太田述正コラム#6409(2013.8.24)
<日支戦争をどう見るか(その33)>(2013.12.9公開)
以上も踏まえて、私見を交えつつ、もう一度総括すれば、次の通りです。
一、敬虔なキリスト教徒が過半を占める米国には、昔も今も、リベラル・キリスト教徒が多い民主党系を中心に双極性障害的な人が多い。
二、ローズベルトを始めとする戦前の米国の民主党系の有力者達は、1937~1939年にかけて、英国を全球的覇権国の地位から名実ともに引きずりおろすことを期しつつ、独裁的なナチスドイツによる侵略に直面している英国と軍国主義的な日本に侵略されている支那を救うための軍事介入を欧州と東アジアで行うことで、全世界を「自由民主主義」諸国に対する脅威から守る国、すなわちかかる意味での全球的覇権国、へと米国を変貌させる、という利他主義的な躁的妄想を抱いた。
(妄想であるのは、それが事実に立脚していない・・ヒットラーは英国が対独宣戦布告をしない限り英国侵攻など考えていなかったし、日本は対赤露抑止戦略を遂行していただけ・・からであり、利他主義的であるのは、欧州と東アジアへの軍事介入の必要性を米国の安全保障上の観点から裏付けることは不可能だからだ。)
三、ところが、当時、共和党系の人々のみならず、民主党系の人々の過半まで、非軍事介入主義を抱懐していたことから、ローズベルトらは、(自分達自身が、人種主義的で反ユダヤ的なファシストであったにもかかわらず、)共和党系の有力者達を、ナチスドイツ等に心を寄せるファシストである、と合法非合法のあらゆる手段を用いて攻撃すること、具体的には、双極性障害的な広範な米国人の鬱期における不安感に付け入ってファシストの脅威なる妄想を掻き立てて茶狩りを行うこと、でもって、そして、最終的に、日本を真珠湾攻撃へと追い込んだこととその直後のナチスドイツの対米宣戦のおかげをもって、米国民の大部分に、米国の軍事介入主義化、ひいては米国の全球的覇権国化なる、自分達の躁的妄想を共有させることに成功した。
四、先の大戦終結時にこの米国人の躁的妄想は何と実現することになるわけだが、これは、ドイツがその占領地統治が過酷過ぎたためにソ連隷下の諸民族のほぼ全てを敵に回してしまった結果ソ連に勝利できず、その一方で、日本が対英米戦劈頭に東南アジアで米英にとって予想外の大勝利を重ねたことによって大英帝国の早期瓦解が決定的になった、という二つの棚ぼた的要因によるところが少なからずある。
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<脚注:ケインズ政策断行のための合理的陰謀?>
永井俊哉(1965年 京都生まれ。88年大阪大学文学部哲学科卒業。90年東京大学大学院倫理学専攻修士課程修了。94年一橋大学大学院社会学専攻博士後期課程単位修得満期退学)
http://blog.goo.ne.jp/press_kim/e/73a870b875a704ef0fa0d8bc53282673
は、次のように主張している。
「1929年10月の暗黒の木曜日以来、深刻さを増すばかりの<米国>の大恐慌を克服するために、1933年3月に大統領に就任したフランクリン・<ロ>ーズベルトは、ニューディールと呼ばれる全体主義的経済政策を実行した。・・・
<ロ>ーズベルトより2ヶ月先に政権の座に就いたヒ<ッ>トラーが実行した全体主義的経済政策と比べると、結果は芳しいものではなかった。1933年に25.2%と最悪の数字を記録した<米国>の失業率は、ニューディール政策のおかげで1937年には14.3%にまで下がったものの、翌年には19.1%にまで跳ね上がっており、14%以下になるのは、アメリカが太平洋戦争を行う1941年以降のことである。これに対して、ヒ<ッ>トラーは、45%もあった失業率を順調に減らし、第2次世界大戦前の1939年までに、失業者数を20分の1にすることに成功した。なぜ、ニューディールは成功しなかったのだろうか。
最大の原因は、<ロ>ーズベルトには、ヒ<ッ>トラーほどの権力がなかったことに帰せられる。・・・<米国>の政治形態は民主主義であり、全体主義ではなかった。<ロ>ーズベルトは、ヒ<ッ>トラーのように大胆な公共投資が行えなかった。国内の反対派と妥協した結果、ニューディールは中途半端な形でしか実行されなかった。特に38年には、政府債務の累積を憂慮する財政均衡主義者の声に押されて、連邦支出を削減した結果、GNPは6.3%減少し、純投資も46億ドルのプラスから66億ドルのマイナスに転落した。この時、ケインズは、『ニュー・リパブリック』誌で「私の説の正しさを証明できるに十分なほどの財政支出は、戦争でもない限り不可能だ」と言ったが、この予言は的中することになる。
1939年9月、ヒ<ッ>トラーは、ポーランドに侵攻し、第2次世界大戦が始まった。そして、<ロ>ーズベルトは、ヒトラーと同様の方法で、リセッションを乗り切ろうと考えるようになる。ヒ<ッ>トラーは、ユダヤ人をスケープゴートにすることにより、資本家と労働者との19世紀的な階級的対立を解消した。おかげで、ドイツ民族は一致団結して、国家のために奉仕労働を行い、ドイツの生産力は飛躍的に増大した。・・・<そこで、ロ>ーズベルトも、国外にスケープゴートを見つけ、それを叩くことで<米>国民を一致団結させ、無制限な財政支出を可能にしようとした。そして、選ばれたスケープゴートが、日本人だった。・・・
