太田述正コラム#6555(2013.11.5)
<映画評論40:インサイド・ジョブ(その3)>(2014.2.20公開)
(4)経済学者
「ビジネス界<(金融界)>と政府<(/金融行政)>に加えて、ファーガソン氏は、経済学という学問分野、及び、コンサルタント料、取締役会の席、更には少ないとは言えない著名な経済学者達が、宇宙マスターズ(masters of the universe)クラブの会員権<(注7)>によって腐敗しているということを示唆しつつ、<経済>学界への批判に狙いを定める。」(D)
(注7)masters of the universeは、全世界を風靡したエロ小説のFifty Shades of Greyの前身たるネット小説のタイトル
http://en.wikipedia.org/wiki/Fifty_Shades_of_Grey
なので、高級売春クラブの会員権の趣旨だと考えられる。
「恐らく、この映画の最も扇情的な側面は、ファーガソンの、この恐慌は経済学という学問分野それ自体を腐敗させた<・・「経済学という学問分野それ自体の腐敗も原因の一つだ」の誤りでは?(太田)・・>、との主張だろう。
米国のアイビーリーグの諸大学の著名な経済学者達が、諸銀行によって、無謀な規制緩和を追従的に支持する諸報告書を作り上げるために、徴用された。
この種のコンサルタント業に対して、彼らは巨額の報酬を受け取ってきた。
諸銀行は、学者達の名声を、そして彼らの諸大学の名声も、買ったのだ。
ファーガソンは、これらの経済学者達の多くと話をする。
彼らは、しかつめらしい顔をした(wry)冷静な(dispassionate)観察者達としてインタビューされると思っていたことが明らかだ。
お白洲に引きだされていることに気付いた彼らの顔に現れた衝撃、憤怒、そして恐怖の諸表現を見るのは、まことにもってちょっとしたものだ。
ある者は不快感を露わにしてツバキを飛ばす。
また、ある者は、フロイト的失言(slip)をぶちまける。
ファーガソンから、自分がやったことで遺憾に思っていることはあるかと聞かれた時、彼は、「私にはコメントはない…ウーム、遺憾に思っていることはない」と言ったものだ。
これぞ、ファーガソンが<この映画、>「内部犯行(inside job)」で描こうとしているものなのだ。
諸銀行と政府の上層部との間には、そして、ある程度は、大学の世界(the groves of Academe)との間にも、<天上がり、天下りの>回転ドア(revolving door)が存在する。
<そして、>銀行の頭取達が政府の役人達となり、自分達の、かつての、そして将来の雇用者達にとって都合のよい諸法を作り上げるのだ。」(F)
→米国の気鋭の経済学者達のカネの亡者的醜悪さを、直接肌で感じ取ることができるだけでも、彼らに対するインタビューを含むところの、このドキュメンタリー映画は鑑賞に値します。
こういったことの根源にある問題として、市場原理主義的で非人間主義的な米国の経済学そのものの科学性が問われなければならない、そのためにも、米国や米国系の経済学者の間で盥回し的に受賞されている、ノーベル経済学賞の廃止、いや、少なくとも、当分の間の授与停止が強く望まれる、と私は考えます。(太田)
4 ファーガソン批判
では、これら一切合財<の問題>について、一体どうすればよいのだろうか?
ファーガソンには、アル・カポネ(Al Capone)<(注8)(コラム#3074、3464、3473、3775、3945)>が脱税で摘発されたように、銀行家達がシステム的に麻薬と買春の中毒になっているという諸噂をもとに、彼らを法的に突き殺す(stick)域まで持っていくことができれば、という、ほのかに非啓蒙的な(unedifying)ヒント<こそ提示するものの、それ>以外には、答えを示していない。」(F)
(注8)1899~1947年。彼が所得税の脱税で有罪とされた話は余りにも有名。
http://en.wikipedia.org/wiki/Al_Capone
→ファーガソンが示唆するところの、投機と麻薬と買春の親和性は、映画評論子達によってもっと掘り下げた形で取り上げて欲しかった点です。
もっとも、これは、金融界にとどまらず、米国全体の問題なのかもしれません。
後ほど、再度言及したいと思います。(太田)
保守系の政治誌であるアメリカン・スペクテーター(The American Spectator)<(注9)>は、この映画は、知的に首尾一貫せず、不正確であるとし、ファーガソンが「[自分]より右の経済的・政治的諸見解[を持ったところ]の多くの悪い人々」に<一方的に>責任を負わせている、と非難した。
(注9)1960年代の学生運動の猖獗に対する対案を提示する目的で1967年に創刊。英国のThe Spectatorに類似したスタンスをとる。1990年代にクリントン大統領の不祥事の追及をしたことで有名。
http://en.wikipedia.org/wiki/The_American_Spectator
(続く)
映画評論40:インサイド・ジョブ(その3)
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