太田述正コラム#6637(2013.12.16)
<日本の暴力団(その11)>(2014.4.2公開)
 「警察は暴対法をつくっても、暴力団は警察に協力するはずと楽観視していたのです。暴力団を諸外国のように違法の存在としなかったから、暴力団はありがたく思うだろうと考えたのかもしれません。
 しかし暴力団の多くは、警察が自分たちを否定しにかかっている、生存を認めないつもりだと考え、だったら、得にもならない警察への情報提供や捜査協力はご免だと思い・・・三ない主義といわれる「警察官には言わない、警察官とは会わない、警察官は組事務所に入れない」が始まりました。・・・
 <そして、この>暴対法施行から20年、暴力団の勢力は横這いのまま。「警察はいったい何をしているんだ」という批判の声が上がります。・・・そこで<警察が>登場させたのが暴排条例なのです。・・・
 <暴排条例によって>金脈パイプを切り、孤立させる過程では当然、摩擦熱が出ます。・・・<そ>の表れの一つが<福岡で起きた>企業役員に向けた銃撃事件です。
 警察は<この>事件の発生を阻止できず、銃撃犯の検挙もでき<てい>ません。・・・
 「警察がここまで頼りないなら、自分の命を守る方が先だ。利益供与も密接交際の禁止も無視だ」と考える一般住民や企業主が出てきても不思議はありません。
 今後、暴排条例の空洞化がさらに進んでいくのではないでしょうか。」(165~168)
→ここはストーリーとしてそれなりの説得力がありますね。(太田)
 「<米国では、マフィアは衰退しつつあるところ、>メキシコの麻薬戦争はメキシコにとっても、アメリカにとっても特筆大書すべき現象ですが、これとは別に・・・<20>11年11月に公表<され>た<米国政府の>報告書によると、世界各地に駐留する米軍内には少なくとも53のギャング組織があり、それらは合成大麻や武器の密売などに従事しているそうです。・・・
→私は、この話は知りませんでした。
 ということは、当時、米国の主要メディアは電子版のHPでこのニュースを報じなかったか、少なくとも大きくは扱わなかった、ということであり、米国では、そんなことは既に常識であったことを推察させます。
 米国という国に改めて失望するとともに、その前途をますます憂えるものです。
 引用しませんでしたが、こういったことは在韓米軍でも行われているようであるところ、在日米軍も無縁とは考えられません。
 そうだとすると、なお一層、在日米軍を最小限にまで縮小させる必要があります。(太田)
 ことによると半グレ集団の登場は日本だけではないのかもしれません。・・・
 イタリア<では>・・・マフィア退治は困難を極めました。日本と同程度か、日本以上に政界中枢部などが組織犯罪集団を容認し、利用しようとする土壌があります。・・・
→溝口は、ここでは、日本にも政界中枢部などに暴力団を容認し、利用しようとする土壌がある、と言い切っているわけですが、前著の『暴力団』での記述と整合性がありません。
 いずれにせよ、もう少し具体的に日本における政界と暴力団との癒着関係を説明してくれ、と言いたくなります。(太田)
  <日本の>警察<として>は何をしていると悪評まみれになりますから、たしかに現状より組員の数は少なくなってほしいけれど、<暴力団の>完全潰滅は願っていないのです。
 なぜなら・・・暴力団が存在することで、警察は職員の数を増やし、予算を取り、キャリア、ノンキャリアを問わず、定年退職する警察官の再就職先を得られるのです。・・・
→前に記したように、このくだりの記述は、再就職先云々の部分を除き、誤りです。(太田)
 ゴルフクラブ<は>警察OBの<うってつけの>再就職先で<あり、>プレイしたがる暴力団や関係者を説得し、おとなしく帰ってもらう役などを担います。・・・
 大手パチンコチェーンや警備会社、大手企業の総務部<もまた、うってつけの再就職先です。>・・・
 <このほかにも、>暴排条例<に抵触す>ることで警察から勧告や、企業名の公表といった事態を避けたいと願う業界がごまんと存在します。・・・
 好悪に関係なく組員に接触しがちな銀行や消費者金融、クレジットカード会社、生・損保、証券、不動産仲介・販売、自動車販売、レンタカー、ゼネコンなどは今さらいうまでもなく、警察OBを迎え入れています。
 ほかにも宅配便、百貨店、スーパーマーケット、生協、弁当やピザ、鮨などの仕出し業者、印刷工業組合、ホテル、旅館、旅行代理店、広告会社、葬祭業者、神社仏閣、大手芸能プロダクション、テレビ局など、暴排条例の施行で暴力団チェックと暴力団への対応が必要となる業界が激増しました。
 こうした業界の多くが警察OBの天下り先とはいわないまでも、確実に再就職先になります。・・・
 大手放送局・・・日本相撲協会・・・プロ野球も同様です。・・・
 <また、>全国47都道府県には・・・暴追センターが・・・<あり、>全国センター<が>東京の文京区本郷に置かれています。
 こうした暴追センターは92年施行の暴対法に基づき、暴排活動の支援組織として設立されました。・・・
 <その>理事に民間人や学識者の名をベタベタ並べても、実際に仕切るのは警察OBです。警察<キャリア>OBが率いる事務局が、ノンキャリの警察OBを多数抱える仕掛けです。・・・
 他にたいていの市に民事介入暴力被害者救済センターがあります。・・・<この>救済センターも警察にとって今後有望な再就職先になると見られます。・・・
