太田述正コラム#6755(2014.2.13)
<個人主義の起源(その10)>(2014.5.31公開)
ここまで、さぞかし、ややこしくて頭を抱えた方も多かったことと推察します。
そこで、快刀乱麻を断つ意気込みで、私なりの総括をしたいと思います。
ここから先は、私の推測の部分が多く含まれています。
ですから、誤り等を発見された方は、どしどし指摘していただければ幸いです。
ゲルマン人の土地所有は、一般に、私有制が主、共有制が従だった。(推測)
ケルト人の土地所有は、一般に、共有制が主、私有性が従だった。(推測)
テュートン人はケルト人だったのであり(少数説)、封建制はテュートン人の土地所有制、就中土地共有制を踏まえてローマ法の下で構築された(史実)。
ゲルマン人は、5世紀における欧州大陸におけるローマ帝国領への本格的な侵入・移住の後、ローマ化し、西ローマ帝国に代わって、西欧の支配階級となるとともに、土地所有制として封建制を採用した。(史実)
プロト欧州文明、及び欧州文明の階級制/集団主義はここに由来する。(私見)
他方、大ブリテン島の原住民たるケルト人(正確にはケルト化したバスク人(通説))、すなわち、ブリトン人の土地所有は共有制が主、私有性が従だった。(推測)
欧州大陸の低地地帯を原住地とするアングロサクソンはゲルマン人だった。(史実)
アングロサクソンの大ブリテン島移住に伴い、引き続き同島居住者の大部分を占めたところの、ブリトン人は、アングロサクソン化していった(通説)が、土地所有制に関してても、キリスト教化の表見的進展をダシにする形でブリトン人の間でアングロサクソン化(ゲルマン人化)が進み、イギリスにおいては、(実質的な)私有制が主、共有制が従となった。(推測)
ノルマンコンケストによって、イギリスに封建制が導入されたが、土地所有に関して、私有制が主、共有制が従、という基調は維持された。(史実)
さて、推測部分の正誤に関わらず、以上から言えることは、イギリスでは、少なくともアングロサクソン時代(6世紀初~11世紀央)以来、当時における最大の生産手段であった土地に関し、私有制が主であって、私有地に関しては、移転、遺贈の自由が認められていた、ということです。
これは、私が前から指摘しているように、イギリスが、少なくともアングロサクソン時代から、生産手段の私有及び移転の自由が確保されている社会であったこと、つまりは資本主義社会であったこと、を意味するのであり、アングロサクソン(ゲルマン人)由来の個人主義が、イギリスにおいて、現代にまで維持され続けることがこのような形で担保されてきた、というわけです。
4 終わりに代えて
終わりに代えて、イギリスの個人主義の、アングロサクソン文明全体の中での位置づけを展望すべく、ウィル・セルフ(Will Self)による、イギリス論コラムの抜粋をご紹介し、私のコメントを付すことにしましょう。
ご承知のように、イギリス人は自らを語ることが稀なので、このようなコラムは貴重です。
もちろん、イギリス人がこの種のことを語る時には韜晦が付き物なので、注意が必要ですが・・。
「19世紀末から20世紀初にかけて固められたところの、核心的なイギリスのアイデンティティを見出すことができる。
それは、直近の激動の100年間を通じて見事なまでに強靭であり続けた。
また、それは、それをもたらしたところの原初的諸要素が見分けがつかないほど変化してしまったにもかかわらず、そのままの形で維持されている、とのあらゆる兆候を示している。・・・
(<政府と>顕著に関わりをもたず、同時に、<政府から>十全に報告を受けるところの)国家元首の付加的な(supervening)政治的智慧、(我々はイングリッシュ・ヘリテッジ(English Heritage)<(注21)>を持っているのに対し、米国は原野(wilderness)<協会(注22)>を持っている<点に象徴されているように>、それがパラドックス的に人為的性格と結び付いているところの)太古の昔からの田舎の美しさ、<(中断。後は次回)>
(注21)「<イギリス>の歴史的建造物を保護する目的で英国政府により設立された組織。ストーンヘンジのような考古学遺跡から、アイアンブリッジなどの産業遺産に至る広範囲にわたる建造物を扱っている。」このほか、「公的自然保護機関であるイングリッシュ・ネイチャー (English Nature) 」がある。なお、「ナショナル・トラストは同様の趣旨で設立された団体であるが、・・・政府が活動に関与しない私的団体である。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%83%AA%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%A5%E3%83%BB%E3%83%98%E3%83%AA%E3%83%86%E3%83%83%E3%82%B8
(注22)The Wilderness Society。米国で1935年に設立された原野保護団体。現在全米で1億1000万エーカーの地を保護している。
http://en.wikipedia.org/wiki/The_Wilderness_Society_(United_States)
(続く)
個人主義の起源(その10)
- 公開日: