太田述正コラム#6703(2014.1.18)
<『「里山資本主義」のススメ』を読む(その1)>(2014.5.5公開)
1 始めに
再び、読者のHSさん提供の本ですが、今度は、藻谷浩介・NHK広島取材班『「里山資本主義」のススメ』(2013年7月)を読んでいくことにしましょう。
なお、藻谷(1964年~)は、東大法卒、開銀(当時)入行、コロンビア大でMBA取得、日本総合研究所調査部主席研究員、日本政策投資銀行特任顧問、という人物です。(本の奥付及び下掲による。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%97%BB%E8%B0%B7%E6%B5%A9%E4%BB%8B )
2 「里山資本主義」のススメ
「「ちまちま節約するな。どんどんエネルギーや資源を使え。それを遙かに上回る収益をあげればいいのだ。規模を大きくするほど、利益は増えていく。それが『豊か』ということなのだ」・・・。
100年余り前にアメリカが始めたこの「常識」は、日本などの先進国に浸透し、その後発展途上国にも広がっていった。垣根のないグローバル経済の体制ができあがって、今や世界の常識となった。ところが、世界中が同じ常識で、同じ豊かさを追い求めるようになった瞬間、先進国が息切れを起こし始めた。これが今の経済状況だと言ってよい。」(4)
→「アメリカが始めた」にどれほどの裏付けがあるのか詳らかにしませんが、「ジョン・スチュアート・ミル(John Stuart Mill)やジョン・メイナード・ケインズ(John Maynard Keynes)は、物質的富が一定の地点に到達したならば、その後では、人々は馬車馬のような生活(rat race)を止めてより高次元の事柄に専心するようになることだろう<と言った>」
http://www.ft.com/intl/cms/s/2/83f15422-9528-11e1-ad38-00144feab49a.html#axzz1uQZ8MGtf
(2012年5月10日アクセス)からも分かるように、アングロサクソンの本家イギリスでは、いまだかつて「常識」が常識であったことが一度もなかったことは覚えておいてよいでしょう。
イギリスには、反産業主義(コラム#81)の伝統があるからです。(太田)
「日本経済が停滞している根本は「景気」ではなく「人口の波」にある、と言いあてることで、我々の目から鱗をぽろりと落としてくれた藻谷さん。今度は里山資本主義ををキーワードに・・・<して眺めてみると、>世の中の先端を走っていると自認してきた都会より、遅れていると信じ込まされてきた田舎の方が、今やむしろ先頭を走っている<ではないか。>」(17~18)
→この本では扱われていないようですが、「人口の波」ならぬ「人口の加速度的減少」をどう食い止めるか、ということが、最近は余り語られることがなくなっているのは残念を通り越して大問題だと思います。(太田)
「舞台は、岡山県真庭市<の>・・・従業員は200名ほど<の>・・・銘建工業・・・<であり、>・・・西日本で・・・最大規模を誇る製材業者の一つである。・・・
<そこに、>今や銘建工業の経営に欠かすことができない、発電施設<がある。>・・・
山の木は、切り倒されると、丸太の状態で工場まで運ばれてくる。工場で樹皮を剥ぎ、四辺をカットした上で、かんなをかけて板材にする。その際にでるのが、樹皮や木片、かんなくずといった木くずである。年間四万トン。これまでゴミとして扱われていたその木くずが、ベルトコンベアで工場中からかき集められ、炉に流し込まれる。・・・
発電所は24時間フルタイムで働く。その仕事量、つまり出力は1時間に2000キロワット。一般家庭でいうと、2000世帯分。・・・
<この会社の>工場では、使用する電気のほぼ100%を<この、いわゆる>バイオマス発電によってまかなっている。・・・それだけでも年間1億円が浮く。しかも夜間は電気<が>・・・余る。それを電力会社に売る。年間5000万円の収入になる。・・・
しかも、毎年4万トンも輩出する木くずを産業廃棄物として処理すると、年間2憶4000万円かかるという。これもゼロになるわけだから、全体として、4億円も得しているのだ。
1997年末に完成したこの発電施設。建設には10億円かかった。・・・
<しかし、>減価償却はとっくに終え十分すぎるくらい元を取った。でもまだまだ現役だという。木材は、石油や石炭で発電するのに比べずっと炉に優しく、メンテナンス業者が驚くほど傷みが少ないという。
こうして<この>会社の経営は持ち直した。時代の最後尾を走っていると思われていた製材業。しかし、再生のヒントは、すぐ目の前にあったのだ。」(27~30、32)
「実は・・・木くずは・・・発電だけでは使い切れない。そこで思いついた使い道が・・・木質ペレット<だ。>
使うには専用のボイラーやストーブが必要になるが、灯油と同じようにペレットを燃料タンクに放り込めばいいという、手軽さだ。
しかも、コストパフォーマンスがすこぶる良い。灯油とほぼ同じコストで、ほぼ同じ熱量を得ることができるそうだ。・・・
銘建工業は、このペレットを1キロ20円ちょっとで販売する。顧客は全国に広がり、一部は韓国に輸出されている。特に、お膝元の真庭市内では、・・・地元の小学校や役場、そして温水プールなどに次々とペレットボイラーを導入・・・真庭市役所では、・・・冷房にも使われている。・・・
行政の支援はそれだけではない。・・・ペレット専用のボイラーやストーブ<を>家庭や農家が買う時、補助金を出すことにしたのだ。」(33~34)
→それこそ、目から鱗って感じの話が続きますね。(太田)
(続く)
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太田述正コラム#6917(2014.5.5)
<戦争の意義?(その8)>
→非公開
『「里山資本主義」のススメ』を読む(その1)
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