太田述正コラム#6657(2013.12.26)
<『チャイナ・ナイン』を読む(その4)>(2014.4.12公開)
「中共中央委員会政治局委員の民主選挙実施(2007年6月)という改革は実施した・・・」(211)
→「党の最高機関であ<る>・・・中国共産党全国代表大会・・・<略して>中共党大会は5年に1回、1週間ほど開催される。・・・中央委員会(略称「中共中央」、「党中央」)の委員と候補委員は、中共党大会で選挙される。委員や候補委員になるには5年以上の党歴が必要である。委員に欠員が出ると、候補委員から得票の多い順に補填される。委員に立候補するためには、党組織の推薦が必要である。推薦された者が多い場合には、予備選挙を行うこともある。・・・中共党大会と中共党大会の間の5年間は、中央委員会(さらにその一部の中央政治局、さらにその一部である常務委員会)が権限を持つ。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%AD%E5%9B%BD%E5%85%B1%E7%94%A3%E5%85%9A%E5%85%A8%E5%9B%BD%E4%BB%A3%E8%A1%A8%E5%A4%A7%E4%BC%9A
つまり、中央委員会委員の選挙権は、党大会に出席するところの、選挙で選ばれたわけではない党員が有しており、こうして選ばれた中央委員会委員達の選挙で中央委員会政治局委員が選ばれる、というだけのことであり、こんなものはわざわざ「民主」選挙と呼ぶに値しません。(太田)
「2010年、2011年と、温家宝の演説の中に「政治体制改革」という言葉が際立って多くなった。・・・
<しかし、>中共中央政治局の中にも、あるいは中国政府、国務院の中にも、温家宝が提唱する政治体制改革を具現化していく組織などは存在しないのだ。
ということは、彼は一人で提唱していることになる。・・・
<しかも、>党内序列ナンバー2の呉邦国は、全人代常務委員長として<2011年>3月10日、「多党制の政権交代、三権分立および議院両院制は絶対に実行しない」と明言している。・・・
<にもかかわらず、>温家宝は・・・罰せられ・・・ない。・・・
<私は、>胡錦濤と温家宝がタイアップしながら、役割分担をして芝居をしているのではないか–という幻想<を抱いている。>・・・
胡錦濤も温家宝も、開明的指導者であった胡耀邦の信奉者だった。胡耀邦は民主を愛し、独断で日本の青年3000人を招待するなど、親日的だった。それ故に<守旧派長老達>の逆鱗に触れ・・・て解任され、それ故に1989年4月8日に心筋梗塞で亡くなったのだ。・・・
<その>胡耀邦を中国の民、特に若者は熱狂的に支持していたので、その死を悼んでデモ行進をしたのが天安門事件の始まりだ。・・・
だから胡錦濤も温家宝も「親日」をストレートに表すことはできず、またたとえ社会主義国家の枠内であったとしてもチャイナ・ナインの中で猛攻撃に遭うような形での「民主」を叫ぶこともできない。・・・
そこで、胡錦濤は第17回党大会前年である2006年末に彼のブレインの兪可平<(注2)>に・・・本を出版させ、その中で「民主がなければ現代化はない」という言葉を書かせている。但し、この「民主」は「コントロール可能な民主」という限定句を付け加えるのを忘れてはいない。・・・
(注2)「北京大学政治学博士、ドイツ・ドゥイスブルグ大学名誉博士、<2009年2月当時>、中国共産党中央編訳局副局長、中央編訳局比較政治経済研究センター主任、北京大学中国政府革新研究センター主任、「中国地方政府改革革新奨励計画」総責任者、北京大学、清華大学などの兼任教授。米デューク大学、ドイツ自由大学などの元客員教授。主な研究分野は、政治哲学、中国政治、比較政治、管理と良治、グローバリゼーション、市民社会、政府革新」
http://www.amazon.co.jp/%E4%B8%AD%E5%9B%BD%E3%81%AF%E6%B0%91%E4%B8%BB%E4%B8%BB%E7%BE%A9%E3%81%AB%E5%90%91%E3%81%8B%E3%81%86%E2%80%95%E5%85%B1%E7%94%A3%E5%85%9A%E5%B9%B9%E9%83%A8%E5%AD%A6%E8%80%85%E3%81%AE%E6%8F%90%E8%A8%80-%E5%85%AA-%E5%8F%AF%E5%B9%B3/dp/4780302331
