太田述正コラム#6721(2014.1.27)
<2014.1.25福岡オフ会次第(その3)/『「里山資本主義」のススメ』を読む(その8)>(2014.5.14公開)
–2014.1.25福岡オフ会次第(その3)–
O:近現代における支那と日本の関わりについてだが、現在の国号である「中華人民共和国」のうち、漢語は「中華」だけで「人民」も「共和国」も日本語だ。
自然科学用語に至っては日本語ばかりと言っても過言ではない。
近現代用語の大部分が日本語だということは、現在の支那人は日本語で物事を考えていると言ってもあながち間違いではない。
これら近現代用語は幕末・維新期の日本人が欧米の用語を漢字を使った新しい言葉に置き換えたものだ。
清末から、支那の留学生達が大挙日本にやってきたが、彼らは、これらの用語を駆使して整理された形で提供された欧米の思想や科学を学び、帰国して行った。
直接欧米に行って学ぶより安上がりだし、自分達で改めて欧米の思想や科学を咀嚼・整理する手間も省けたからだ。
ところが、いつまで経っても日本に追い付けない。
それどころか、日本からどんどん離されて行ってしまった。
恐ろしいほどの回り道をした後、ようやく経済面では日本の後ろ姿が見える程度のレベルにはなったが、その他の分野では依然として話にならないくらい遅れている。
というわけで、そもそも、欧米に学ぼうと思ったところに根本的な誤りがあったのではないか、と彼らが反省した可能性は大いにあると思うのだ。
こうして、私の見るところ、中共当局は、日本を通じて学ぶのではなく、(最上位の文明を体現している)日本そのものから学ばなければならないことに気づいたんだな。
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–「里山資本主義」のススメ』を読む(その8)–
「広井教授は、持論を展開した。・・・
工業生産の時代は、・・・進<んでいる>・遅れ<てい>るという時間軸でなんでも物事を見る時代であった。しかし、成熟の時代となり、地域ごとの豊かさや多様性に段々人々の関心が向かっているのではないか・・・と。・・・
<また、>広井教授は、短期の利益しか見ない今の経済から長いスパンでの成果を評価する時代への転換<を説いていたのだが、>・・・マツタケ山再生<に取り組んでいる人々からの、>・・・「成果が出れば良し、出なくても、それもまた良し。・・・山仕事に打ち込むことの気持ちよさ、すがすがしさ。それがあればいいのです」<という>話・・・<に>感銘を受け・・・<、「>将来の成果のために今を位置づけるのが今の経済だが、それでは現在がいつまでたっても手段になってしまう。そこから抜け出さなくてはならない<」、という考えに変わった。>」(182~183)
→人間主義の実践、すなわち、自然ないし他人と人間主義的に関わること、が即仕事たりうればいいに決まっています。
それこそ、人類が目指すべき理想社会の姿でしょう。
マルクスは、理想社会(共産主義社会)を「共同の生産手段で労働し自分たちのたくさんの個人的労働力を自分で意識して一つの社会的労働力として支出する自由な人々の結合体(Assoziation)」(資本論第一巻)と形容したり、「能力に応じて働き、必要に応じて受け取る」(ゴータ綱領批判)社会と形容したりしています
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%85%B1%E7%94%A3%E4%B8%BB%E7%BE%A9
が、彼が、自分の生まれた欧州社会、及び、理想社会をイメージする手掛かりとなる相対的先進社会としてのイギリス、しか詳細には知らなかったことから止むを得ない面があるとはいえ、彼の、所有形態とか物質的報酬といったものに囚われた発想、というか、想像力の欠如、に憐憫の情さえ湧いてきます。(太田)
「国際経済のマクロ分析が専門の、浜矩子<(注15)>・同志社大学教授は、・・・グローバル社会を「ジャングル」に見立てた説明<を行い、>我々の「弱肉強食の生存競争しかない」という固定観念を・・・打(ぶ)ち壊した。・・・
(注15)1952年~。一橋大経卒、三菱総研を経て同志社大教授。「2011年1月に「2011年は1ドル50円時代が到来する」と予測し、・・・2013年11月時点でも超円高予想は「全く変わっていない」としている。・・・アベノミクスにより円安が進み、「日本経済が復活した」と騒ぐのは許しがたい状況であると批判し、・・・輸出企業の業績が上がっても、雇用が増える、賃金が上がるということに結びつくかどうかわからない。むしろ、円安を進めていくと、資源・材料などの企業の輸入コストが上がり、その中で価格競争力を維持しようとすれば労働者の賃金が下がることにもなりかねない述べている。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B5%9C%E7%9F%A9%E5%AD%90