 <これは、>総会屋<や>・・・パチンコ業界・・・に対するのと同じ構造です・・・。・・・
 日本の警察は、自家繁栄のため暴力団を手段としているといえるのではないでしょうか。」(173、181~187)
→これは、ひど過ぎます。
 私なら、警察が暴力団化しつつある、という踏み込んだ記述をするところです。
 警察なる新広域大暴力団が、かつて警察の手先であったところの旧広域/地域暴力団群から守ってやるとして、ありとあらゆる堅気衆からみかじめ料をせしめる、という構図である、と。
 こういう風に指摘しない、いや、それどころか、溝口が行なっているような事実への言及すらしたためしがない、日本の政界、マスコミ界は一体どうなっているのでしょうか。
 ひょっとして、警察は、全ての政治家や新聞社/TV会社の不祥事情報を握っていて、或いは握っていることを匂わすことで、政界、マスコミ界の口封じに成功している、ということなのでしょうか。
 慄然たる思いです。
(これは、日本の警察が治安機関として機能していない、ということではないので、くれぐれも誤解しないでください。念のため。)(太田)
 「2012年6月12日、山口組若頭の高山清司<(注17)>被告が保釈保証金15億円を収めて京都拘置所から保釈出所しました。
 (注17)1947年~。「愛知県の津島市に出生。10代で暴力団の世界に加入し、弘道会の前身にあたる弘田組の傘下組織に加入した1975年に司忍と出会い、それからというもの常に司とともにあった。やがて2005年における司を首領に据えた山口組六代目体制の発足と同時に、宅見勝の暗殺以来空席となっていた山口組若頭の役に就任。・・・2010年11月18日 ― 建設業に従事する京都の男性・・・上田藤兵衛・・・に対して恐喝行為を行ったとする容疑をもって逮捕された。・・・上田と[五代目山口組組長の]渡辺芳則は30年来の旧友であったが、2005年に渡辺が引退したため、これを奇貨とした高山清司が・・・上田を子分に取り込み、それによって京都の土建関連の同和利権を掌握しようと目論んだのであろうという。・・・2013年3月に京都地裁で恐喝罪で有罪となり懲役6年の判決が言い渡された。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%AB%98%E5%B1%B1%E6%B8%85%E5%8F%B8
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B8%A1%E8%BE%BA%E8%8A%B3%E5%89%87 ([]内)
 彼は10年11月、京都の建設業者から4000万円のみかじめ料を恐喝した容疑で京都府警に逮捕され、以後、約1年半という長期間、勾留され続けました。ようやく6月6日、京都地裁で裁判が開始されたことで保釈になったのでしょう・・・。・・・
 <彼>は保釈許可が出たその日に15億円全額をキャッシュで用意し、裁判所に納付しました。・・・
 <こんなことができるのも、>富の配分が上に厚<いという点で、>暴力団の世界はとりわけ極端<だからで>す。・・・上厚下薄の根本原因は「上納」を当然とする考えに発しています。・・・
 <他方、>下の者の経済は悲惨です。今、暴力団のシノギは八方塞がりなのです。・・・
 暴対法施行から20年後の現在、暴力団犯罪では恐喝が半減し、窃盗がほぼ倍増だそうです。
 恐喝は暴力団であることを前提とした犯罪です。窃盗はどこの誰とも知られずに犯す犯罪です。罪種の変遷は暴力団が単なる犯罪者へと零落していることを語っているのではないでしょうか。・・・」(189~190、194)
→暴力団温存を図る警察の「期待」に反して暴力団が自然消滅に至る(か、悪くするとマフィア化する)可能性がある、というこの溝口の指摘に、果たして我々は、笑うべきか、呆れるべきか、といったところですね。(太田)
3 終わりに
 溝口のこの2冊を読んでいく過程で、彼の説明が、簡単すぎると思ったり、踏み込み方が足らないと思ったりを随分させられましたし、明らかに間違いだと思われる箇所もあったけれど、最終的に、彼の狙いが警察の糾弾にあることが明らかになりました。
 溝口の勇気に拍手喝采を送りたいと思います。
 そうだとすれば、彼が部落や在日、更には政治家と暴力団の関わりに殆んど触れないことや、左翼に甘いことも、少しでも余計な敵を増やさないための配慮である、という理解ができます。
 いや、暴力団そのものについてさえ、それが溝口の主たる標的ではない以上、もう少し手加減した記述にした方がよかったのかもしれません。
 現に彼は、(警察情報ですから必ずしもあてにはならないものの、)山口組系暴力団から警告的襲撃まで受けているのですからね。
 溝口による、この身を挺しての警察糾弾を踏まえて、警察の暴力団化を食い止め、その再生を図るためには、我々は、私が既に示唆したように、一、国家警察と地方警察とを分離するか国家警察に一本化する。二、国家公安委員会を廃止する。という二方策を実施するとともに、全国家公務員及び全地方公務員を対象とする恩給制度の復活、ないしは、少なくとも自衛官と警察官を対象とする恩給制度の復活を行い、警察官の天下り/再就職システムを根絶する、必要がある、と考えます。
 たとえ暴力団が自然消滅したとしても、一旦暴力団化した警察をそのままにしておいたら、警察は、必ず、新たな「シノギ」の手段を、次々に作り出すでしょうからね。(太田)
(完)