太田述正コラム#6737(2014.2.4)
<日進月歩の人間科学(続x36)>(2014.5.22公開)
1 始めに
NYタイムスに、社会が不平等だと、その社会の全員が不幸になり、また、精神障害者も増える、という最新の研究がまとめて紹介されている記事が載りました。
http://opinionator.blogs.nytimes.com/2014/02/02/how-inequality-hollows-out-the-soul/?_php=true&_type=blogs&ref=opinion&_r=0
そこで、さっそく、その孫紹介を行いたいと思います。
2 不平等・不幸・精神障害
「・・・社会的序列(rank)をもっぱら処理するところの、特定の脳の諸部位及び神経的諸メカニズムが存在する。・・・
先進諸国中、富者と貧者の間に所得格差がある諸社会においては、<そうでない諸社会に比べて、>主要ないし些細な精神諸疾患が3倍も多い。
換言すれば、米国人は、日本やドイツの誰かさんに比べて、鬱や不安の諸問題を抱える人々が3倍多い可能性が高い、ということだ。・・・
<また、>統合失調症についても、不平等な諸社会がより平等な諸社会に比べて約3倍みられることが・・・発見された。・・・
躁やナルシシズムといった精神医学的諸状況は、我々の地位と権勢(dominance)への邁進(striving for)と関係しているし、不安や鬱といった諸障害(disorder)は従属(subordination)の経験への諸反応とからんでいるのかもしれない。
同様、社会的諸階統と取り組む諸圧力が反社会的人格障害や双極性障害といった諸状況の背中を押しているのかもしれないと・・・示唆する<学者もいる。>
仮に諸精神病が権勢及び従属と関係しているとすると、ナルシシズムのような諸障害が社会的階統の頂点においてより多くみられ、また、その他の、例えば鬱のようなものは、底辺においてより頻繁に起きる、と思われるかもしれない。
しかし、全体像を踏まえれば、話はもっと複雑だ。
社会的梯子の低い方で鬱がより多くみられることは事実だが、鬱は全てのレベルにおいて存在している<からだ>。
敗北ないし失敗の感情を免れている者は殆んどいない、というわけだ。
同様、階統のいかなる所においても、人々はナルシシスチックたりうるし、権勢に邁進しうるのだ。
ただし、より高い地位は、実のところ、より非倫理的かつナルシシスチックなふるまいと結びついている(be associated with)ことを<別のある学者が>示している。
<また、更に別の学者は、>より高価な車の運転者達は、歩行者や他の車に、より道を譲らない傾向があることを発見した。
<また、>より高い地位の人々は、子供達のためのものであると聞かされていた<にもかかわらず、その>キャンディー群をより沢山食べてしまう傾向がある、と。
<この学者は、>彼らがより強い特権意識を持ち、より気前がよくないことも発見した。・・・
人々の所得と彼らが自分達が属していると感じる社会階級との間に若干のつながりはあるわけだが、この二つの合致度は、富者と貧者の間により大きな所得格差がある場合は、より高い。・・・
より大きな所得格差がある諸国においては、地位がらみの不安(status anxiety)が社会階統の全レベルにおいて、より多くみられる。・・・
自分自身について実像より大きく見せる傾向であるところの、自己高揚化(self-enhancement)ないし自己富強化(self-aggrandizement)は、より不平等な諸社会においてより頻繁に生じる。・・・
人間は、本能的に、いかに協力し、社会的諸紐帯を創るかを知っているけれど、我々はいかに地位を巡る競争に従事するか・・いかに俗物(snob)になったり自分自身を売り込む語りを行う(talk oneself up)か・・も知っている。
我々は、この二つの選択肢たる社会諸戦略を殆んど毎日我々の生活で用いているが、決定的に大事なことは、不平等がこの二つの間の均衡を傾かせることだ。
<すなわち、>より不平等な諸社会においては、我々はよりいい人々でなくなるという結論を回避することは困難なのだ。
しかも、<より不平等な諸社会においては、>我々はよりいい人々でなくなるだけでなく、より幸福でない人々になってしまうのだ。」
3 終わりに
金持ちになること(、いや、それ以前に、カネに執着すること、或いはまた、権力者になったり権力に執着すること)は、人を(私の言葉で言えば)非人間主義的にする、という人間科学の最近の発見については、以前に既に紹介したことがありますが、改めてお釈迦様の洞察力の鋭さに舌を巻きます。
(それを、イエスはより極端な形で言っていますが・・。)
しかも、今回、初めて紹介したように、非人間主義的になるのは金持ち(権力者)だけでなく、富者(権力者)と貧者(非権力者)の所得(や資産、そして権力)格差を悪化させることを通じて、当該社会構成員全員の非人間主義化をもたらす、というのですからね。
これは回りまわって、一層の所得(資産、そして権力)格差と社会全体の非人間主義化を促進させることになるのではないでしょうか。
その結果が、当該社会の全階統にわたる精神障害者ないしその気(け)のある人の増大だ、というのですから、目も当てられません。
なお、私は、キリスト教社会においては、本来的に双極性障害者ないしその気のある人が多いのではないか、と考えているところ、典型的キリスト教社会である、米国社会が、現在に比べてより平等であった、例えば、先の大戦後間もない時代に、果たして、現在よりも、精神障害者、就中双極性障害者が顕著に少なかったかどうか、疑問に思っています。
データが得られればいいのですが・・。
日進月歩の人間科学(続x36)
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