<その上で、>2007年10月15日に開かれた・・・党大会における基調演説で、胡錦濤は60回以上も「民主」という言葉を連呼したのだった。
その目的はただ一つ。
党内民主を一歩推し進めることだ。
<その結果導入されたのが前述の中共中央委員会政治局委員の民主選挙だったのだ。>・・・
胡錦濤–温家宝の二人芝居は、以下のような役割分担によって演じられているのではないかと私個人は思うのである。すなわち、
温家宝は海外メディアに対して<民主化>・・・を発信する役割を担う。
国内では・・・中国の民主化を海外の華人華僑が指示<(ママ)>し、それぞれの国の「国際敵対勢力」がそれを支援し、中国の若者がそれに呼応<するようなことのないよう、>・・・社会の安定と中国共産党の支配だけは揺るがせないようにするため、胡錦濤はネット言論の規制をする・・・。・・・
そういうことではないだろうか。しつこいが、これは私個人の幻想に近い分析に過ぎない。」(211、217、221~226、228)
→中共に比類なき土地勘を有し、中共当局との間に豊富な人脈を有する遠藤に、このくだりの分析を、「しつこい」までに自分の「幻想」と言わせているものは何でしょうか。
それは、この分析に彼女自身が納得していないからだ、と私は思います。
それもそのはずであり、私見では、2人は、いや、呉邦国を含めた3人は、役割分担しているのではなく、全く同じことを追求しているのです。
すなわち、遠藤が指摘するように、この2人は、胡耀邦譲りの親日家であり・・いや、恐らく呉邦国だって親日派であるはずであり、この3人は、と言い直しますが・・、先の大戦勃発直前の時点以降の、自由選挙を前提にしつつ、政治を安定的に推移させ、かつ社会を調和的に維持・発展させてきたところの、日本の大政翼賛会体制・・戦後の自社二大政党体制(55年体制)も、つい最近までの多党分立もその亜種に過ぎない・・に倣った政治体制の中共、と言うより支那、での樹立を目指しているのであり、これが彼らの「政治体制改革」なのである、と見たらどうか、と私は考えるに至っているのです。
この「政治体制改革」実現のための前提、ないしは手段が、「文化体制改革」、すなわち人民の人間主義化、であると見たらどうか、ということです。
このように考えて、初めて、3人が、実際の民主化を殆んど進展させなかった・・ここは遠藤による評価とは異なります・・理由が分かりますし、「コントロール可能な民主」、「多党制の政権交代、三権分立および議院両院制は絶対に実行しない」、に込めた意味が理解できますし、「<西側>国際敵対勢力」による西側型政治体制の推奨活動を遮断するために「ネット言論の規制」をしたことの意義も腑に落ちるというものではないでしょうか。
(「多党制の政権交代」の否定は大政翼賛会推奨であり、「三権分立」の否定は議院内閣制の推奨であり、「議院両院制」の否定は、日本型政治体制のほぼ唯一の欠陥である、参議院的な第2院の排斥でしょう。)
このように、中共前政権の3人は、阿吽の呼吸の下に、その前の江沢民政権が逸脱的に推進した反日政策の親日政策への切り戻しを鋭意行ったわけであり、この路線を現在の習近平政権も堅持している、と私は考えています。
ただし、2012年11月15日に中共総書記に就任した習近平
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%BF%92%E8%BF%91%E5%B9%B3
は、同年9月11日の野田民主党政権による尖閣3島の国有化に藉口し、かつ、同年12月末における安倍自民党政権樹立を見越しつつ、同年12月初から、尖閣問題で対日大攻勢を仕掛ける
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B0%96%E9%96%A3%E8%AB%B8%E5%B3%B6%E5%9B%BD%E6%9C%89%E5%8C%96
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AE%89%E5%80%8D%E6%99%8B%E4%B8%89
等、江沢民時代の反日政策、就中反日教育の「成果」を活用する形で、一ひねりした、芸術的とすら言える親日政策をとり始めた、とも私は考えるに至っている次第です。(太田)
(続く)
『チャイナ・ナイン』を読む(その4)
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