太田述正コラム#6551(2013.11.3)
<映画評論40:インサイド・ジョブ(その2)>(2014.2.18公開)
(2)政治
「米国の<民主、共和の>二つの政党は、<この映画では、>どちらも告発されている。
『インサイド・ジョブ』は、単に、ブッシュ氏と彼の補佐官達に対して、再度遅きに失した決着をつけようというものではない。
もとより、<この映画の中で、>彼らは、無視されているどころではないが・・。
政府による監督(oversight)の規模縮小と銀行による投機的活動へのチェックの弱化はレーガンの下で始まり、クリントン政権の間続けられた。
また、この二つの政権のどちらにおいても、デリバティブ(derivative)<(注2)>の市場は拡大し、このタイプの投資の危険に関する警告は無視された。」(D)
(注2)「デリバティブとは伝統的な金融取引(借入、預金、債券売買、外国為替、株式売買等)や実物商品・債権取引の相場変動によるリスクを回避するために開発された金融商品の総称である。<そ>の原義は「派生したもの」で、金融派生商品ともいう。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%87%E3%83%AA%E3%83%90%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%96
「デイモン(Damon)<(注3)>は、はっきりと、オバマは、規制緩和を推進した金融界の幹部達を、かくも多く雇い、ウォール街の幹部達に対して刑事手続きを追求するよう連邦準備制度理事会に働きかけることを怠った、と決めつける
(注3)マット・デイモン(Matt Damon。1970年~)。米国の俳優、脚本家。ハーヴァード大中退。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%83%83%E3%83%88%E3%83%BB%E3%83%87%E3%82%A4%E3%83%A2%E3%83%B3
デイモンは、オバマの<大統領>選挙運動に加わった<人物な>のだが、最近、<オバマの>「健康保険案とアフガニスタンにおける部隊増強にはがっかりした」とも語っている。
このドキュメンタリー映画は、民主党系のセレブ達が、彼らが選ばれるのを助けた男に対してより厳しくあたろうとしている、もう一つの証なのかもしれない。」(E)
「<この映画を鑑賞すると、>レーガン(自身を含む)以降の大統領・・・全員がこの経済危機に寄与した点で有罪のように見えてくる。
もっとも、子供の方のブッシュ大統領は、デイモン達の経済観に照らし、左翼でないことから、当然、残りの諸大統領に比してより罪が重い<とされている>。
オバマ大統領でさえ、十分左翼ではないことについて有罪であるとされるのだ。
その関連で、<バーナンキ連邦準備制度理事会議長(注4)(コラム#2226、2933、3532、3677、4387、5879、6117)を留任させたこと(この映画))や、>・・・ラリー・サマーズ(Larry Summers)<(注5)(コラム#600、638、639、2940、3450、4611、5675)>とティモシー・ガイトナー(Timothy Geithner)<(注6)>を自分の経済チームに加えたこと、は偶然の一致ではないとされるのだ。」(G)
(注4)ベンジャミン・シャローム “ベン” バーナンキ(Benjamin Shalom “Ben” Bernanke。1953年~)。ユダヤ系米国人。ハーヴァード大卒、MIT博士。スタンフォード大ビジネススクールを経てプリンストン大教授。大統領経済諮問委員会委員長を経て2006年2月に連邦準備制度理事会議長就任、2010年1月再任されたが、上院で、信任投票が始まった1978年以降、70対30と最大の反対票を集めた。「FRBによる通貨の供給不足が1930年代の大恐慌の原因だとするミルトン・フリードマン教授の学説の信奉者」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%99%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%90%E3%83%BC%E3%83%8A%E3%83%B3%E3%82%AD
(注5)ローレンス・ヘンリー・サマーズ(Lawrence Henry Summers。1954年~)。米国の経済学者、政治家。クリントン政権後半期に財務長官を務めた(1999年~2001年)た後、ハーヴァード大学長を経て、2009年、オバマ政権の国家経済会議(NEC)委員長に就任(2010年末に辞任)。ユダヤ系米国人であり、いずれもノーベル経済学賞を受賞したところの、ポール・サミュエルソンは父親の兄弟、ケネス・アローは母親の兄弟。MIT卒、ハーヴァード大博士。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%AC%E3%83%B3%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%82%B5%E3%83%9E%E3%83%BC%E3%82%BA
