太田述正コラム#0240(2004.1.26)
<地政学の不毛性(その2)>

2 地政学の不毛性

 それでは、Fettweisの指摘に、私の見解を織り交ぜつつ、地政学の不毛性を論証しましょう。

 (1)地政学の終焉
 地政学にとって致命的なのは、ランドパワーの優位性が今やエアーパワーの優位性にとって代わられてしまったという点です。マッキンダーだけ19世紀生まれで世代が違うのですが、マッキンダーを含め、ハウスホーファーもスパイクマンも、エアーパワーの優位性が日本帝国海軍によって明らかにされた直後に相次いで亡くなっていることは暗示的です。
 エアーパワーの特徴は、陸のいかなる障壁によっても妨げられることがないところにあります。
 その後、全天候戦闘機が生まれ、ミサイル時代が到来し、更には航空機の航続距離が著しく延び、航空機が世界のどこへでも出撃して世界のどこの基地へでも戻って来ることが可能となり、エアーパワーの優位性が完全に確立しました。
 つまり、地政学(geopolitics=geography+politics=地理(学)+政治学)の「地理」によって制約をうけないパワーであるエアーパワーの優位性が確立したということは、「地」政学の終焉を意味する、ということです。
 地政学は、生誕後、わずか40??80年で寿命が尽きたわけです。

 (2)地政学の内在的批判
 さりとて、寿命が尽きる前までは地政学は有効だった、というわけでもありません。
 そもそも、要衝を占め、内線の利を活せるからといって、必ずしも有利であるわけではありません。ドイツにせよ、ロシアにせよ、それぞれ欧州亜大陸とユーラシア大陸の中央に位置していたことから、四方八方から敵に攻め込まれ、辛酸をなめたことの方が多いのです。

 また、地政学が新大陸を真正面から考慮に入れていないことも問題です。
 仮にある国が世界島(ユーラシア+アフリカ)全体を征服したとしても、それでも新大陸にまで更に食指を伸ばすことは至難の業だったはずです。

 地政学が、シーパワーとランドパワーの間で敵愾心を煽り立てがちだった点も問題です。(ニール・ファーガソンが第一次世界大戦への英国の参戦の必要性に疑問を投げかけていることを思い出してください(コラム#208)。)
 これをより一般化して申し上げると、国際政治の実態が複雑怪奇であるにもかかわらず、地政学の偏光メガネをかけるとこれが過度に単純化されて見えるため、政策決定者が地政学を信奉していたり、世論が地政学の影響を受けていたりすると、その国が対外政策に係る判断を誤る惧れがあった点が問題なのです。
 
 (3)地政学遡及適用の無意味性
 最後に、地政学を、地政学生誕以前の歴史の分析に用いることができるかどうかを考えてみましょう。
 そもそも、(2)でご説明したことからして、地政学誕生から終焉までのわずか40??80年間の短い期間ですら、地政学はものの役に立たなかったのですから、それ以前の時代に地政学を遡及的に適用してみるだけ野暮というものです。

3 残された課題

 それはともかく、地政学誕生以前は、果たして本当にマッキンダーが言うようにシーパワー(海軍)優位の時代だったのでしょうか。仮にそうだとしても、いつ頃から海軍優位の時代が始まったのでしょうか。(イギリスを含む)欧州以外の地域においてはどうだったのでしょうか。
 これは、将来の別稿にゆずることとしましょう。

(完)

785 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 :04/01/29 03:30 ID:WNdNAOaT
http://www.ohtan.net/
太田述正ホームページ

地政学批判があるです。
このスレの死亡宣告だす。さようなら。ありがとう。
786 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 :04/01/29 03:33 ID:4hCVuIRD
ん、キミは醤油使うなよ
787 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 :04/01/29 14:58 ID:hiriohgB
地政学が有用か不毛かは重要ではなくて、
地政学という考え方を元に行動している国が多いという事実が重要。

例えばカトリックの学者が日本を研究するのに、神道や仏教は
劣っているから研究しなくてよい、考慮しなくてよい。
と主張しているのと同じ。
788 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 :04/01/29 15:52 ID:68I/ni2c
>785