→ローズベルトが語ったことも書いたこともないことについて、実は彼のホンネはこうだったと断定することは本来不可能なわけだが、私自身は、ローズベルトを、永井の想像するような、経済人的な合理的な人間ではなく、(米国人の過半と同じ)双極性障害的な非合理的な人間であったと見ている次第だ。
(彼は、そもそも、身体的にも障害者だったが・・。)
ただし、彼が、全球的覇権国家になるためには、高度経済成長が続くドイツと日本を、米国の経済力が両国の合計経済力を顕著に上回っているうちに叩いておく必要がある、という程度の合理的思考をした可能性は否定しない。
いずれにせよ、ローズベルトが実行したのは茶狩りであって日本人/日系人狩りではなかったことからして、彼にとってのスケープゴートはあくまでもドイツ人であり、日本人はスケープゴートとしては補欠的存在に過ぎなかった、と見るべきだろう。(太田)
<米>連邦政府の財政支出は、真珠湾攻撃があった1941年には205億ドル、42年には516億ドル、43年には851億ドル、44年には955億ドルと無制限に増えていったが、もう誰も文句を言わなくなった。そして、この挙国一致の戦争ケインズ主義のおかげで、<米国>は恐慌から脱出することができた。・・・
→以前、太田コラム上でも、それが「戦争ケインズ主義のおかげ」なのかどうかについて議論があったが、徴兵と総動員によって米国で完全雇用が達成された結果、米国民の経済心理が大いに好転したであろうことは間違いないところ、いずれにせよ、先の大戦を戦ったおかげで、米国は、遅ればせながら、ついに大恐慌を克服することに成功したわけだ。(太田)
戦争開始とともに、<米国>の日系人は・・・強制収容された。・・・<ドイツの>ユダヤ人のように虐殺されることはなかったが、<米国>でもドイツでも似たようなスケープゴート現象が起きたことは興味深い。<米国>人が考えているほど、当時の<米国>とドイツは異なっていなかったのである。」(2002年4月19日)
http://www.systemicsarchive.com/ja/a/new_deal.html
→当時、米独ともにファシストが率いていたという意味で、両国が「異なっていなかった」ことは確かだ。(太田)
最後に、ローズベルトについての関連一挿話を紹介しておく。
「1928年に、それぞれ、大学の学長とゴールドマン・サックスの金融家であったところの、ウィリアム・フォスター(William Foster)とウォディル・キャッチングス(Waddill Catchings)は、『豊富への道(The Road to Plenty)』を書いた。
・・・この本は、ジョン・メイナード・ケインズが『一般理論』を公刊する8年前に、プロト・ケインズ理論を提示したものだった。・・・
大統領になる前に、・・・ローズベルトは、<この本>を読んでいる。
大恐慌の予兆が感じられるようになる直前の1928年に、彼がこの本に行った書き込みの内容はどんなものであったか?・・・
彼は、「話がうますぎる。無から有は生み出せない(Too good to be true—you can’t get something for nothing)」と書いたのだ。
ローズベルトにとっては、不況の時に政府支出を増やせば経済全体が押し上げられるという観念は、「無から有」的なものに見えたのだ。
<このように、>ローズベルトは、最初は、<この本>の主張を信じなかったのだが、ありがたいことに、彼は、後に本件に関して進化を遂げた。
彼は1936年の大統領選のある演説で、「1933年か34年か35年に米国の予算を均衡させることは、米国民に対する犯罪であったろう。…この米国の国民所得の減少が<予算の>緊縮を生むという悪しきサイクルは、要するに破壊されなければならなかったのだ」と述べている。
ローズベルトが路線を切り替えたのは、<この本>の最大のファンの一人である、ユタ州の一銀行家<の影響だ。>・・・
その男の名前はマリナー・スタッダード・エクレス(Marriner Stoddard Eccles)であり、彼は、ローズベルトの下で連邦準備制度理事会議長になったところの、ケインズ的思考の早期の主要な支持者だった。」
http://www.slate.com/blogs/moneybox/2013/08/13/keynesian_economics_fdr_once_thought_stimulus_spending_was_something_for.html
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(続く)
日支戦争をどう見るか(その33)
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