(注6)ティモシー・フランツ・ガイトナー(Timothy Franz Geithner。1961年~)。官僚、銀行家、政治家。財務長官。「財務省で13年間勤務した経験を持ち、2003年から2009年までニューヨーク連邦準備銀行総裁を務めた。ダートマス大卒、ジョンズホプキンス大SAIS国際経済学修士。・・・オバマ新大統領に財務長官に指名されたが、国際通貨基金(IMF)に勤務していた当時、社会保障関連などの納税を怠ったことが問題視され、上院での採決は、60対34と、反対票が異例に多かった。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%A2%E3%82%B7%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%83%95%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%84%E3%83%BB%E3%82%AC%E3%82%A4%E3%83%88%E3%83%8A%E3%83%BC
→オバマが、ブッシュ政権の国防長官だったロバート・ゲーツ(Robert Gates)・・共和党員ではない・・
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AD%E3%83%90%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%BB%E3%82%B2%E3%83%BC%E3%83%84
を留任させたのは、オバマがブッシュ政権の対イラク戦争等に批判的であっただけに、イラクからの米軍の撤退を実現するためには、共和党支持層からの当たりを和らげる必要があるからだ、と私は考えていましたが、オバマが、ブッシュ時代の経済政策を担った人々、つまりは、金融危機のいわば戦犯達を引き続き登用したことについては、余り意識していませんでした。
それだけに、この映画のオバマ批判は衝撃的でしたが、このような批判は的外れであるとは言わないものの、いささか厳しすぎると思います。
デイモンは、オバマの健康保険法案を批判していますが、そんな、欠陥だらけの<国民皆>保険案・・現在は「案」がとれています・・でさえ、その施行延期を求めて、下院共和党が、政府機関の一部を閉鎖させ、すんでのところで、米国をデフォルトさせるところまで抵抗したことを考えれば、そういう事態を想定したオバマが、共和党支持層対策として、(ブッシュ時代の国防政策を担ったゲーツを登用したように、)ブッシュ時代の経済政策を担った、バーナンキ、サマーズ、ガイトナー等を、あえて登用した、と見るべきだからです。
それにしても、右には茶会、左にはデイモンような狂信的民主党支持者に挟まれたオバマに、私は同情を禁じ得ません。(太田)
(3)金融界
「良い時代が転がって進んで行った。
諸銀行は膨張した。
諸銀行は、トレーダー達に、リスクを取る豪放さ、企業への忠誠、そして神経症的に駆動された利潤追求を奨励するために、驚くべき額の諸ボーナスを提供した。
ファーガソンは、枢要なことは、銀行がCDS・・この種の保険証券群を好きな数だけ特定のリスクに対して購入することができた・・でもって悪い債務に保険をかけることが認められたことだ、と主張する。
ぞっとするのは、諸銀行が、今や、自分達自身にこの種の諸スワップでもって豪快に保険をかけていたことから、気違いじみてリスクの高い諸商品を売ることに既得利益を持つに至ったことだ。」(F)
「<すなわち、>いくつかの投資銀行家達・・ゴールドマン・サックス(Goldman Sachs)の連中が特にそうだ・・は、自分達の顧客達に推薦していた諸ポジションとは反対の賭けをするようになった。
<そして、>精巧だが不安定な構造が、消費者向け諸ローンが纏められて諸証券にされ、諸銀行によって金を支払われた格付け諸機関が健全なものとお墨付きを与え、次いで、CDSでもって保険をかけられる、という形で構築された。
<こうして、>一つ一つのリスクの高い賭けが次から次へと積み上げられた結果、後から考えれば、職、住宅、年金、そして政治的信頼、の喪失とともに、大伽藍が崩れ落ちることは不可避だったのだ。」(D)
(続く)
映画評論40:インサイド・ジョブ(その2)
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