86%E3%82%A3
 幾ばくかの集団は、複数の範疇にまたがっているし、幾ばくかの事例においては、区分する線はぼやけているけれど、殆んどの神話は、少なくともこれらのうちの一つであると目されうる。」(C)
 「時間を超えて、黒人、移民労働者、そしてユダヤ教過激派は、全て、想像上の「下にいる敵」諸陰謀論の主人公であり続けた。
 1965年のワッツ暴動(Watts riots)<(注59)>の背後には、「組織(The Organization)」と呼ばれたところの、黒人知識人の神秘的集団がある、と言われた、とウォーカーは記す。」(A)
 (注59)「1965年8月11日に<米>国のワッツ市(カリフォルニア州、現在はロサンゼルス市に吸収)で発生した暴動事件。
 白人のハイウェイ・パトロールが、道路上を蛇行運転していた黒人男性・・・当人と弟・母親を逮捕。これを切っ掛けに暴動が発生し、警察官の襲撃から市街地における集団略奪や放火へ発展。州兵を投入して鎮圧する事態にまで及んだが、暴動が続いた6日間で死者34人・負傷者1,032人を出し、逮捕者は約4,000名にも及び、損害額は3,500万ドルにまで上った。
 <ワッツは、事実上の人種隔離の下、>住民の実に99%を黒人が占めていたのに対し地域を担当していた警察官には殆ど黒人がおらず、地域住民の感情には黒人差別思想を持つ警察への不信感が根深かった。加えて失業率も高く高等教育を受けている住民も少なかったことから、一種のスラム街になっていた・・・。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AF%E3%83%83%E3%83%84%E6%9A%B4%E5%8B%95
 「組織」については、少し調べたがよく分からなかった。
(続く)