ジャングル<に>は、・・・百獣の王のライオンさんから小動物たち、草木、果てはバクテリアまでいる。強い者は強い者なりに、弱い者は弱い者なりに、多様な個性と機能を持ち寄って生態系を支え・・・シェア<し>・・・ている。これがグローバル時代だと思います」<、と。>」(183~184)
→マクロ経済分析に関することで極端な見解を抱いている「学者」の「見識」など、藻谷は援用すべきではありませんでした。(太田)
「「食料自給率39%」の国に広がる「耕作放棄地」<(注16)>・・・
(注16)「農作物が1年以上作付けされず、農家が数年の内に作付けする予定が無いと回答した田畑、果樹園。世界農林業センサスで定義づけられている。世界的の視点によれば、耕作放棄される要因は水不足や自然災害、戦乱などがあげられるが、日本の場合は農業後継者不足が大きな要因となる。日本の耕作放棄地は、2005年の農林業センサスよれば386,000ha。耕作が行われなくなっても、農業委員会に用途変更の手続きが行われる例は少なく、日本の耕作放棄地の多くは農地の名目のまま原野化、森林化の道をたどる。日本では耕作放棄地を放牧地に転用する試みが見られる。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%80%95%E4%BD%9C%E6%94%BE%E6%A3%84%E5%9C%B0
→全球化した時代において、食品を含むいかなる産品についても、経済的観点からは、自給率を云々することに余り意味はありません。
もとより、安全保障的観点からは、非友好国や潜在的に政情不安を抱える国等に、特定の食品ないし当該食品の生産のために必要な原材料等(肥料や農薬を含む)を依存し過ぎることには問題がありますが・・。(太田)
日本有数の耕作放棄地帯に属する島根県の山あいで、・・・洲濱正明さん、29歳<は>・・・耕作放棄地を借り、牛を放している。・・・
牛は、穀物を一切食べていない。でも乳は出る<し、>・・・飲んでみると驚くほど濃厚だ。・・・
耕作放棄地はただで貸してもらっている。どうせ使っていないのだから、どうぞ。しかも草刈りの手間まで省けて好都合、というわけだ。・・・
もちろん、日本中の酪農家が、洲濱さんのようにするわけにはいかない。それでは日本全体の<牛乳(注17)の>需要はまかなえないだろう。だが、酪農が当然のこととしている常識は、疑ってみる必要があると思うのだ。
(注17)「牛乳は生鮮食品なので輸入に頼ることが難しい食品で」あることもあり、「牛乳の自給率は100%<であり、>・・・乳製品を含めた場合でも66%の自給率とな」っている。
http://www.zennoh.or.jp/milk/chisiki09.htm
しかし、牛の飼料の大きな部分を占めるトウモロコシについて、自給率は、何と0%であり、
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1050635735
バイオマスエタノールの需要の急速な増大に伴い、その価格が急騰している。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88%E3%82%A6%E3%83%A2%E3%83%AD%E3%82%B3%E3%82%B7
例えばそのひとつが、「穀物を食べさせないと濃い牛乳は生産できない」ということだ。・・・
「牛乳の価格をおさえないと売れない」という常識もあやしい。洲濱さんの牛乳は、市販の5倍もする。でも売れる。・・・
価格だけをバロメーターとし、大量に作って単価をおさえ、売れなければ牛乳を捨てて市場のだぶつきを回避するという、なんともいたたまれなくなる経済の常識は、そこにない。
洲濱さんは、さらに大胆な「常識破り」を始めている。自然放牧では避けられない「毎日牛乳の味が変わること」を強みにしようというのだ。・・・
私たちは「均質なものをたくさん」以外の価値観も持ち合わせている。ワインなどの世界では、他にない特徴を持つものが少量あることに価値を置く。「ビンテージもの」と名付けて。その価値観を牛乳に持ち込<んだ>・・・だけのことなのだ。」(185、188~191)
→「飼料」を含めて国産率100%の牛乳、という点だけでも注目されるべきでしょう。ただし、いささかお値段がはり過ぎますが・・。(太田)
「島根県邑南(おおなん)町が開発した、町観光協会直営のイタリアンレストランで働いている<、>耕作放棄地を使って農業をしながら、そこでとれた野菜を自分で調理して、客に出す・・・若い女性たち。<彼女たちは>「耕すシェフ」と呼ばれている。・・・
彼女たちは、もともと農業に詳しくない。というより、素人に近い。・・・
都会から・・・移住してきた<彼女たち>に、地元の人は驚きの声をあげたという。・・・
松江市郊外の耕作放棄地で、最近面白いことが起きた。素人たちが楽しそうに耕す姿を見て、プロ農家のやる気が復活したというのである。」(192~193、195)
(続く)
2014.1.25福岡オフ会次第(その3)/『「里山資本主義」のススメ』を読む(その8)
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