太田述正コラム#6669(2014.1.1)
<映画評論42:キャプテン・フィリップス(その1)>(2014.4.18公開)
1 始めに
 この映画は、もともとBeqmwjFkさんが推薦していたものです。(コラム#6582)
 そのこともちょっと念頭にあって、「永遠の0」とのダブルヘッダーで観たという部分もあります。
 さて、これは2009年4月に起こった、ソマリア人海賊達の米輸送船船長人質事件という史実に基づく映画であり、映画には脚色が付き物であるという点に配意しつつも、1人の人質を救出するために、事実上、オバマ大統領が3人もの海賊射殺を命じたことに対して、当時、私がショックを受けた記憶を呼び覚ましてくれました。
 この映画評を通じて、オバマ大統領がこのような決断を行った理由を解明したいと思います。
A:この映画のパンフレット
B:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AD%E3%83%A3%E3%83%97%E3%83%86%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%AA%E3%83%83%E3%83%97%E3%82%B9
(12月28日アクセス)
C:http://en.wikipedia.org/wiki/Captain_Phillips_%28film%29
D:http://en.wikipedia.org/wiki/Richard_Phillips_%28merchant_mariner%29
E:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BD%E3%83%9E%E3%83%AA%E3%82%A2%E6%B2%962009%E5%B9%B44%E6%9C%8812%E6%97%A5%E3%81%AE%E4%BA%8B%E4%BB%B6
F:http://en.wikipedia.org/wiki/Maersk_Alabama_hijacking 
 この事件のあらましは次の通りです。
 「2009年4月8日、<米>国籍の貨物船「マースク・アラバマ(Maersk Alabama)」号はソマリア沖を航行中に海賊に接舷され制圧された。乗員により数時間後には奪回され、この際に乗員側は[頭目(ringleader)たる]海賊1名を拘束したが、海賊側も乗員の身柄の安全と引き換えに投降した船長を拘束した。双方、人質を交換することで解決を図ろうとし、乗員たちは海賊を解放したが、船長は身代金目的の為か解放されず、交渉は失敗した。
 [海賊達4名は、船長を伴って、同号の救命艇の乗って逃走した。]
 同月8日、<米>当局は事件解決のため現場海域に駆逐艦「・・・ベインブリッジ」を派遣し、翌9日には現場海域に到着、連邦捜査局にも交渉専門家の派遣を要請した。・・・
 <米>海軍はさらに強襲揚陸艦「・・・ボクサー」とミサイルフリゲート艦「・・・ハリバートン」を現場海域に派遣し、P-3哨戒機による上空からの警戒監視も行なわれた。
 同月12日・・・ベインブリッジに乗り組んでいた海軍特殊部隊SEALsが約20メートル離れた救命艇に乗っていた海賊達を狙撃し3名を殺害、船長は無事に救出された。交渉のためベインブリッジに乗艦していた[頭目たる]海賊1名は逮捕された。・・・
 拘束された<この>海賊・・・は・・・ニューヨーク[の米連邦裁]で「国際法上の海賊行為」の罪などで裁判にかけられることになった。この際、容疑者であるアブディ・ワリ・アブディ・カディル・ムセ(Abduwali Abduqadir Muse)の年齢が15歳[か16歳]であると主張されたが、18歳の成人<(注1)>として裁判にかけられることになった。」(E。但し、[]内はFによる)
 (注1)「<米国では、>45州とコロンビア特別区が18歳、2州(アラバマ州、ネブラスカ州)が19歳、3州(コロラド州、ミネソタ州、ミシシッピ州)が21歳。選挙権年齢は一律に18歳となっている(連邦だけでなく州及び地方選挙も)。成人年齢が18歳ではない州においても親の同意なしに婚姻ができる(ミシシッピ州のみ21歳)。・・・なお、主要国首脳会議(サミット)の参加国G8の中で、成年年齢を20歳としているのは日本だけである。・・・<また、>先進国クラブと呼ばれる経済協力開発機構(OECD)の34ヶ国中、18歳に国政選挙権が与えられていないのは日本と韓国のみである。・・・<ただし、>天皇、皇太子、皇太孫については、18歳で成年となる(皇室典範第22条)」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%88%90%E5%B9%B4
 「彼は後に自分が18歳であることを認め、自分が海賊の諸嫌疑について有罪であることを認め、33年9か月の刑に処せられた。」(F)
 頭目のこの年齢を踏まえれば、射殺された3人は、全員、米国基準においても未成年であった可能性すら否定できないのであって、その彼らの年齢を確かめもしないで米当局が彼らを射殺したことで当時の私のショックは倍加されたものです。
 もとより、米国内であれば、こういったことは珍しいことではありませんし、米国籍の船の救命艇は米国内であると擬制できることを考えれば、その限りにおいては、何の問題もないのですが、何と言っても、射殺したのは公海上であり、国際的「相場」に照らしていかがなものか、とも当時首をひねったものです。
 この種の論議は当時起きませんでしたがね・・。
(続く)