太田述正コラム#6745(2014.2.8)
<『「里山資本主義」のススメ』を読む(その10)>(2014.5.26公開)
「広島県庄原市・・・の社会福祉法人の理事長、熊原保さん・・・は和田芳治さん<(前出)>の近所に住み、「過疎を逆手にとる会」の主要メンバーのひとりとしてがんばってきた方でもある。・・・
熊原さんは、地域のお年寄りが集まるデイサービスセンターなどに<することで>、空き家の活用を進めている。・・・
「福祉も過疎問題も同じなんですよ。・・・ハンデのある人、地域。マイナスの多い人、地域。それを弱者とは、私は思ってないんです。実は玉手箱のように光輝くものがあると思ってるんですね」・・・
なんというプラス思考だろう。・・・
熊原さんは、法人の施設が支払ってきた年間1億2000万円の食材費のうち、1割分を<地域の>お年寄りの<家庭菜園の>野菜などでまかなう目標をたてた。提供してくれたお年寄りには、対価として地域通貨を配る。お年寄りは、それを高齢者施設でのデイサービスや、社会福祉法人が経営するレストランなどで使えるようにした。・・・
<この地域通貨が使える>レストランは・・・敷地の隣に保育園が併設されているのだ。・・・
朝、いつものように見られる保育園の登園風景。ところが、子どもを送り届けた母親の一人は、そこから隣の建物にダッシュする。彼女は、レストランの調理場で働いているのだ。
中国地方の山あいでは、たとえ意欲はあっても、子育て中の母親が、ちょうどいい仕事を見つけるのは容易なことではない。そもそも就職先が少なく、パートタイムも限られる。遠かったり、時間があわなかったり、周りの目も気になったり。熊原さんは、そんな母親に理想的な働く環境を作りたかった。・・・
もちろんレストランでの雇用はたった2、3人に過ぎない。しかし、世の中へのメッセージ・・・の発信が大事なのだ。・・・
<そもそも、>このレストランは、もともと経営がうまくいかず、廃業した店を買い取って改装された<ものだ>。・・・
近所のお年寄りは、たまにこの店でランチをし、普段はなかなか会わない少し遠くに住む友達と過ごす時間を楽しみに<するようになった。>・・・
楽しみは、これだけでは終わらない。希望すれば、隣の保育園で子どもたちと遊ぶことができるのだ。・・・
考えてみれば、みんな何人もの子どもを育ててきた大ベテラン。単にお年寄りが楽しいばかりでなく、子どもにとっても保育園にとっても、大助かりな仕組みなのだ。・・・
これまで我々が発達させてきた社会は、様々な立場の個人を分断し、問題ごとに解決策を講じ、お金をかけて解消していくという道筋をたどってきた。老人も、子どもも、働きたいのに子どもが預けられない主婦も、みんな弱者として扱われる。でも、単体では弱者に見える人も、実は他の人の役に立つし、その「お役立ち」は互いにクロスする。クロスすればするほど助かる人が増え、それまで「してもらう負い目」ばかり感じてきた人が「張り合い」に目覚め、元気になっていく。気がついてみれば、孤立していたみんながつながっている。・・・
しかも、かかるお金は課題ごとに講じる「対策費」より格段に少なくてすむ。これこそ、私たちが目指すべきアプローチではないか。
さらにいえば、このレストランでは、すぐ近くで取れたばかりの新鮮で安心な無農薬野菜を、当然のように使っている。
この仕組みでは、施設の障害者も活躍している。・・・お年寄りの家を回り、野菜を集めるチームに入っては、行く先々でお年寄りから「ありがとう」と声をかけられる。<行き先の家庭菜園の>大きなダイコンを抜いては、「力持ちだね」とほめられる。レストランの給仕がかりも何人かが交代でこなす。・・・
熊原さんは隣の保育園で、彼らが給仕の仕方を子どもたちに教える機会もつくっている。・・・」(207~209、214、217~223)
→国家公務員や地方公務員、とりわけキャリア国家公務員、を座敷牢のような天下りシステムから「解放」して、里山資本主義的なものに参画できるようにしてあげられるといいのですが・・。(太田)
「<考えてみれば、>日本は、アメリカが牽引した20世紀にあっても、実は「アメリカ型のマッチョな資本主義」とは一線を画す姿勢で戦いに打ち勝ってきた。・・・
日本は、ただ小さいだけでなく、使用するガソリンを極限まで抑え、有害物質を極限まで出さない車を開発していくことで、<アメリカという>王者の足元を脅かして<行った。>
アメリカが目指したものと一線を画したのは、完成品としての「製品」だけではない。「作り方」でも、しなやかさ、繊細さを発揮し、世界をリードしてきた。・・・
ビジネスや技術の最先端を切り拓こうとする日本人の多く<にとっては、>・・・儲け以上に「理想」が大事なのだ。自分の目指す「人として、地域として、国としての生き方」を実現するためのビジネスや技術でありたいのだ。・・・
<このところ、これらの人々が追求しようとしているものの一つが、>都会のスマートシティ<であり、これは、地方の里山資本主義の都会版と言ってもよい。>・・・
人口減少の問題も、無縁社会の問題も、エネルギーや食が自給できない問題も、さらには次の国際競争を担う産業が生み出せない問題も。現代日本がかかえる様々な問題を、この車の両輪が解決していくのではないだろうか。」(243、248~249)
→ボトムアップの里山資本主義とスマートシティ、及び、トップダウンのクールジャパン、の全てを包摂したものの中核となる概念、ないし運動体が欠けていると思います。
さしずめ、私の掲げる、和辻哲郎譲りの人間主義がその概念、太田コラム・コミュニティがその運動体の原初形態である、と妄想したいところです。(太田)
(続く)
『「里山資本主義」のススメ』を読む(その10)
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