ランドパワーやシーパワーを、単純に軍事力だけの話と思っている時点で駄目駄目。
航空機がどんなに進歩しようとも、海上運輸の優位性は揺らがないのに。

789 名前:名無しさんお腹いっぱい :04/01/29 17:01 ID:DwtK6DU1
地政学=稚凄学
江田島必死だな(笑
http://66.102.7.104/search?q=cache:ssWiwoKPlXEJ:society.2ch.net/kokusai/+%E5%A4%AA%E7%94%B0%E8%BF%B0%E6%AD%A3&hl=ja&lr=lang_ja&ie=UTF-8

<F氏>
・・・米国のドルが基軸通貨を維持するか、欧州のユーロが基軸通貨の位置を奪い取るかの戦いで、これにより経済支配や世界の支配体制が大きく違うことになる。グローバル的な現在の経済状況では世界覇権は、金融制度を制することが世界を制することであるから、基軸通貨の支配はもっとも重要なことである。この意味では昔の地政学は時代遅れになっている。冷戦以前の地政学の限界を知るべきである。地政学から地経学へ現代は移行している。

地経学では「基軸通貨を制する者が、世界を制す」??????国際戦略コラムF
ですよ。

そして、この見方を日本はしないために、日本が世界覇権を取れないし、何の見解も無く、日本は円介入してドル維持に走ってしまうのですね。この重要さも見えない。米国に対して、交渉力ができるのに、それもしていないようである。

この基軸通貨はその流通範囲が重要であり、このため、ロシアと中国をどちかの通貨圏にできるかを欧米が争っているのですよ。特にロシアや中東の石油代金の決済をユーロにするかドルのままにするかの戦いですよ。

山本さんは経済的見方ができないために、おかしな見解になっているように感じる。戦闘能力では断然、米国が欧州や中ロより上ですし、その面では、米国は今後当分、軍事覇権(幕府体制)は続くはずです。欧州とロシア・中国が束になっても米国に軍事的には勝てない。

純粋に経済面でドルに魅力を感じなくなっているのが問題なのです。よって米国の問題ですよ。そこを狙って、ソラナやシラクは対米戦略を練っているように感じる。パウエルやグリーンスパンや米国金融資本のユダヤ人たちも、欧州との金融戦争を恐れているのです。

このため、シラクが中国で日本非難をした首相に謝罪させたのも、世界第2位の経済大国日本の動向も、この通貨戦争に大きなインパクトがあるためですよ。どちらにしてもこのため、日本が欧米の仲介をできるわけがない。

地政学より地経学をもう少し研究した方がいい。山本さん、近代地政学を網羅している本物の地政学・国際戦略研究家の奥山さんの本「地政学」をお読みください。スパイクスマン以降の地政学がわかりますよ。

太田述正コラム#239(2004.1.25)<地政学の不毛性>についても、意見がある。これは下記サイトに元本があるので見て欲しい。
http://www.ohtan.net/column/200401/20040125.html#0

地政学の見解は、私Fの見解と同じようであるが、新しい地政学が出てくる可能性があると見ている。エアーパワーや経済的な面を見た理論であり、主に米国の国際関係学からの地政学議論が面白い。

物資の輸送の安全確保、人を運ぶ航空機の安全確保と経済の根本である金融取引の安全確保、インターネットなどの情報網のコントロールをだれが行うか、どの通貨で行うかの戦いになるのでしょうね。

この論理構造を明らかにすることが重要なのですが、地理的要素も大いに関係していると感じる。地経学になるかもしれないが。
太田さんも奥山さんの「地政学」を読むべきです。最新の地政学の方向が分かるはず。あまりにも日本の地政学のレベルが低すぎるのです。最新動向も知ら無すぎなのですよ。そして議論している。
ここが大間違いである。

地経学の基本は円、ユーロやドル通貨の流通圏の争いである。日本が東南アジアを円圏にする構想を壊したのは米国ですが、その米国金融関係者が東南アジアで通貨暴落を仕掛けて、東南アジアはドル圏から円圏にシフトしようとしている。中国はドルリンクであるため、現状はドル圏ですが、ユーロに靡いている。

ロシアの石油決済をドルからユーロにしようとしているため、米国パウエルはロシアとの協調外交が破綻すると、警告している。この議論は来週にしよう。

(以上、http://www.asahi-net.or.jp/~vb7y-td/160201.htmより)